第45話 未来と未来の為の戦争 13

最高幹部、幹部、その者達全員の戦いは終わっていた。ある最高幹部を除いて。その最高幹部の名前はアルゼルド、無名無法王冠の青水軍の元帥である。十二狂典とアルゼルドの戦いはまだ始まってすらいなかった。その理由として、アルゼルドが雑兵を蹴散らしていたからだ。


ある程度を倒し、残りは自身の配下達に任せる。まあまあの強さを持った奴等だったな、と感じながら周囲を見渡すと、ショックを受けながら三角座りをしていた。涙を目に溜めながら座っている姿に困惑をしつつも、先手攻撃として魔法を放つ。


魔法が直撃した【再生】は悲痛そうな声を挙げるが、少しのダメージしか受けていなかった。近づいてこそ理解ができる。周囲に被害を与える程の魔力を放出していなくとも、魔力の格はよく分かる。その魔力に感心の念を抱きながら、自身の本来の姿であるタコの姿の足を顕現させる。


全体を変化させていないのは、周囲に被害が及ぶからだ。体全体を変化させるだけなら良いのだが、全体を変化する事は大きさを変化させるという事でもある。少し離れてはいるが、まだ自身の配下が居る。全身を変化するという手段もあるのだが、戦うという点においては却下される。


「なるほど、全体に変化させないのは戦いやすさを重視して居るからなのね。しかしさ、酷く無い?急に攻撃してくるなんて、道徳心どこかにおいてきたの?……ちょいちょい、無視せんといてよ。私泣くよ?」


頰に冷や汗をかく。後半の部分に関しては、何て馬鹿な事を言ってるんだ、と感じてしまうのだが、解析能力は驚くほど高い。アルゼルドが部分顕現を行なった理由を即座に理解した。元より解析能力は高いだろう、と推測はしていたが此処までとは思わなかった。


焦りを感じ、早めに仕留めようと、元々タコ足で展開していた魔法を発射する。アルゼルドの力の元となっている海の力を混ぜ、強烈な威力を内包している魔法が再生の付近まで近づく。その近づいてきた魔法を飲み込もうとしているのか、自分の体を改造をし、手を広げる。


そして魔法が拡大された手に触れ、爆発する。目の前の再生はその事実に大きく目を見開かせているようだが、アルゼルドからしてみれば必然である。超魔力密度の魔法がそう簡単に吸収される訳が無い。少し、ため息を吐いてしまう。他とは違う卓越した解析技術を持っていたとしても、使い手がこれならば意味はない。


「もう一回、もう一回!魔法を今度こそ吸収してみせるから。再度撃ってきなさい!」

「いや、二度はない。これで終わりだ」


片手を翳し、全魔力の8割を使用して放射する。そして魔法が晴れたその場所には塵すら残っていなかった。


「ポンコツ過ぎんだろ、彼奴。何で十二狂典に居れたんだか」








「これで六人。我が仲間が討ち滅ぼされた。しかし、此奴を倒せば解決できる」


法則の口からそんな言葉が放たれる。それに自然と笑みが洩れる。流石僕の配下だ、という考えが頭の中を通る。予想ではこれよりも遅くなると考えていた。最低、十分だと考えていたのだ。しかし、その考えは良い方面に打ち破られる。


六名を打ち破った時間、合計して六分である。自身の期待を大きく超えた最高幹部達に心の中で歓喜の声を上げながら、強烈な威力の炎を纏う。配下が自身の期待を遥かにに超えたのだ。その成果に応えないのは魔王では無い。翼を揺らし、瞳には決意が宿る。この十二狂典を必ず倒す、という意思だ。


熱く、地獄の炎に存在しているように燃え盛る炎、それに十二狂典は警戒の段階を上昇させる。けれど、警戒を上げる事に待つ必要はない。最高速度で法則に蹴りを与える。魔力によって熱が乗った暴風が周囲を襲う。魔力が、濃く、濃く、濃く、濃度が急上昇する。


その魔力を肌で感じていると、背後から空白の魔法が飛んでくる。先程から戦い、分かっていた事なのだが、影とは速さが全くと言って良いほどに違う。少しでも油断をしてしまえば、魔法が直撃してしまうだろう。


理玖は翼を動かし、魔法に向かって移動を開始する。一秒も経たずに直撃しそうな位置まで近づき、体を捻り、魔法を法則に目掛けて蹴る。脚を魔力でコーティングした事で爆発する心配は無いのだが、理玖の内心は冷や汗をかいており、心臓は速い鼓動していた。


法則に魔法が直撃したのを確認した後、全方向に炎を放射する。一方向に絞っていない分、威力は分散してしまっている。しかし、目眩し程度には効いているので問題無いだろう。炎によって煙が広がっている中、空白の首を掴む。


魔力と炎を暴走させて首から吹き飛ばそうとする。より多くのダメージを与える為に行使しようとする。けれども、急に魔力と炎の暴走を停止させ、上空に投げる。困惑の顔を浮かべながら魔法を展開している空白に対して、理玖は余裕の笑みを顔に出す。


「第三十六武装、簡易展開。タイプONE、白鯨フォル


砲弾が空白に当たり、爆発する。理玖は仕事が早く、それ以外の仕事に手を出そうとする相棒に感謝を伝えたかった。けれども、それはこの戦いが終わった後にする事にした。


「無茶し過ぎ、理玖。後で叱らせてもらうから」

「あー、ごめんなさい?」

「本当にだよ」

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