番外話 メタメタのラーメン屋

「おい、アレク。あの小娘に何か仕掛けたか?」

「ちょいちょい、浮舎君や。僕がノエルにすると思ってるの?義娘にはやらないよ」

「義娘ねえ」


店主から出されたラーメンを食す為に箸を取っていれば、浮舎から話題を振られた。最近家族になった義理の娘、ノエルに関してだ。浮舎が言う義娘には、というものは理玖が闘争王として降臨してきた時代に遡る事になる。戦争に勝つ為に国民を改造しろ、と命令をされ、改造した時の事でも言っているのだろう。


しかし、理玖は正義の味方でも何でも無い。優先している事は人命などでは無く、己達の無事だ。当たり前だろう。どれだけ強力な力を持ち合わせていたとしても、選択を一つでも間違えたら部下達が死んでしまうかもしれないのだ。傭兵時代の部下達は無名無法王冠よりも弱かったのだから。


「何で改造云々に関して責められなきゃいけないのかね。あれは雇い主からの命令だし、人間の美的感覚をエルフである僕に押し付けるのが間違いなんだけどね。人間とは違う種族なんだから分かり合えないのは当然でしょ」

「人間なんてそんなもんだろ。自分の正義を信じてんだよ。無駄な事にも時間を割く。そんな愚かな生命体が人間だ。だから好きなんだろ?お前も、俺も」


浮舎はラーメンと一緒に出された餃子をパクパクと食べながらそんな事を口にする。確かにくだらない事でも時間を使う。長寿種であるエルフなら兎も角として、短命種である人間がそれをしている。だから面白いと感じたのだ。だかは時たま、人間たちに力を貸す。


本当に面白くて心をよく動かせる生き物だよ、と心の中で感じながらラーメンをズズズと啜る。浮舎と理玖の会話は先程で止まり、今は黙々と出された飯を食べている。理玖の顔の数倍の大きさがある皿を手で押さえていると、「あ」と声を出しながら上を向く。


「そういえばさ、浮舎。お前義娘である雪蘭シュェランと結ばれたんだって?」

「んぐふっ!?……アレク、お前いきなりなんて事を言い出すんだよ!」

「いや、雪蘭から聞いたから」


顔を赤く染めながら「雪蘭め……」と唸っている浮舎には悪いが、報告されないと困る。失敗した、成功した、と言われなければ、慰めれば良いのか一緒に喜べば良いのか、それが分からない。それに雪蘭が行動に移した原因は理玖であるのだから。


「あんなに『誘われても断るよ。俺よりも雪蘭には相応しいのが居るしな』とか言ってたのにな」

「い、いや……雪蘭は割と非常識な所があるから親としては心配だし、力も強いから並大抵な男じゃダメじゃん?その点から見れば俺は不死者の巣窟の王である浮舎だから問題なしなんだよ。それにな?雪蘭は強いとは言え、俺たちと比べたら弱いからさ。王である俺が守ったら大丈夫だろ?けど雪蘭を俺の物にしたかった、とかいうのじゃ無くてだな!?それに俺は配下から身を固めろって言われてたから丁度良かったんだよ。何も知らない、最初から警戒心を全開にしなきゃいけないなんて大変だろ?だからよく知ってる雪蘭が良いんだよ。もちろんその点だけじゃ無くてな、ちゃんと好きな部分もあるんだぞ!?」

(なげえよ)


何か理由を付けたい浮舎はそんな長ったらしい言い訳を次から次へと出す。素直に認めたら良いものを、と脳裏に浮かべながら心の中で悪態をつく。不死者の中でもトップレベルの頭脳を利用しているのだろうか。自身の配下達から__主にシャロンとリファから__魔王としての頭脳をアホみたいな使い方をしている、と言われている理玖が言える事では無いが、無駄遣いだろう。


少々浮舎のマシンガントークには鬱陶しさを感じつつも、『親しき仲にも礼儀あり』という言葉もあるので、文句も言わずに食べ進める。まあ、この煩さは味覚に集中が不可能な気がしたので耳に感覚鈍感の魔法を掛ける。


コリコリとしたメンマ、脂身が乗ってトロトロのチャーシュー。最初のモリモリとしたモヤシからは想像できない程の少ないモヤシ。しかしスープの味が染み、美味さが広がっていく感覚が理玖を襲う。此処はやはり最高の店だ、と再確認していると、浮舎の声が耳に入る。


「てかさ、こんな話題をして良いのか?あれだぞ、こんな話書いてるけど作者中学生だぞ。年齢の癖に知りすぎじゃない?耳年増ってやつ?」

「中学校はもう卒業してるし、この年齢は普通でしょ。むしろ少ないくらいだと思うぞ。後一つ、耳年増の事をちゃんと調べたらどう?作者男なのに性転換して女になっちゃってるから」

「ふーん……この話メタくね?」

「浮舎が始めた物語だけどね」


先程まで浮舎の言い訳空間だったのだが、今はメタというネタ空間に変化している。それにため息を吐きながら手を合わせる。麺、具材、スープを全て食したのでラーメン屋から去ろうとする。しかし、急に止まってから机に金貨を乗せる。


「それで払っといて、ご馳走様。ありがとね、誘ってくれて。じゃーねー」


理玖は手を振りながらラーメン屋を出て行く。




メタメタラーメン屋、第一完!

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