第37話 未来と未来の為の戦争 5
宗介が決着を着けた頃、ある惑星では激戦が繰り広げられていた。戦っている二人の内、一人はエイドル。無名無法王冠で蛇竜軍元帥の地位に着いている竜である。一人は誠実、十二狂典の一人である。
エイドルの拳と誠実の拳が衝突し、衝撃波が惑星の表面を破壊していく。誠実は、エイドルに攻撃を喰らわせようと膝を上に移動させる。その膝の攻撃を掌で防ぎ、頭突きを喰らわせる。魔力で防御をされているので硬かったが、エイドルの身から離す為ならば十分である。
頭突きによって与えられた痛みで揺らいだ誠実に回し蹴りをする。竜としての種であるから元々途轍もない魔力で強化をした回し蹴りは強烈なのだろう。誠実は歯を食いしばっている。しかし、誠実はそれで終わりでは無かった。回し蹴りをしたエイドルの脚を掴み、地面に叩きつける。
エイドルを地面に叩きつけ、追撃をしようとした誠実なのだが、エイドルはそれを許さない。竜としての尻尾を利用し、誠実の目の前に動かす。そして媒体として魔法を展開、放射する。離す為の魔法である為、弱めの魔法ではあったが、尻尾が微弱な痛みを訴えていた。
あのまま攻撃を喰らい、体力を大きく減らされるよりは被害が少ないのだが、自分の体を媒体として使うのは良い気分では無い。
「つよ……」
言葉にする気など存在しなく、心に留めるだけの思いが洩れ、口から呟いてしまった。一番近くにいる誠実さえも聞こえない小さな呟き。エイドルはその呟きで、誠実の事を心の底から強者と認識しているのだ、と再認識をする。
戦闘狂が溢れる蛇竜軍の元帥と言えども、エイドルでは戦闘狂では無い。相手が強いという事は、疲れる、しんどい、などと言ったストレスが溜まる要因でしか無いのだ。強いばっかりに回ってきた事実にため息を吐きそうになってしまうのだが、堪えて誠実を瞳の中に入れる。
再度両者は動き出す。先手は誠実、少しの高さ跳び上がり、エイドルの首に蹴りを喰らわせようとする。その蹴りに対して、エイドルは魔力が籠って腕を首横に出す事で防ぎ、二度目の攻撃が来る前に懐に潜り込んで打撃を与える。
誠実はその打撃攻撃を魔力を一点集中をする事で最小限のダメージに抑える事に成功しており、お返しと言わんばかりにエイドルの頭を掴んで地面に再び叩きつけようとする。しかし、二度も地面に叩きつけられる男では、竜では無いのだ。誠実の手首を両手で拘束し、魔法を展開させる。
超至近距離の魔法展開、魔法を放射するまでも無く、即座に発動した。咄嗟の魔法ではあるが、範囲を犠牲に威力を底上げした魔法なので、誠実の手首を吹き飛ばす程度の威力はあった。突然の手首消失、それに誠実の体は大きく揺らいでいた。
トッ、という軽い音を周囲に響かせた後、誠実の顎に蹴り上げをする。悲痛そうな、言葉にならない声を辺りに鳴らしながら残っている手で反撃をしようとするが、当たらない。欠損、というのは中々慣れるものでは無い。強者であればある程、その感覚は失われていく。
圧倒的なスピードで翻弄はしない。擬音で例えるのならば、ふわり、という語句であり、身軽に動き、速いのか遅いのか、分からない速度で翻弄をしていた。重いダメージは無い、しかし着実に、確実にダメージを溜めていた。
誠実にダメージを与えてから32撃目、という辺りで誠実は目を閉じ始めた。疑問を感じながらダメージを与えようと考えたのだが、その思考は即座に停止する。竜として、戦士としての勘が告げているのだ。このまま攻撃を与えていては、自分が大ダメージを与えられると。
その自分の勘を信じ、その攻撃を避けようとする。しかし、遅かった。エイドルが行動した時にはもう手遅れだったのだ。追撃しようという考えが停止した時から動くべきだったのだ。誠実を中心に、緑色の魔力が巡り始める。それから数秒後、緑色の魔力が誠実に収束し……惑星を照らした。
全体が荒野に成り果てた惑星で、少量の傷を持ちながら立つ男と、大怪我を持ち立っている男が居た。誠実は吹き飛ばされていた手首を完全に再生していた。対してエイドルは誠実の爆発によって、右腕欠損、片目失明にまで追い詰められていた。
このまま戦っても結果は明白。勝つのは誠実であり、負けるのはエイドルだ。それでも、エイドルは立つ。逃げたい、痛い、そんなマイナスの感情に襲われようとも、エイドルは立ち続ける。片目が見えなくなろうとも、見えるもう一つの瞳で、鋭い眼で睨み続ける。
「何故立ち上がる?お前は限界だろ。限界の限界まで強者に挑みたい、という愚か者でも無い。それなのにどうしてお前は愚かであるのだ?」
「退けれねえからだよ。俺だって馬鹿な事やってる自覚はある。けどなぁ、負ける事は許されないんだよ。彼奴等は俺が負けても責めやしねえ。仕方無いって言う、強いからってな。けど、だからこそ負けれない。負けてはいけないんだよ」
「やはり馬鹿だな、お前」
エイドルの言葉に、誠実は心底呆れたような声で、呆れた言葉を口から出す。その言葉に怒りを露わにする事などせず、息を深く吸い込む。勝つ為の道筋を、可能性を模索する為に。元々知っていた内容、戦闘で発見したもので探し始める。
右腕の欠損を再生をしながらエイドルは動き始める。片目失明には再生のリソースを割かず、右腕に全てのリソースを割く。空中に魔法を展開しながら至近距離戦を挑む。魔法に正確な位置を指定しない事で、地面に着弾する事があり、目眩しになっている。
どうせ当たったとしても、ダメージにはならない。魔法が着弾し、目眩しになっている煙の中を駆け抜け、誠実の頬に拳を当てようとするのだが、失敗してしまった。顔の位置を移動させる事で外し、カウンターとして腹を殴られてしまった。
血が口から噴き出てしまう。鉄臭い血の味に嫌悪感を抱きつつも、至近距離戦を挑む。腹に拳を与えようと、首に蹴りを与えようと、何度攻撃をしようとも防がれる。何度も攻撃を防がれた後にカウンターを与えられる。
今度は、と首近くで魔法を展開させるのだが、誠実の拳で魔法を壊される。その拳は魔法の破壊だけには終わらず、魔法を展開して発動させようとしていたエイドルにもダメージを与えて吹き飛ばさせる。しかし闘志を抱くのは辞めない。血塗れになっても立ち上がる。
「お前さ、そろそろ理解しろよ。俺にはあのくらいの煙、探知が容易に可能だって事」
(分かってるよ!少ししか戦っていないが、お前がそんくらい可能なのはな。攻撃、防御、探知、全てがオールラウンダーだ。だからこそ油断が生じる。良く言うよなあ!圧倒的な強さを持っているヤツであればある程、驕りも比例して強くなるって!)
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