第18話 影VS魔王 4

音を鳴らしながら偏愛と久遠の影を吸収していく。弱いダメージしか与えれない二人と言えども、強者には変わらなかった。偏愛と久遠の力が入ってくる。元々強大だった理玖の魔力が更に膨大になっていく。吸収した魔力で背後の触手を強化する。


輪廻は怒りで魔力出力を爆増させる。あの二人を殺された怒りだろう。それは残りの3人も同じ事。我武者羅に突っ込んでいく。


ハルバードと大剣、小太刀と太刀を持った空白と再生、誠実が向かってくる。


やっと本気になってきた、という所だろうか。これからの戦いを想像するとクスリ、と笑みが洩れてしまう。


理玖は手と手を合わせ、魔力を巡らせる。そして魔力と魔力を衝突させた事で魔法『箱』を発生させ、自身の愛剣を取り出す。その剣を握り、もう少しで当たりそうになっている武器達を弾く。


三人は一斉に弾かれた事に驚愕の表情を浮かべるのだが、関係ない、と言わんばかりに攻撃を再度降ってくる。しかしそれすらも弾く。


「中々に重い……だけどなあ、魔力が死ぬ程なってないんだよ!」


今度は自分の番、そんな考えを感じさせる攻撃の激しさだった。三人は防御をしている。しかしそれでも、理玖の攻撃威力は、速度は、防御をしたとしても全て防げない領域に来ているのだ。十二狂典の影である者達が完全には防げていないのだ。異次元さが分かってくるだろう。


攻撃が進めば進む度に傷が増えていく。久遠と偏愛の影の力が馴染んできている、というのもあるだろう。しかしそれ以上に三人の消耗は激しくなっているのが大きいだろう。久遠と偏愛は魔力が多い。その分、攻撃魔法があまり得意では無い為、チクチク魔法しかできなかったのだが。逆に空白、再生、誠実は攻撃魔法が得意と言っても良い。無名無法王冠の中でも此処までのは中々見られないくらいには。


しかし魔力の量は決して多いとは言えないだろう。久遠や偏愛とは違い、先の戦闘など存在せず、今の戦闘だけで魔力が大分少なくなっているのだから。魔力の消耗が激しいのは量以上にロスが大きいのも影響してくる。


偏愛と久遠は魔力研鑽を多く積み、魔力量とロスを抑えてきたのだろう。あの二人は完全なる努力タイプだ。それと比べると三人はどうだ?才能がある感覚タイプだ。才能がある事は悪いとは言わない。むしろ才能があって困る事など少ないだろう。


しかし才能感覚タイプには陥りやすい欠点がある。何でも自身の感覚だけで何とかなってしまう為、努力らしい努力を経験した事が無い。今の魔力操作技術だって戦闘で身につけた術だろう。理玖は力を得てから少ししてシャロンという上に出会った事で才能に驕る事は無かったのだが。


理玖の斬撃がまた激しくなり、今度は三人とも碌な防御を取らなくなっていた。魔力限界なのだろう。理玖みたいに他の魔王へと変化する事で魔力を回復させる手段も無い。対象を吸収する事でその力を得る術も無い。もしあったとしても理玖には通じる事など無い。


三閃、その攻撃で三人の防御魔法は完全に破壊される。しかし追撃はしない。その行動に三人は不安に思いながらも、新たに防御魔法を展開しようとするのだが、理玖の背後を見た事で大きく固まってしまう。


背後にある触手が蠢いていたからだ。触手が拳のような、丸い形を作り上げる。その丸には膨大な魔力が巡っており、魔力感覚が研ぎ澄まされている今の理玖はそれのロスを殆ど無くしていた。理玖が人差し指を三人に刺す。そうすると、背後にいる触手は丸でラッシュを仕掛ける。


それを防御する魔力も、避ける身体能力も、三人には持ち合わせていなかった。丸が炸裂する。強烈な攻撃を全て喰らってしまい、限界の一歩手前くらいだった体力は限界以上の体力になってしまうが、まだ生を失っていない。


意図的に、この攻撃で死なないようにしたのだ。意識が朦朧としている三人を背後の触手で拘束し、その触手で吸収をする為に喰らう。飲み込んでいる触手の中で小さな悲鳴が響き渡る。外部からは聞こえなくとも、触手とは一心同体。内部の情報がよく分かる。


完全に取り込まれ、流れてくる自分以外の魔力に異物感を感じながらも、その魔力を一体化させる為に循環をさせる。先程は循環をさせなくとも、一定の範囲内ならば使用は可能だった。しかし今回のこの吸収によって、魔力を使用する際に障壁が生じてしまったのだ。


魔力を一体化させる為に目を瞑っていると、正面から輪廻の影が来るのを感知の魔法で把握できた。しかし背後に出現している触手によって阻まれる。


輪廻の影が触手と格闘して、理玖が魔力を一体化させようとして数分。


魔力の完全一体化が完了した。体に紫色の煌びやかなオーラが走る。


吸収した事で得たのは魔力、スキルだけでは無い。膨大な魔力に体が耐えられるよう、理玖の身体能力は大幅に上昇していた。


少し、ほんの少しのつもりで動いたのだが、いつの間にか輪廻の影の背後に回っていた。


「悪い、俺はいつの間にか随分上に行っちまったらしい」


形だけの謝罪。その強さに辿り着いたのは仲間を吸収したから。その二つに輪廻の影は怒り狂い、攻撃を与えようと動き出そうとしたいのだが、当たらない。否、動けなかったのだ。理玖の触手が輪廻の影を拘束していたから。


強くなった理玖にとって、輪廻の影の抵抗はあまりにも無力。


理玖の触手が輪廻の影を飲み込み、吸収をした。

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