第16話 影VS魔王 2
獅子である理玖が笑みを浮かべる。獲物を捉えている猛獣のような笑みを向ける。体から発している魔力は時間が経つたびに増えている。成長限界が無限なのか、そう思わせる程に。
久遠の影はその状況に不味いと感じたのか、多数の魔法を展開し、放射する。所謂飽和攻撃、というやつだ。しかしこの程度、対応できない訳が無い。魔王とは魔なる王だ。魔力、魔法に長けている王だ。物量で何とかなるのならば、魔王という称号を名乗っていない。
魔法に対処しながらも、隙を伺い、魔法を放射する事に集中して防御をする暇も無い久遠の影に魔法を当てる。
魔法を喰らった事で揺らいだ久遠の影に理玖は蹴りを喰らわせる。全力でも、本気でも無い蹴り。しかし久遠の影には大ダメージであり、血を吐いていた。
そして反撃をする暇など与えず、頭上に移動した後、右手に魔力を集め、海へ叩き落とす。
「早い帰還だな、闘志」
理玖は瞬時に振り返り、背後で金棒を振ろうとしていた闘志の影に打撃を与える。闘志の影と理玖の膨大な魔力が籠ったぶつかり合い。周囲に魔力が発散される。強者同士の魔力がぶつかった事で暴風が生じる。
『バン!』という小さな爆発音が聞こえた後、空中を高速移動をしながら攻撃し合う。理玖の右拳が飛び出るが、闘志の影は金棒で防ぐ。今度は闘志の影が金棒を振るうが、魔力を込め、硬化させた左腕で防ぐ。
二度目、闘志の影の金棒による打撃攻撃が理玖に刺さる。先程よりも、魔力や力が込められている打撃攻撃は、理玖を海へと落とす。
理玖は落ちる最中も魔法を展開する事なく、海に落ちていく。海に落ち、水柱を立てながら魔力を高める。
闘志の影は理玖が何かを企んでいる、そう感じたのだろう。先程理玖が落ちていった時よりも速く向かう。
(……あれが闘志の本気か。なるほど、流石身体能力最強)
理玖は向かってきている闘志の影に目を細めながらも、右拳に魔力を集める。
闘志の影が海に突入し、金棒を構え、魔力をそれに纏わせながら此方に来る。
今可能な魔力出力を限界まで引き出し、身体能力強化をした後に向かう。
金棒と拳が当たる時、この世の暴力を具現化したようなものがぶつかり合う。先程のような魔力打撃のぶつかり合いなどでは無く、本気の本気、殺意が籠った強烈な魔力打撃だ。
そんな強烈な魔力打撃の地点を中心として海の水が消える。
もう一撃、両者の攻撃がぶつかる。触れる度に爆発音が鳴る。強烈な攻撃が衝突した事で周囲の被害が大きくなる。
『
理玖がそのぶつかっている拳から魔法を展開し、闘志の影を吹き飛ばす……筈だった。予想外の事態に目を見開かせる。闘志の影は体をズラす事で避けたのだ。自身の金棒を犠牲にする事で。闘志の影はその行動に固まっている理玖に拳の打撃攻撃を喰らわせる。
しかし固まっていようとも、モロに喰らうわけにはいかない。咄嗟に魔力を巡らせた両腕で防御をする。それでも攻撃は強力だった。理玖の両腕は今までシャロンやアラン、
この痛みに、自身を追い詰めているこの闘志の影に心が踊る。両腕の骨のヒビを治しながら魔力を上昇させる。歪んだまでの、心の底から楽しんでいる笑みを。常人が見たら憎悪を、嫌悪を自然的に感じてしまうような、忌み嫌う笑みを。
闘志の影は異常なまでの理玖の治癒力に驚きで顔を歪める。しかしその驚きの時間は大して続く事は無く、理玖の側に途轍もない速さで移動をし、拳による打撃攻撃を喰らわそうとするのだが、その攻撃は拳を掴み取るという、理玖の行動で阻止される。
次の行動を敵に譲る程甘くはできていない。自身の額を魔力で強化、硬化をした後、頭突きを喰らわせる。流石十二狂典の影、と言ったところだろうか。先程理玖が行ったように、咄嗟に額を魔力で覆い、防御をする。
それでも、それでもダメージは大きい。これからこの行動をするぞ、と決めていた側は魔力の準備ができているが、それを知らなかった側は防御をできたとしても不完全だ。闘志の影は頭に襲いかかる鈍い痛みに体が揺らぐ。
けれど、歯を食いしばり、痛みを堪えてから体勢を整える。掴まれていた自身の右手を振るい、拘束を解く。闘志の影はその振り解いた手で握り拳を作り、理玖に向かって攻撃を仕掛ける。否、仕掛けている、とそう見せかけていた。
反対の拳、左拳で理玖の顎に向かってアッパーを喰らわせる。突然の攻撃、突然のダメージに固まっていると、闘志の影は回し蹴りを仕掛けてきた。当然、今の理玖には避ける術など無く、モロに喰らい、勢いよく吹き飛ぶ。
大ダメージの連続、理玖の体力は先程のどの攻防よりも遥かに削られていた。しかしそれでも倒れる訳にはいかない。急激な体力消耗で危機の信号を送っている脳内に魔力をぶつける。まだ、まだ終わらないのだと。自身の命が尽きるまで、敵の命が尽きるまで戦い続けるのだと。
戦士として、魔法使いとして、魔王としての矜持が危険信号を取り払う。爪に魔力を込め、空中に刻み跡を残す。
「焔は心。心の焔が燃え続けている限り、戦士に限界は無い」
宗介の言葉だ。何故其処まで限界を極め続けれるのか、そう聞いた時に言った言葉だ。
「痛みは戦闘において最も重要な要素。痛みを感じるから、此処まで来れた。此処まで燃え続ける事ができた」
ヘイランの言葉だ。戦闘講義の際、痛みを感じるのはダメなのか、という新人戦闘員の質問に対して答えた時の言葉だ。
理玖は自身の手に爪をめり込ませる。普段ならば痛い、その考えだけが浮かぶだろう。しかし今の理玖には自身を落ち着かせる役割へと変化させている。
獅子の咆哮を理玖は叫ぶ。正に王、正に頂点。上に立つ者の資格が詰まった咆哮。
「勝負をしようじゃねえか。お前等影と俺、何方が強者に相応しいのか」
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