第38話 未来と未来の為の戦争 6

左手の親指と中指でパチン、と指を鳴らす。そうすると、空間から小規模の爆発が発生する。爆発は連鎖し、威力を徐々に高めていく。初めは少量の数を作るだけだったのにも関わらず、今の爆発の威力は誠実に大怪我を与えている。


エイドルが再生完了とした右腕で形を作る。親指を真上に立て、人差し指を誠実に向ける。所謂、拳銃を作っているのだ。人差し指に魔力を収縮、圧縮をして威力を高める。辺りの地面をを魔力の雷で傷つけながら発射する。


発射された魔法は、大怪我を背負っている誠実は勿論の事、連鎖している魔法を巻き込んだ。魔王が通った地面は大きく抉れ、熱々しく赤く光っていた。熱量としては、紅蓮状態の理玖には及んではいない。しかし、威力は持っていた熱よりもあり、真正面から受け止めた誠実の両腕は消し飛んでいた。


「何をした、お前。何故突然、魔法が発動したのだ。あんな魔法がどうして……」

「誠実、お前さあ、辺りの魔力を繊細に探知していなかったろ。お前にカウンターされて俺は握っていた拳が解けてしまった。いや、それが狙いだから解いた、の方が正しいんだけどな」


エイドルはカウンターされた時、拳に纏っている魔力が霧散した。意図的に、霧散させたのだ。基本的に霧散した魔力は微弱な魔力に変化し、自然の魔力に取り込まれる。しかし、エイドルが行使したように意図的に霧散させるのは別だ。


意思がある場合に霧散をさせると、魔力は固まった状態から粒の状態になる。しかし、それ以上の変化をする事など無い。意図的に霧散をさせたという事は、魔力の大きさを想像する、という事なのだ。魔力の霧散した大きさを想定しているから、粒以上の小ささに変化しないのだ。


ある程度の魔力を使う技量があれば可能であるこの技術に誠実は気づかなかった。いや、このような弱者が使うような技術だからこそ、気づかなかったのだ。煙という目眩しを使いつつも、真っ向勝負を挑んできたエイドルはこんな小狡い手を使わないと思ったのだろう。先入観を抱いてしまったのだろう。


誠実はエイドルの少ない言葉で真実に辿り着く。あの少ない情報だけで『意図的に魔力を霧散させた』という事実に辿り着いてしまったのだから、驚愕以外何者でも無い。流石十二狂典の一人、と感心しながら足を進める。


魔力の操作技術と膨大な魔力のゴリ押しによって両腕の再生が完了している誠実も同じくして、足を進める。一歩、魔力を全身に纏う。二歩、息を深く吸い込み、相手を倒そうと瞳に闘志を強く燃えたぎらせる。三歩、力を限界近くまで高める。


エイドルの水色の魔力と誠実な緑の魔力を纏った拳同士が衝突する。限界を高め続けている両者は、最初の強さの限界など、とうに超えていた。色を持った二つの魔力が天空に昇る。空一面に広がっている雲を消しとばす。


大きな攻撃と攻撃の衝突、それに地面は悲鳴をあげていた。深さ30キロメートル、長さ半径500キロメートルのクレーターが攻撃の衝突によって完成した。それだけで終わる筈など無く、クレーターが広がっている地面から亀裂が発生し、大きく広がっていた。


使用している右腕とは別の左腕で誠実の頬に攻撃を与えようとするが、誠実の右腕によって防がれてしまった。誠実は、防いでいるエイドルの左拳を強く力を込めて離した後、衝突している自身の左拳を離す。そして止める物が無くなったエイドルの右拳は突き進むが、誠実は右腕でエイドルの右腕を弾く。


誠実は右足を構える。途轍もなく魔力が込められている足に、エイドルも左腕で防御体勢を取る。力を封印している人間状態の時に岩でも持っているかのような重さに驚愕の顔を偽り無く浮かべながらも、弾かれた右腕の右手で足を掴み、クレーターによって深さが生じた地面に叩きつける。


ただでは叩きつけられない、と言わんばかりに魔法を展開する。誠実とエイドルの一直線では無い。エイドルを中心として魔法が全方向に展開されているのだ。これは俗に言う、飽和攻撃というものだろう。確かにエイドルはこの飽和攻撃を避けきれないだろう。まあ、それは全部避けようとしたら、になるのだが。


全てを避けるのが出来ないのであれば、全てを防御すれば良いのだ。飽和攻撃が終了するまで、常時展開するのは魔力消費が激しい。ならば、とある考えを思いつき、行動をする。魔法が発射され、直撃するかのように見えるが、直撃するという事など無く、近い場所で爆発した。


エイドルがした事は至極簡単。魔法を瞬時に展開しただけである。魔法を瞬時に展開するだけなら、魔法、魔力を習って少しの少年でも可能である。しかし効果を十全に発揮するとなると、有数の実力者しか不可能になってくるのだが。


防御を展開して防がれている姿を見て尚、魔法の放射は続く。エイドルの耳からはガンガンガンガン!という金属音が衝突し合う音とは別物の音が響き渡る。耳障りな音に額に青筋を立てながらも、右腕を横に移動しながら拳を握る。


黄金風典雷ギュリア


拳を握ってからコンマ000何秒か、黄色の稲妻を放出している渦が発生した。この黄色の渦は、エイドルが拳を握った事で発生した、エイドルの魔法である。黄色の渦から発されている稲妻は飽和攻撃用に展開されている魔法を破壊する。


「なんだあの魔法……俺よりも、魔法の高みは上だと言うのか?そんな事……ふざけてる…!お前なんかが俺よりも上だなんて認めない。認めてなるものか!」

「例えお前が認めなくても、事実はそれを認めている。お前、誠実なんだろ?そんな称号を冠す程良いヤツじゃねえと思うけどな。いや、偽りや飾りの無い心を持つ事が誠実でもあるから、正解とも言えるのか?」


そんな疑問を抱きつつも、黄色の渦を振り下ろす。黄色の渦と衝突した誠実は、悲鳴をあげる。醜く足掻き続ける。


死にたく無い、死にたく無い、という言葉を連呼する。しかし、無情なまでに死という現実は誠実に向かっていく。歩きながら、という速度では無く、死は全力で走りながら誠実を捕まえに行く。誠実はその死から逃げ出そうと、黄色の渦から脱出を試みるが、エイドルは拘束魔法を使用する事で、脱出が不可能となった。


黄色の渦に完全に取り込まれた誠実は、魔力反応が完全に消えていた。そして最後の仕上げに、右手の親指と中指で、パチン、と鳴らす。


そうすると、黄色の渦は空中に霧散し、消えて無くなった。エイドルは勝利、という事実に安堵のため息を吐きながら、地面に倒れた。

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