第35話 未来と未来の為の戦争 3

惑星ヒューマスにて、一人の老いぼれた人間、一人の若い者が立っていた。この惑星には酸素など存在しておらず、人間には死しか無いだろう。そんな状況にも関わらず、二人は平気な顔をし、互いが睨みつけていた。


「お主が偽りか……なるほど、主殿が警戒する価値が十分にあるというものだ」

「お褒めに掛かり光栄だぜ、無名無法王冠が誇る機械王だな。本当、惜しいなあ。俺達と敵対するという意思を取ったばっかりに俺に殺されるんだからな。俺も未来ある若者を殺したく無いんだが、敵対した愚かな自分を恨むんだな」


偽りは、自分が勝つ事を少しも疑っていない言葉を口にする。ヘイランはその傲慢に溢れたその態度に怒る事なく、真顔を維持する。自分が負けると言われているのに怒らないのは、どんな言葉を放とうと、放たれようと、最後に残った結果こそが真実である、と分かっているからだ。


先に動いたのは、ヘイランでは無く、偽りだった。すぐに終わらせようと、剣を召喚して首に刺突をしようとする。しかしその攻撃は、ヘイランの首に触れる事は無かった。あらゆる性能が内包されてある機械製の杖で防いだのだった。


ヘイランの杖は、機械製で出来ているので硬いのは勿論な事、持ち主の魔力は滞りなく通すが、持ち主を攻撃しようとしている魔力を纏った攻撃は、ある程度の範囲ならば一切通さない。杖で剣先を弾くと、もう一度喰らわせようと刺突してくる。


弾かれてから、もう一度刺突するまで。その時間を態々的に送る程、甘い性格では無い。ヘイランの持ち合わせている技術、知識を全て注ぎ込んだ至高の杖。それがヘイランが持っている杖なのである。杖が偽りの腹に突き刺さる。


「ぐうっ……!お、お前!」

「確かに儂はお主よりも弱い。しかしな、弱い者でも切り札や策はある。傲慢は過ぎると身を滅ぼす、お主達の主には教わらなかったかのぉ?」


其処いらの少年でも知っている事なんじゃがの、とヘイランは呟く。その言葉に偽りは怒る。顔を真っ赤にしながら魔法を発動させる。流石十二狂典の一人と言うべきか、魔法の展開速度は驚愕してしまう。まあ、それがどうした、となるのだが。


杖を媒体とし、魔法を展開して放射する。偽りが展開していた魔法を全て破壊する。ヘイランは杖を振り、偽りを吹き飛ばす。しかし即座に体勢を整え、受け身を取る。今度こそ、と偽りが魔法を展開して発動しようとする。けれども、ヘイランを何とかするには遅過ぎる。


超速の速さで近づき、腕を引き千切る。再生が出来ないように杖に細工をした事で、魔力を上手く練れていないようだ。


「最初から全力で来れば良かったものを。儂の事を甘く見とるからこうなるんじゃ。相手の攻撃をよく見たい、という欲望が仇になったのぉ」


口の中に杖を突っ込み、魔法を発動させる。魔力を阻害され、魔力を練れない今の偽りには、この魔法を防ぐ術などある筈が無い。爆散し、血が辺りに撒き散らされる。ヘイランの白髪が、白髭が、血で赤く染まる。


「何をやっとるんじゃ、宗介は。お主の力を活かせれば其奴など簡単に葬れるだろうに。仕方ない、少し助けてやるか」


杖で地面をコツン、と押し、魔法を展開する。魔法の対象は宗介。












「本当に楽しかったぜぇ、お前との戦闘はぁ」


宗介の額にはレオワルドの手が触れていた。その手には魔法が展開されていた。その魔法展開はいつでも魔法を放射できる状態であり、宗介の命はレオワルドに握られている状態と言っても過言では無い。意識が朦朧としていく。魔力が思うように練れない。


展開されている魔法が光始める。放射を始めたのだ。もう駄目だ、諦めるしか無い、という絶望の思考が巡り、瞳を瞑る。目に見える物は何も無く、暗闇しか無いはずだった。しかし、宗介の閉じた瞳の中には光が宿っていた。この光には覚えがある。光から感じる魔力には覚えがあった。


この魔法は、魔力は、機電隊を率いる最高幹部、【全窟の機械王】ヘイランのものだった。宗介はこの魔法は支援魔法か、と疑ったのだが、それにしては魔力の上昇は多い。支援魔法の魔力上昇は、元の魔力に最高一割を足す足し算だ。


しかし、この魔法による魔力上昇は、宗介の元の魔力に何倍かした掛け算である。


その上昇具合に不思議に思いながらも、万全の時以上に動く体で、迫り来る魔法を魔力防御で打ち消す。レオワルドを一旦自身から離すため、座っている体勢から立ち上がり、回し蹴りをする。咄嗟の攻撃なのにも関わらず、地面に背中を付かせなかったレオワルドに関心をしながらヘイランに思念を伝え合う魔法を行使する。


【ヘイランさん、どうなってるっすか。俺の身体能力、魔力が急激に上昇しましたよ!?】

【なに、少し魔法を使っただけじゃ。お主の潜在能力を一部開放する魔法をな】


ヘイランはその言葉を伝え終わると、一方的に切る。その魔法の詳細などが色々と聞きたかったのだが、少しでも分かっただけ良しだろう。宗介は深く息を吸い、魔力を効率よく巡らせる。突然手に入った膨大な魔力。今の宗介には手が余る所がある。


「まあ、お前らを倒す時に感覚を掴めば良いっすよね」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る