第50話 浮舎と歩くよ地獄道

「あはは、おうその首叩っ斬ってやるよ。其処に並べ」

「落ち着けよ、な?」


紫黒色の炎と雷が周囲を舞っている世界で鬼たちの屍の上に立っているエルフと不死者の両者。エルフの理玖は不死者の浮舎の首元に剣を添える。魔力で強化し、魔法で威力を増大させている剣を。誰がどう見ても怒っている、と理解可能な焔を瞳に置いて。


此の世界の……地獄の炎に見劣りをしないどころか、それを上回る炎を内側に抱いている理玖に浮舎はひっそりと冷や汗をかいていた。


「どの口が言ってるんだよ。浮舎、君が世界間転移の魔法を暴発したから此処に居るんだろう?」


二人が地獄に存在している理由としては、浮舎が世界間の転移魔法を改造した時、暴発してしまったのだ。


その改造で理玖も参加をしていたらこの憤怒は理不尽極まるモノになってしまうのだが、参加は一切していない。浮舎の近くを通っただけで、これである。


怒りと焦りが視線を通して交わり、衝突している。何秒経っても、何分経っても動かない浮舎にため息を吐き、剣を鞘へと納める。此処で怒りを開放したとしても、状況が変化する訳では無い。


心の内に収納してから歩き始める。












「あれ、サイクロプスだよな?王に仕える一族と言われている。地獄に居たっけ?」

「いや、僕の記憶内では居ないね。来た時も凶暴化していて変だな、とは思ったけど。まさか此処までだとわ。……一匹、よろしく。それで今回のは水に流してあげるよ」


そう口にした後、一匹のサイクロプスに向かう。人間を超越したエルフとしての、魔王としての突き蹴りがサイクロプスの腹部に直撃をする。


金属のような硬い感触ではあったのだが、理玖には全くの関係無い事。脚に『内ナ激動イード』の魔法を纏わせ、サイクロプスにダメージを受けさせる。


浮かぶのは驚愕と激痛。先程まで体を巡らせている魔力の循環が今は緩く回っている。推測は可能だ。金属のような体の性質、そのせいか、そのおかげか、ダメージを真面に受けた事は無いと考えられる。いや、正確には一度だけ、あるのだろう。


「刻んであげるよ。君の生に二度目の敗北を!」


鞘から抜かれた剣はサイクロプスの反応速度を優に超え、胸に斬撃を与える。


一度、二度。斬撃が交わるように体を切り裂いていく。血が噴き出し、体が赤に染まる。けれども理玖は止まらない。交わっている部分に刺突を与えようとする……が、動かない。


持ち主である理玖以外の魔力が発せられている点から空間に固定しているのだ、という理解が頭に降る。


傷つけている本人では無く、剣を狙ったのは攻撃力を減らす為であろうか。それとも、本人では魔法を弾かれる可能性を危惧したからなのか。


しかし、何方にせよ、知る術は無い。理解する術も無い。けれども、問題は無い。


『闇ノ太陽』


剣から離しつつ、黒い炎を纏う魔法を発動させる。そして離した手とはまた別の反対の手で握り拳を作り、サイクロプスの顔面に直撃をする。先刻のような内部衝撃を繰り出す特殊な技では無いが、確実にダメージを与え、身を焦がしている。


顔が焼け、悶えているサイクロプスが相手と言えども、攻撃の手を緩める等と言う甘い事はしない。


闇の炎を右で作った握り拳に一点集中で纏わせ、顎にアッパーを与える。まだ体にある内部衝撃の激痛、顔を焼かれる延焼攻撃の痛み。其方に感覚を割いているサイクロプスにとっては、理玖のアッパーは完全意識範囲外の攻撃。防ぐ術などある訳が無く、無防御で直撃する。


赤黒い空に打ち上げられたサイクロプスの瞳に映ったのは、自身に大ダメージの連続攻撃をしている理玖であった。


激熱の嵐か、と攻撃をしている本人である理玖ですら思ってしまう程の連発。


「イイ加減ニシロ!」


空中で脚や拳をサイクロプスに叩き込んでいた理玖の体に、人間の何倍も巨大な手で掴まれる。


「ねえ、僕の両手、捕まえてなくて良いの?」


犠牲ノ誓セトランドゥ










「意外だね、まだ生きてたんだ。めっちゃゴキブリみたい」

「ゴキブリ、トイウノハ知ラナイガ、侮辱ヲサレテイルノハ良ク分カッタゾ」

「そんなつもり無いよ。心の底からの褒め言葉」


六万年経ってしまったせいか、普通の日本人ならば「馬鹿にしているだろ」と感じる言葉も、素直に褒め言葉として使っていた。確かにこれは不味かったか、と反省をしながら目の前のサイクロプスを瞳に据える。


敵意、怒気はあまり感じられない。ならば理玖の圧倒的な力に恐怖をしたのか、という考えが浮かんでしまうのだが、それも無いだろう。恐怖が感情として浮かんでいない。


ただ一つ分かっている事。それは戦わなければならない。敵意も怒気も感じられないと言えども、戦意は感じられる。


サイクロプスという種族はあまり戦意が無い……というよりも感情が薄い種族だ。


考えられるのは、このサイクロプスが他のサイクロプスとは違う存在、俗に言う変異種と呼ばれる者だ、という事。


しかし、そんな異端者を現在の地獄王が許すとは到底思えない。あの男は基準通りでなければ全て潰す、という心構えをしていた筈。


そんな疑問が頭を巡った時、背後から浮舎の声がした。


「話をして彼方の事情が理解でき……何やってんの?」


対応を任せた筈のサイクロプスを連れて来て。

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