第44話 未来と未来の為の戦争 12

シャロンが腕輪を外すと、魔力が周囲に広がる。辺り一面に発生していた魔力がより濃い物に変化し、自身の魔力が含まれる。瞳を瞑り、周囲の魔力に集中する。自然に広がってある莫大な範囲の魔力が取り込まれて行く。


魔力が多く取り込まれたシャロンの体は劇的な変化をする事は無かった。理玖のように元の髪に新たな色が追加される事も、リファのようにその種族特有の身体構造が変化する事も。筋肉が肥大化する事も無かった。しかし、見た目上の変化は存在しなくとも、制限の解除は必ずされている。


一歩歩めば、変化は冷や汗をかく。外から感じれる魔力は制限の変化前と然程変わっていない。けれども、『威圧感』は強化前よりも増大されている。『威圧感』というのは魔力やスキルが関係しているものでは無く、強者の証、つまり種族としての格で決まるのだ。


一歩歩んだ地点で、シャロンは止まる。瞳の先は変化では無く、己の武器である禁戒と刹那に向いていた。突然、自分の魔力を二丁の回転式拳銃に注入する。魔力を注入されて回転式拳銃は、並大抵のエルフでも出すことが不可能な魔力を放出していた。成功だ、と微笑みながら、二丁の回転式拳銃の融合を始める。


絶大な魔力が宿っている武器、それ等を融合させる事は断じて簡単な事ではない。それは、魔力に関して卓越した技術でも同じ事。けれど、それで止まるのはシャロンではない。融合する事に抵抗をしている二丁の拳銃を、魔力に関しての技術の暴力で抵抗を抑える。


「第二武装、融合簡易展開。タイプFIRST、黒金インフィラ


二丁の回転式拳銃を融合させた姿は、禁戒と刹那に同じくして、M1873であった。色合いは、多くが黒くなっており、所々が赤に染められていた。シャロンは中々に良い銃の黒金に笑みを深めていた。


ザッと地面に音を立てながら此方に向かってくる者が一人。十二狂典に位置する変化である。今の間に排除をしたかったのだろう。シャロンが銃に夢中になっている間に。まあ、それは変化の勘違いなのだが。空間に強烈な音が鳴り響く。本来の弾丸が発射された時のような音だった。


変化の胴体には、小さな弾丸で貫かれた穴が発生した。先程の回転式拳銃を与えられた時とは比べ物にならない程のダメージを与えられているのだろう。あの攻撃は外からの強力なダメージであった。しかし、この攻撃は外からの強力な攻撃ではない。体の内部に侵入し、内部にダメージを与える攻撃である。内部の直接ダメージに血を吐く。


これで攻撃が終わる筈も無く、黒金の弾丸発射は続く。流石にこれ以上受けるべきでは無い、と判断したのか、魔法を放射する。確かに防御魔法は一発で破られるので、得策と言えるだろう。魔法と銃弾が衝突し、爆発が巻き起こる。魔力が良く籠っている弾丸と魔法。それが衝突しているのだから、周囲に強烈な濃い魔力が蔓延る事は誰であろうとも予想できる。


広がる煙に目潰しをされている為、視界は使えない。変化の位置を把握する為、視界の代わりとして魔力の探知を使用する。けれども、変化の魔力は感じられない。煙が濃い魔力を含んでいる為、変化の魔力が感じられないのだろう。面倒臭い、と感じつつも、勝利の一手を刻むことにした。


自身の保険のために、一本髪を千切り、空中へと投げる。落ちるのを確認しながら、移動を開始する。走れば走る程、煙の中の濃い魔力を実感してしまう。


白い煙の中でも、走り続ければ変化の姿を目視する事ができた。シャロンは黒金を構える。先程のような莫大な魔力を銃口に収束させて放つような物では無く、煙が発生するコンマ数秒に弾丸を創造し、ストックさせていた物だ。


微弱な魔力すら発していないこの弾丸。避けられる筈も無い。引き金を引こうとしていたタイミングで魔法が発射される。しかし、余裕な表情を崩さない。当たらないのに警戒はしないだろう。


弾丸が再度発射され、内部にもう一度入る。二度目の強烈なダメージ、それに耐える事は難しかったらしく、変化は手を着き、膝を着き、血反吐を吐く。弾丸を受けた位置から推測をしているのか、此方の方向を瞳に入れる。


シャロンを入れた瞳には、驚愕の色が乗っていた。変化自身では無いので、全ては理解できないが、何故お前が此処に、とでも思っているのだろう。その感覚、シャロンにはとても良く理解できた。先先先先先先先代里長にこの技術を教えられた時は、理解ができなかったからだ。


(大変だったけど、『血宿リ』を教えて貰って良かったですね。金銭面に関して貪欲で、たまに人間のイケメンを誘拐してきたりするのは、しんどかったですけど)


騙した種としては先刻抜いた一本の髪が影響してくる。抜いた髪にも魔力を纏わせる事で、黒金で発射させる魔力を誤認識させたのだ。最初からでは無く、時間が経つ度に魔力が増幅する仕組みだったのも大きいだろう。


額に銃口を当て、莫大な魔力を収縮した弾丸を与える。再生をさせないように、体の一部すら残さずに消去する。


「これで、向かう事ができる」

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