第43話 未来と未来の為の戦争 11

黄金の髪を風で揺らし、瞳の先には変化が居た。しかし、シャロンと変化の距離は遠い。シャロンは変化の事を認識しているが、変化はシャロンを認識していない。最初の攻撃を一方的に可能なチャンス。それを見逃さない。


「第十三武装、簡易展開。タイプONE、白雪ウィートリッド


スキル『武装』により、スナイパーライフルを召喚する。スコープを除き、変化の頭部を確認する。魔力を普段撃つ時よりも多く含む。これで変化の命を絶たせる事ができる、などシャロンは思ってはいない。しかし、より大きなダメージを与える為に頭部を狙う。


シャロンの指が、スナイパーライフルの引き金に指を置き、引いた。スナイパーライフルから音は鳴らなかったが、無事に銃弾は発射された。その消音具合は凄まじく、人が開発した銃に搭載しているサプレッサーですら、耳に運ぶ。そんな十二狂典でも聞こえなかった。


弾丸が変化の頭に直撃しようとする一歩手前の瞬間に気づき、頭部に魔力を巡らせて防ごうとする……が、銃弾はその防御している魔力すら壊して頭部に当たる。頭の中で止まるどころか、頭蓋骨、脳を貫通して外に飛び出た。


この程度の攻撃では、変化が死なないのは想定済みだった。けれども、あまりのタフさに分かっていてもため息を吐いてしまう。スナイパーライフルをスキル『武装』に内包されている『武具倉庫』に収納する。そして白雪を取り出した時と同じように、新たな武器を召喚する。


「第十五武装、簡易展開。タイプONE、叛逆クリウェスタ


先程の全面白の白雪とは違い、今回『武具倉庫』から取り出したスナイパーライフルは全面赤に染まっていた。移動をし、空中を跳びながらの遠隔射撃、断じて簡単なものでは無い。しかし、シャロンにはその至難の業さえも、簡単な業に移り変わる。


白雪のような貫通に特化したスナイパーライフルでは無く、撃墜力、つまり衝撃による攻撃に特化したスナイパーライフルであった。白雪も、叛逆も、ヘイランによって作られた超高性能スナイパーライフルにスキル『武装』を上乗せにしている為、威力は通常と比べると段違いである。


再度弾丸が直撃した変化は、片腕が吹き飛んでいた。叛逆の弾丸を喰らって、片腕の欠損だけで済んでいるのは流石十二狂典、と言った所だろうか。スナイパーライフルを先程と同じように『武具倉庫』に収納しながら移動をしていると、叛逆の弾丸を撃った時の場所に魔法が飛んできた。


冷や汗が頬から垂れる。弾丸を受け、シャロンが居るであろう場所を把握したのだ。即座に移動をした事で魔法を受ける事は無かったが、動かなければ相当なダメージを与えられていただろう。十二狂典の中で一番の防御を持つ再生程のものは持ってい無いが、二番目の防御力を持っている変化だからこそできる芸当だろう。


変化がシャロンに向かって魔法を連続放射する。一先ず、どのような魔法か確かめる為に空気を蹴り、避ける。しかし、一度避けても追いかけて来る。その魔法の行動によって、この魔法の種類は広範囲追尾型だと理解ができた。


その追尾型魔法を壊す為、シャロンは新たな銃武器を召喚する。先刻に『武具倉庫』から取り出したスナイパーライフルのような遠距離型の銃では無い。その銃は近距離型の銃だ。


「第二武装、簡易展開。タイプTWO、禁戒クーフォ刹那オーロミック


禁戒、刹那の形としては、西部開拓時代に使用されていた回転式拳銃リボルバーである制式名M1873、正式名称コルト・シングル・アクション・アーミーである。この二丁の銃は魔力で動いている為、人間の中で使われている回転式拳銃のように銃弾を切れる度に態々入れる必要は無い。魔力切れになってしまったら入れる必要はあるが。


禁戒と刹那で追尾型の魔法達を撃ち抜いていく。撃ち抜かれた魔法は空中で爆散していく。爆発する事で暴風が発生し、暴風と共に魔力が周囲に散らされる。その爆発、魔力の散らし、暴風を背景として超速で移動をしていく。もちろん、その移動の際にも魔法は追尾してくるのだが、追尾する為に動き出した瞬間に撃ち抜いているので、問題無しである。


シャロンと変化の距離が50メートルに迫った頃、禁戒と刹那の銃口から弾丸が放たれる。一つ目の弾丸が変化に向かう。今度は、その弾丸の事が見えていた。弾丸を防ぐ為に魔法で防御を展開し、防がれる。禁戒と刹那は近距離型なのだが、与えるダメージではスナイパーライフルである白雪、叛逆の方が圧倒的に高い。禁戒と白雪は連射性が高いだけで、威力はそこまで無いのだ。


禁戒の銃弾が防がれた直後に、同じく回転式拳銃である刹那が防御魔法に直撃する。二度目の弾丸が防御魔法に当たり、拮抗する……が、その拮抗していた瞬間は一瞬だった。1秒どころか、0.0001秒も経たない程の短い時間。それが防御魔法と共に、変化の矜持プライドが粉々に崩れるまでのタイムリミットである。


「まだ、か」


刹那の弾丸が衝突した変化は、横腹を抉られていた。それだけしか、ダメージを与えられていなかったのだ。変化のあまりの硬さに、理玖と戦っているような感覚を抱いてしまう。防御は理玖の方が圧倒的に上だ。しかしそれでも、タフさや防御力は理玖を連想してしまう。


シャロンは本気を出すことにした。真面目ではあったが、本気ではなかったのだ。本来、変化に使うつもりなど毛頭なかった。けれども、変化の硬さ具合に使わなければ行けなくなった。理玖の方面に早いとこ、援軍として行くために。手首にしていた腕輪を外す。


「これで、終わりにしてあげる」

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