第11話 魔王と刻王衆統括

「機嫌、良いですよね」

「ん?そう思う?」


シャロンのその言葉に理玖が首を傾げる。そんなに浮かれていただろうか、という疑問を抱く。


自身が気づかない所で楽しみにしていたのかもしれない。理玖はエルフとしても、人間としてもまだ子供だ。エルフからしたら幼児かもしれないが、男である。見た目も中身も美しいシャロンと出掛ける事が、デートができるのだ。それは浮かれるのも仕方ないと言う事ができるだろう。


その思った事を言おうと思ったが、言うのをやめた。本人に直で言うのは恥ずかしいというのもあるが、今は知ってほしく無いという気持ちがあったからだ。


しかしシャロンの気のせいでは無く、ちゃんと上機嫌になっている、という事を示す為に、握っている手をにぎにぎとする。


理玖とシャロンは歩き出した。無名無法王冠の本部が設立されてある世界、通称コルエスにある惑星で祭りが開催されているからだ。地球とは違う惑星の祭りに。






周囲からガヤガヤ、といった喧しい音が聞こえる。祭りなのでしょうがないと思う気持ちはあれど、流石に煩い。エルフという種族は人間に比べて身体能力が格段に高い。よく人間達が考えている話では魔力に優れているが身体能力は弱い、などと言われているが、全く違う。魔力に優れ、身体能力に優れているのだ。


シャロンや理玖などの上澄みのエルフは身体能力が他のエルフと比べても比較にならない程高い為、普段は『覚メタリ感ナル鈍アルヴァイ・ダーミスト』を使用している。今もそうなのだが、この煩さは魔法を貫通するほどだった。


理玖は少し顔に皺を作りながらシャロンの方向へ目を向けると、シャロンは涼しい顔をしていた。シャロンは億を余裕で生き、兆すらも生きている疑惑があるのだ。この煩さは、慣れっこなのだろう。


そんなシャロンに尊敬の念を抱きながらも、祭りを堪能する為に動き出す。


先ずはチョコバナナを食べる。次はフライドポテトを。その次はりんご飴を食べる。次はポップコーンを食べる。次は塩漬けきゅうりを食べる。次はかき氷を食べる。


理玖は普段食べていない事を打ち消すくらいに食べまくる。エルフは魔力を主食としている為、食べ物を食べる必要など無い。しかし食べ物を食べる事でのストレス発散はある。


蒼月決戦準備前はストレス発散で食べ物を食べていた。けれども蒼月決戦準備期間に入ると、忙し過ぎて食べ物を食べる暇など無かった。今は皆の協力もあって少しは落ち着いてきたが、それでも忙しい事に変わりはない。明日には仕事に戻るのだ、と思うと憂鬱になりながらも、今を全力で楽しむ。


「エンド様……食べ過ぎでは?」

「んむ〜?……そんな事無いと思うけどなあ。食べたのはりんご飴、チョコバナナ、ポップコーン、ポテト、きゅうり、かき氷、アイスクリーム。後数個くらいだよ」

「それ、充分食べてると思うのですけど。祭りとは食べ物だけが楽しみな訳では無いでしょう?」


シャロンのその言葉に心の中で頷く。自身でも分かってはいる。祭りは食べ物が全てでは無いと。久しぶりに食べ物を食べたかった、その欲求が食べ物ばかりを選んでしまった。


これでは自分の為にシャロンを連れて来たみたいになってしまう。理玖はシャロンにも楽しんで欲しくて連れて来たのにも関わらず、だ。


「シャロンは何処に行きたい?さっきは僕のを優先しちゃったからね」

「特に私は無いのですけど……歩きながら見ましょうか」


理玖はその言葉に頷き、歩いていく。そう歩いて揺れていく瞳には嬉しそうな、幸福そうな人々の瞳が目に入った。


美しいと思えた。その幸せが綺麗だと思えた。この感覚はシャロンが気づかせてくれた。理玖は感謝の気持ちを込めて言葉を贈る。今、シャロンだけが自分の言葉を分かるようにエルフ語を喋る。


■■ありがとう、シャロン

「……!はい


理玖とシャロンは言葉で暖かい気持ちになる。今まで感じた事が無い変な気持ちになる。シャロンはその気持ちにむず痒くなり、射的屋に向かって歩きだす。それ以外にも商品が欲しかった、と言うのがあるのかもしれないが。


シャロンは射的屋の主にお金を渡した後、射的用の銃を構える。軽めの引き金を引いた事で、パンッ!という本物と比べれば威圧感の無い銃声が鳴る。その発射された銃弾は青色の髪飾りの隣を通り抜ける。


惜しい、と理玖は思っていると残りの弾を撃つ。しかしその弾は全て当たらなかった。


そういえば、と思い出す。シャロンは当たる惜しい所まで行くのだが、結果は全て当たらない。もしかしたら当たったのもあるかもしれない。しかし理玖の脳内には存在しておらず、今も当たっていないので無いのだろう。


最後の弾を撃つが、それも当たらない。どれだけ魔力研鑽を積もうとも、剣技を磨こうとも、新たなる魔法使いとしての格に目覚めようとも、シャロンの射撃技術は上がる事など知らなかった。そのシャロンの弱点に短い付き合いではあるのだが、変わらないな、と少し笑ってしまった。


シャロンは理玖のその笑いに反応する程の元気は残っておらず、本気でテンションが下がっていた。その状態に苦笑を浮かべる。


理玖は射的屋の主にお金を渡す。シャロンのショボン、とした状態を払拭する為に射的用のコルク銃を手に取る。


「シャロン、シャロンの狙いはあの青い髪飾り?」

「え?……はい、そうですけど」

「了解、じゃあ取る。僕が着けてあげるから待っていてね」

「ふゅー!坊主、いやあんちゃん。其奴の無念の弔いか?頑張れよ」


死んでないんだけどな、と理玖は射的屋の主の言葉に心の中でため息を吐く。しかし魔王とは切り替えは瞬時にできる者。青い髪飾りを取る為に感覚を研ぎ澄ませる。とは言っても、魔力や魔法は使っていない。


エルフとして感じられる感覚。取る為の最適な姿勢。肌から感じれる少しの風が理玖を人から獣へと変化していく。頂点に降臨する獣王である獅子に変わっていく。


息を深く吸い込む。誰よりも、何よりも信頼、信用ができる相棒が欲しいと言っている獲物を獲得する為に。


人差し指が引き金に触れる。碧色から緋色へと染まった瞳は青色の髪飾りが目に入る。コルクの銃弾が当たり、青色の髪飾りが倒れたのが目に入る。


有言実行できた事に安堵しつつも、台に置いてあるコルクを見る。一プレイで四発支給される。一発で目的の物は獲得したので、残りのコルクは三発残っている。


適当な物を落とそうとしたのだが、二つの箱に入れられてある碧色のネックレスが目に入った。理玖は二つのコルクを使用し、そのネックレスを落とす。


そして最後に残った一つは、最初に目に入ったお菓子を落とした。


「これ、約束通りの髪飾りだよ。……うん、とても似合ってる。ねえ、少しお願いをして良いかな」

「はい?大体の事ならば聞きますけど」

「このネックレス、貰ってくれない?」


シャロンはその言葉に目を見開かせる。理玖がお揃いが良い、とそう言ったからだ。シャロンはそのネックレスを受け取り、首に掛ける。


「やっぱり、よく似合ってる。最高に可愛いよ、シャロン」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る