第36話 未来と未来の為の戦争 4

ウィレオのレオワルドは、急上昇した宗介の魔力に冷や汗をかく。けれども、上昇したばかりなら何とかなる、と踏んだのだろうか。己の武器を持ち、超速と言える速さで移動をする。ウィレオがモーニングスターに付いてある鎖で伸ばし、宗介に当てようとする。


上がった身体能力でモーニングスターを背後に避ける。上昇した身体能力でも余裕を持って避けられた訳では無い。先程までの速度とは違い、今回の速度は俊敏の一手と言える程である。速度に特化している紅蓮状態の理玖ならば避けられるだろうが、それ程しか避けられないのだ。


ウィレオのモーニングスターを何撃か回避していると、右横から風切音と強大な魔力反応を探知した。金棒を振り下ろそうとしていたレオワルドが目に入る。強烈な威力の金棒を喰らう訳にはいかない。ヘイランから潜在能力を一部開放してもらった事で動いているだけで、体力が回復している訳では無い。


影で移動しようと考えるが、光が溢れるこの大穴で影のスキルは使えない。繊細にやればやる程、影のスキルは使えなくなる。だから、唯一使える方法を考えた。この環境で影のスキルを使えるように、と夢想したのだ。その答えは魔力のゴリ押し。魔力からスキルまでの工程を魔力量で全て吹き飛ばした。


影のスキルを発動してから零秒、体を影へと変化させる。一秒、変化させた影を可能なまでに小さくする。二秒、金棒の範囲内から離れる。三秒、影の体から実態のある体を変化させ、即座に攻撃が可能なように体勢を整える。


「漸く分かってきたっすね。体の動かし方、魔力の巡らせ方が」


地面を蹴り飛ばし、レオワルドに向かって走る。先程の速度と比べると、倍以上に上昇している身体能力に防御体勢が間に合わず、宗介の拳がレオワルドの顔面に直撃する。体勢は間に合わなかったようだが、魔力の防御を間に合ったようだ。


拳からは硬い物を殴ったような感覚に襲われた。しかし膨大な魔力量の前では、大部分を軽減する事ができなかったらしい。レオワルドは地面に殴り倒され、大穴の地面に亀裂を作る。あまりの痛みに、ダメージに耐えきれなかったのか、瞳を揺らして口から血を吐く。


レオワルドを殴り倒してから数秒後、背後からモーニングスターが飛んできた。その攻撃に宗介は屈む事で避け、鎖を掴む。外れないように、と大きく力を、魔力を込める。そして腕に力を入れながら回り始める。ウィレオはその行動を止めるべく、鎖を引っ張るのだが、瞬時に宗介に負けてしまう。


13回の回転を終えた後、モーニングスターを上に投げる。ウィレオは突然上に放り投げ出された事に動揺しつつも、反撃をしようと魔法を展開させようとする。宗介が素直に魔法を展開させ、発動させる筈など無く、地面を蹴り飛ばして空へと跳ぶ。簡素な魔力剣を作り、魔法を破壊する。


「な、何をしたノォん!?いきなり剣を作るなんて……」

「俺が使用している『箱』は少し特殊なんっすよ。幹部の多くが使う中で、俺の使う『箱』は出す、仕舞うの中で辺りにある魔力を吸収する。だから魔力で剣を作るという技ができるっす。まあ、そんな技をノーモーションでポンポンと出せるエルフもいらっしゃるんですけど」


宗介は何故剣を作る事ができたのか、丁寧に説明をしながら切り掛かる。乱暴ではあるが、しっかりと筋がある剣をウィレオは避けているのだが、全部は避けられていない。血がタラリ、と傷口から垂れている。


再度、ウィレオは宗介の剣を吹き飛ばそうと思い、魔法を展開する。その魔法が発動される事など無く、剣で魔法を切り裂く。剣で切り裂いた後、剣を浮かせ、方向を転換させて袈裟斬りを喰らわせる。そして袈裟斬りを喰らわせて発生した傷跡に剣を刺し、剣を中心として魔力を巡らせる。


宗介は影のスキルを使い、自身の魔力を影に変化させる。影というものは、宗介の体であるから耐え切れるのだ。影のスキルも、耐性も存在していないウィレオがこの攻撃を受けたらどうなるのだろうか。結果は目に見えている。


魔力を影に変化させたのを流し込まれたウィレオは影を体から放ちながら悲鳴をあげる。今までに感じた事の無い激痛と体力の減少具合に焦りを顔に現れていく。助かりたい、その一心で子供の癇癪の如く、暴れていくが、無常に体は肥大化していき、爆散した。


「まずは一体っすね」


レオワルドには聞こえない小声で呟き、空中を蹴り上げてレオワルドの方向に進む。一方は金棒を構えており、一方は慣れてきた膨大な魔力を纏っていた。二人は武器と武器とで衝突する直前にまで迫っていた。しかし、金棒と拳が衝突する事は無かった。


瞬時に影のスキルを使用して影に変化をした後、懐に潜ってから影を解き、強大の魔力が纏っている拳でレオワルドの腹に当てる。


二度目の激痛に金棒を手放してしまったレオワルドだったが、戦うのは辞めない。血を吐きながら殴り掛かってくる。その拳や蹴りを、宗介は掌の裏で弾き、何度目か分からない拳を当てる。


身体能力、魔力が上昇されてある宗介の何度目かの拳は、レオワルドの体力を切らすには十分だったのだ。魔法が展開されている掌でレオワルドの胸近くに翳す。魔法の放射を止める事などできず、レオワルドは腹を吹き飛ばされた。

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