第12話 心休まる大祭り

理玖は髪飾り、ネックレスをプレゼントした後、適当に歩いていた。


「ありがとうございます、エンド様」


シャロンに突然礼を言われ、驚きながら其方の方向を向く。何でそう言われたのか、そんな疑問を抱きながらシャロンの続きの言葉を待つ。


シャロンは目を少しの間瞑る。そして目を開いた後は喋り始める。何故突如礼を言ったのか、その心が、理由が。


「私は貴方に救われました」


シャロンの言葉に出会った時の事を思い出す。服はボロボロで体には傷がたくさんだった。片腕は今にも引き千切れそうなくらいには重症な姿。それが出会った時の姿だった。瀕死で、死にそうだったから身体が考えるより先に動いてしまった。


その結果でシャロンを救えたのだから良かったのだろうが。しかし礼を言いたいのは此方の方だ。こんな未熟な自分と共に歩いてきてくれたのだから。


「昔、仲間から、友から裏切りを受けました。私は集落に居た時は長候補だったんです。指名されても断るつもりだったんですけどね。しかし私の友人がどうしても成りたかったみたいで……武器を刺され、魔法を撃たれました」


理玖は納得をする。奇襲、狡猾、姑息、それを得意とするシャロンが受けた傷は真正面から受けたような傷だった。奇襲をされたのなら真正面にしか戦えないというものだろう。


奇襲をされたにしては受けた攻撃が少なかったのは魔力防御をしたからだろう。世界転移を早めにしたのかもしれないが。


理玖はシャロンを拾った当時の事を思い出す。拾われた猫みたいに警戒心が高かった。裏切られた直後ならそうなる。理玖でもそうなる。


「暗殺対象が自分自身な依頼人が居た事がありました。それを聞いた時、何が目的かよく分からなかったんです。どうして死にたいのかがよく分からなかったんです。だけど、あの時は理解できました。心の底から、死にたいと感じました」


理玖はシャロンの言葉を静かに聞く。シャロンの泣きそうな、けれども涙を流さないようにしている苦しそうな声を聞く。


手元にある飲み物を飲む。辛く、苦しいのならば待ってあげる。それ以外に知らないのだ。シャロンのような状態の人を落ち着かせる術を。


風が吹く。シャロンの髪が揺れ、瞳から水が落ちる。理玖は少しジャンプをし、頭をポン、と触れる。


シャロンは理玖のその行動に驚き、目を見開かせる。


「僕は待つ以外に答えを聞く術は知らない。だけど配下が泣きそうになっている。それなのに何もしない馬鹿じゃないよ、僕は」


理玖は心底死にたいと感じた事は無い。家族が居た時も、孤独だった時も、シャロンが居た時も、組織を設立した時も、感じた事など無かった。恵まれているから、そう感じない。


しかしどうしようも無いくらいに信用ができない、というのは経験済みである。魔王として目覚めた頃、誰も信頼する事ができなかった。


そんな思いを抱いた事がある理玖だからこそ、昔の事と言えども配下に泣いて欲しくなかった。魔王として歩いていくと宣言したのにも関わらず、それでも一緒に歩いて来てくれたシャロンをそんな事で泣かせたく無かったのだ。


シャロンは涙を浮かべながら笑みを作る。


「ありがとう、ございます」

「それはコッチのセリフなんだけどね」


理玖の行為に対しての感謝に、理玖はそんな言葉を贈る。間違えた道に行きそうになっあ事もあった。数えきれない程にだ。しかしその度にシャロンが止めてくれた。


「あんな事があったから、最初は疑いましたよ。エンド様の事なんて」


理玖はその言葉に分かりやすかったんだよねえ、と呟く。それだけ、追い詰められていた、という事なのだろう。裏の仕事、暗殺を生業としていたシャロンが普段からあの様子ならば、すぐに潰れているだろう。


「驚いたんですよ?私を助けたのに自身の為の欲望が一切感じられなかったんですから。本当に助けたいから助けた、という言葉が真実なんだなと感じました」

「計画無し、って呼んでくれても良いんだよ?救いたい、助けたいっていう感情で動いちゃった。助けて、置いておく場所もあんまり無いし、助けて治療した後どうするか、という問題を考えてなかったから」

「だけどその考え無しの行動で私は助かりました」


魔王としてそれはあり得ないだろう、という自虐を込めて言ったのだが、シャロンはそれでも、と感謝を伝える。


確かに助かったけどそれは結果論だ、そう言おうとした。しかしその言葉を伝える為の口が動く事など無かった。


これ以上は言ってはならない、そう感じたからだ。もしこんな言葉を口に出したとしよう、その結果論でも、助かったシャロンはどう思うのだろうか。理玖がそんな事を言われてしまったら傷つく。お前を助けたのが間違いだ、と言われているような気がして。


「偶には良いかもね、感情だけで動く人助けっていうのも」

「それ、魔王らしさから随分遠ざかっているのでは?」

「前にも言ったでしょ」


理玖はシャロンの言葉にふふん!と鼻息を鳴らす。理玖にとっての魔王。魔王としての理想。


理玖の力となる前の魔王が暗黒に、深淵に生きる花と例えるとするならば、理玖は……。


「僕が僕であるのが僕の魔王らしさだから。それにさ、僕は花だよ。絶望が溢れる荒野に一本、一本だけ咲いている花。皆に幸福を、希望を届ける花。それが僕だ。僕の願いはそんな荒野を綺麗な花畑にする事。手伝ってくれるよね?シャロン」

「はい、当たり前です」


魔王としての誓い、友としての誓い、相棒としての誓い。


それが今、結ばれた。何処までも一緒に居るという永遠の誓いが結ばれたのだ。

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