第19話 包帯ぐるぐる魔王様

体の所々に調整剤を流され、包帯を巻かれている魔王が一人。無名無法王冠の玉座に立つ人物、理玖である。


「どうしてこうなったんだろう」


何故こうなったかの理由については、数日ほど遡る事になる。







十二狂典の七名の影を討伐し、六名の影を吸収した翌日。理玖の体は筋肉痛に蝕まれていた。この現象は当たり前と言っても良いだろう。理玖は魔力に対して大きな耐性を持っていると言え、魔力が爆増し、それに耐える為身体能力も上昇したのだから。むしろその程度で済んでいるのは理玖だからなのだ。


魔王変化で魔力の急上昇に慣れている理玖だから耐えれているのだ。常人ではすぐさま体が破裂してしまうような魔力に耐えれたのだ。


しかしそれでも痛いものは痛い。戦闘中はアドレナリンがドバドバと出でいる為、痛みを感じても止まる要因にはならない。けれども日常生活の中であれば別だ。普通に痛いし痛いし痛いのだ。たまに足の小指をタンスにぶつけて悲鳴を上げていたりする。


理玖が筋肉痛の痛みに悶えていると、扉がガチャリと音を鳴らし、開いた。この部屋は理玖の自室である。自室に来訪する人物少ない。自室の場所を知っているのは幹部以上であり、その幹部達も重いくらいの忠誠を誓っているので、来訪するのが失礼と感じているのか、来る事は少ない。


最高幹部達は全員が全員理玖がスカウトをしている為、其処まで重い忠誠は持っていない。どちらかと言えば仲間意識が強いのだろう。しかし偶にしか来訪はしてこない。自分の仕事や自身の研鑽で忙しいからだ。


自分達のボスが戦ってきて何の心配もしないのはどうかと感じてしまうが、元より団結力が本当に危機的以外はクソ程ねえ奴らなので、仕方ないと納得をしてしまう。


理玖の脳内には結構な頻度で来訪しており、心配もキチンとしてくれている自身よりも長く生きているエルフ。シャロンが頭に浮かんでいた。というか魔力の波長、多さからしてシャロンだろう。


「戦闘、お疲れ様で……エンド様!?まさかあの戦闘で後遺症が……すぐに救護協定団を呼びます!」

「違うから!これ筋肉痛!魔力が急激に増えた事で身体能力が上がったから痛くなったの!」

「そうなんです……大事じゃないですか!?魔力痛は悪化する事もあるんですよ」


理玖はシャロンに首の根を掴まれて救護協定団の部屋に連れて行かれる。








そして今に至るのだ。魔力痛を放置しておくと機器的状況になる場合もある、というのは理玖も理解できている。しかし処置はもう既に施していた。重症な魔力痛を治療して無くす事は今の理玖の実力では不可能なのだが、軽症であれば対処は可能なのだ。


何故理玖が可能としているのかは、理玖と同じ任務に行く事が多い宗介は魔力痛になるのが他の者達と比べると大変多い為、すぐに対処をする必要があるので習得必須だったのだ。対処の為の回復魔法、治療魔法を達人であるラミエルもアランに教えてもらえたのも大きいだろうが。


「最近僕休み過ぎでは?」


理玖はそんな考えを口にする。理玖は事実として、シャロンの膝枕、祭りで1日、そして魔力痛の筋肉痛で三日休んでいる。


最近は激しい戦闘が増えた分、己が休まなければいけない時間も増えてきた。どちらかと言えば強制的に休まされているのだが。戦闘の激しさで言えば、最高幹部をスカウトする時よりも一段階上がる程度なので、理玖としては平気も平気であり、少し文句を言いたいくらいには元気である。


しかし、この三日で更なる膨大に増えた魔力のコントロールを大分掴めてきたのは休んで良かったと言えるだろう。あの時みたいな繊細でロスの殆ど無いコントロールはできない。特にシャロンのような神がかった芸当はできない。


理玖は目を瞑る。シャロンが時たま自身に見せていた神業を。あの模擬戦では見せていなかった神業を。


自分の思考と魔力をリンクさせる。一気にやっても失敗するだけだからだ。理玖の魔力操作に足りないのは繊細さだ。魔力の一本一本を慎重に繋ぐ。百十二本を繋ぎ終わり、百十三本を繋ごうとした時、脳内にバチッ!と軽い電気擬きが流れる。


「うーん、失敗。まあ繋げた百十二本は無事だから良いか。休みはまだあるし、全部繋がれるように努力しよ」

「何を努力してるんですか?安静にしろって言っただろ、このバカ」

「ちょ、ちょっと待って。話をしよう、話を。話せば分かるってヘイランも言って……ああああ!!」


ラミエルが理玖の頭を掴み、力を入れる。元々人間よりも高いエルフな身体能力を、素の状態で今の理玖は凌駕しているにも関わらず、その防御を余裕で貫通している。


力が強すぎて頭蓋骨がミシミシと鳴る音が聞こえてくる。流石天使管理局統括支配人をしていたラミエルだ。他の天遊軍に所属している天使とは比べ物にならない程のパワーである。流石相棒であるアランからもウルトラエンジェルゴリラと言われるだけある。


「僕は魔力痛で入院してるんだよ!?暴力反対!」

「私は先に安静しろって言ったぞ。魔力反応で悪化する可能性があるから魔力修行はやるなって私言ったぞ。でも破ったのはお前だもんな?つまり私が怒ってるのは仕方ねえんだよ。大人しく暴力を受け入れろや、このバカエルフ!」


正に正論である。ラミエル、アランからしてみれば入院中に下手な事をするのは糞野郎以外他ない。態々自分達の仕事を増やすのは理玖であっても嫌悪の対象でしかない。


もしそれをやられたら理玖は多少キレ、叡智を奪う為の魔法、『知我ナリ叛逆ノ譚エヴェルギリアス・クリオンテルダン』を使って廃人にさせる事だろう。


理玖はその怒りの理由を知っている為、暴力を受け入れる。ラミエルはそんな理玖を強めに壁にぶつけた後、魔法で頭に衝撃を加える。魔王である理玖が気絶する程の強烈な衝撃を。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る