第14話 修復と改造

ガン!ガン!ガン!と音を鳴らしながら、象型兵器の核を中心として象の装甲を造る。今は骨組みが終わり、魔業粘土でその骨組みを覆い尽くし、歯車をつけている所だ。


頭に情報は全て入っており、紙に記してもいる。しかしそれでも修復を始めた時から大分時間は経っている。大体三ヶ月と言ったところだろうか。


手元にあるハンマーで歯車の中心に釘を刺し、歯車の位置を固定する。そしてズレていないか、そう確認した後に降りる。この象型兵器は緻密に計算された動作で漸く動く。少しでもズレていたのなら大事だ。動かない、どころの話では無い。もしかしたら全てが壊れるかもしれないのだ。慎重になるのも納得できる。


「コッチの329歯車から1521歯車は終わったよ。ヘイラン、ソッチはどう?」

「儂の方は順調ですぞ。部下の方はどうかは分かりませぬが……お主等、どうなっておる!」

「此方も順調ですよ、親方!隊の報告だと第3部分から第8部分まで終わったみたいです」


人数が多いとは言え、歯車10000個が第1部分であるこの象型兵器を短時間で此処まで進ませる技術に感心の表情を浮かべる。


理玖は心の炎を燃やす。部下には負けられないと、闘志の炎を滾らせる。先程までの一個一個の作業とは違い、大量の釘を魔力で生産を始める。事前に魔力による型を取っているので、サイズや形が違う、などと言ったミスは発生しない。


釘を一斉に発射し、歯車の真ん中に同じタイミングで刺す。しかし勢いがある強引さなどでは無く、繊細に丁寧にと言ったものだ。


ヘイランはその行動に燃え、自身も釘を刺すスピードを上げる。理玖と同じくしてスピードはあるが繊細、丁寧というのがキチンと存在していた。


瞳を其方に少し向けると、流石機械王と言える程の正確さと速さで動いていた。その動きに笑みを深め、競争するかのように釘を刺す。先程よりも更に魔力の釘生産速度を上げる。







「お疲れ様、ヘイラン」

「ありがたく頂きますぞ、主殿」


息が吐ける一段階に着いたので二人はヘイランの自室である和室でお茶を飲んでいた。理玖が入れた茶は意外にも美味しかったのか、目を見開きながら飲んでいる。


その光景にヘイランの瞳の色ってあんな色なんだ、と心の中で感想を洩らす。普段ヘイランは基本的に目を瞑っている。何故目を瞑っているのか、という話に関しては、感覚が惑わされた時、感覚に頼らなくても動けるようにしているからみたいだ。


お茶をゴクゴクと飲み、おかわりを要求する。普段のお茶を飲む姿としてはチョビチョビ飲んでいるので余程美味しかったのだろう。


差し出された湯呑みに苦笑を浮かべながらヘイランの自室にあった急須でお茶を入れる。そして四分の三くらいの量のお茶が入った湯呑みを差し出す。


「美味しいですな、主殿の入れた茶は。どんな事をしたら此処まで入れられているのか……疑問ですな」

「いや、僕が入れている所は見てたでしょ?普通に注いでいるだけだよ。美味しく入れるコツだとしたらシャロンに聞いてみたら?僕はシャロンに教えてもらったから」


教えるの上手だよ、と添える。理玖は理論タイプに近い感覚タイプだが、シャロンは完全なる理論タイプである。だからなのだろうか、この無名無法王冠において一番に教えるのが上手い。


魔法に関しても、魔力に関しても、日常生活に関しても。異常なまでに上手い。


長年生きている経験だろう、と考えていると、突如急に頭の中にシャロンが言っていた言葉を思い出す。


『蒼月、十二狂典。あの二つは人工的に造られたものです。自然にある物にしては歪過ぎます。蒼月という現象は自然では決してあり得ません。それに関与している十二狂典も』という言葉を。


理玖は目を瞑り、思考を巡らせる。あの二つが何故人工的に造られた物だと推測した理由を。蒼月が人工的に造られた現象という推測は納得できる。12月12日午前12時12分12秒に蒼月が一分だけ現れるというのは自然な物と言われれば疑問が抱く。


しかし十二狂典はどうして?となってくる。蒼月ほど不可解な現象では無い。蒼月とは十二狂典を封印する道具として使われたのでは無いか、という考えがどうしても生まれてしまう。


(いや、待てよ?だったらどうして蒼月を破壊していないにも関わらず出て来れる)


そう、十二狂典達の影はもう既に動き出していた。理玖の元々考えていた内容としては蒼月が全破壊された時に影と一緒に出てくる、というものだった。しかし十二狂典の影達は各世界で動いていた。其処に疑問点が生まれる。


何故、という疑問が生まれ、その度に答えを出す。しかしその答えによってまた疑問がやってくる。そうして疑問と答えを出し続けた結果……ある考えに辿り着いた。


(もしかして……蒼月とは封印する為の物では無い?封印する為の物ならば動き出している事実に説明がつかない。今の僕が考えれる内容としては一つ。十二狂典達の傷を癒す為にあるのか?いや、それだけだと目立ち過ぎてしまう。癒す為だけならばもっと目立たない所に設置する。僕だったらそうする)


理玖は考えられる可能性、しかし考えたくない可能性を想像する。十二人が蒼月を破壊する時に放つ魔法の位置は決まっていた。


ある世界で聞いた事があった。よく分からない、十二星角形の魔法が。


一の星は【空白】。二の星は【法則】。三の星は【久遠】。四の星は【偏愛】。五の星は【輪廻】。六の星は【再生】。七の星は【闘志】。八の星は【憎悪】。九の星は【誠実】。十の星は【変化】。十一の星は【希望】。十二の星は【偽り】。


全て十二狂典の称号だ。


その魔法が発動したらしゅが再び世界に降臨を果たす。主というのは神か何かだと思っていた。しかし違ったのだ。十二狂典を造ったと思われる者が主だったのだ。


(……なるほど、これは本格的に不味いね)

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