第13話 救護協定団団長【矛盾の悪王】

「忙しそうだね」


理玖は治療用の薬物を研究している三対六の黒い翼を生やしている救護協定団の団長、【矛盾の悪王】アランに声を掛ける。


アランはその言葉に振り向き、自身の黒い翼を嬉しそうに振るわせる。アランは無名無法王冠の中では古参と呼ばれている。流石にシャロンよりかは劣るが。あまりスカウトをしない理玖が自らスカウトをした圧倒的な実力者だ。


アランの強みは膨大な魔力量だけでは無く、翼が生えている事での空中戦が得意な事も入るだろう。


「エンド様!久しぶり!」

「そうだね、久しぶり。其方の様子はどんな感じになってる?」

「えーっと此方は……仕事が多過ぎる。これに尽きる。いやさ、エンド様の役に立つために皆鍛錬を頑張ってるのよ。だけど頑張り過ぎちゃってるのよ」


アランの苦労の感情が乗った声とため息に苦笑いを浮かべる。自身の鍛錬以外にも部下の鍛錬している所を覗いている時があったのだが、無理をしているのはすぐに分かった。


注意をするべきだったのかもしれないが、自分の為にやってくれているのだから注意もし難いと言うものだ。


しかし本格的に注意をした方が良いかもしれない。このまま放置をしていると戦闘員達よりも救護協定団の方が先に倒れそうである。


「アランの視点から見てさ、今の鍛錬はどう?」

「うーん……戦闘に特化した種族の悪魔の王をしていた俺から言わせてもらうとオーバーワーク、これに尽きる」


理玖はやはり、と納得をする。あの鍛錬で急速に実力が上昇して来ている。しかし肉体も心も限界な筈だ。肉体は救護協定団の一時的なもので、精神は己の全てを使うという忠誠心から今を保っている。このまま今の鍛錬をしたとして、決戦が来る直前に限界が来るであろう。


鍛錬も、研鑽も勿論大切だ。けれども一番大切なのは限界を超えぬ事。強さの限界を超える、というのは大幅な負担がやってくる。日常から限界を超えて大事な決戦で壊れてしまったら何の為に鍛えているのだ、と言う話になってくる。


この二ヶ月の間、理玖は様々な戦闘を経験してきた。魔王並みのポテンシャルと膨大な魔力を持っていなければ成し得ない戦闘を経験した。その戦闘の中には死にかけたものもあった。世界と世界のどちらが消えるか、という消滅戦争に巻き込まれたものもある。


「普段から無理をしたら勝てる戦いも勝てなくなる。それはエンド様も分かってるでしょ?二ヶ月では考えられないくらいの濃さを経験した魔王であるエンド様なら」

「そりゃあ、ね。そんな事をして負けた戦士を見てきたしね。数人くらいだけど。そろそろ止めた方が良いよね。んじゃ命令としようかな」


理玖は無名無法王冠の連絡用のスマホで命令を下す。『一日だけでも休め。それと一旦冷静に考えろ』、という簡素な命令だ。


少し息を吐き、アランの方向を向くと、片目に魔法を展開していた。何のつもりなのだろう、そう考えたがアランの答えを聞くまで静かに待つ。


アランは片目の魔法展開を終了すると、少し呆れたように顔を歪める。


それに疑問を抱えるが、その疑問を聞く前にアランが喋り始めた。


「分かっていたことだけど……エンド様への忠誠心ぱないよねぇ」

「えぇ……何急に。いや、僕への忠誠心が高いのは分かってるけど。こんな僕を主として認めてくれるなんてありがたい限りだよ」

「そういう事じゃ無いんだよ」


理玖はアランの言おうとしている事は何となくなのだが、理解できる。常識的なアランはこの忠誠心を異常と評するだろう。悪魔というのは基本的に自分中心、だからより異常に感じてしまう。


そして先程まで必死に鍛錬していた者達が特訓場から居なくなっている、というのもそう思う原因になっているのだろう。


「あ、エンド様。一つ良いか?カミアが率いる情報探知把握隊から蒼月、十二狂典の情報が来たんだよ。そんでその情報が真実か確かめて欲しいんだけど」


アランは自身のパソコンに触れ、送られたデータをクリックし、見せる。


理玖はその内容を読み……冷や汗が流れる。己が調べた情報以上の事も調べていた、その事実に誇らしい気持ちになりかけていたが、その情報に想像以上な法則に驚愕をする。


分かっていた、能力が規格外な事、死力を尽くさなければ負けてしまうという事も。


魔王という理不尽な存在である理玖からしてみても、この条件は理不尽としか言いようが無かった。


【蒼月煌々星戦】

ルール1

・十二狂典が解放された時、魔力、スキル(能力諸々の称したもの)が大幅に強化される。

ルール2

・十二狂典と敵対している者は魔力出力、スキル出力の限界が10割から6割に下がる。

ルール3

・十二狂典が蒼月を破壊した時、強制的に十二狂典側の勝利とする。又、十二狂典側が勝利した場合、敵対側の意思関係なく十二狂典の思い通りに動く道化へと変化する。

ルール4

・十二狂典の一人が殺された場合、一時間以内に全ての十二狂典を殺害しなければ復活を果たし、魔力や魔力出力も元の二乗へと上昇する。

ルール5

・これ等のルールは【法則の狂気】エイルドによって追加、削除が可能である。







「これ、相当不味く無い?」

「まあ、そうだよな。俺もそう思う。だけどその理不尽を覆すのが俺達無名無法王冠クラウンだ。こんくらいでビビったりしないよな?」

「……これ、結構キツいんだけどな。君も頑張るんだよ、アラン」

「わーってますって」

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