第9話 化身VS魔王

斬撃を一閃、化身に喰らわせようと振るうのだが、化身は自身の腕を斧に変化させ、攻撃を防ぐ。


その腕斧を突破しようと、剣に更に魔力を込めて斬撃を放つ。しかし攻撃は突破しない。


化身は斬撃を放った事で隙が出来ている理玖に足で吹き飛ばした後、腕斧で斬撃を飛ばす。その斬撃は警戒するような速さでは無かったので容易に避けれた。


厄介なのは斬撃では無かった。厄介なのはこのフィールドだった。


斬撃を避けた理玖に向かって魔力の電気が放出される。予想していなかった攻撃に反応できず、魔力の電気をもろに喰らってしまった。


計算間違いをしていたのだ。自身と化身は同じなのだと、フェアな戦いなのだと思っていた。しかし違った。当たり前だ、この兵器の化身なのだ。歯車を攻撃された事で発する魔力の電気が化身に向かっていく訳が無い。


よくよく考えたら分かる答えが理玖は分からなかった。


理玖は体に負ったダメージの痛みを感じながらも、息を深く吸い込む事で冷静さを得る。


先程から使っている魔瞳を通して化身に瞳を向ける。数秒後、頭にズキンとした鈍い激痛が走る。両目には信じられない程の熱が襲う。


一瞬で答えに辿り着いた。その答えの正体とは魔瞳の過剰使用だ。魔瞳と言うのは魔力を常時使用している。常に魔力を循環させているので頭に激痛が走るのは勿論として、使用している部位である瞳に激熱が発生するのも納得できるだろう。


歯を食いしばる。流石に魔力による内部の痛みは慣れていない。強めに息を吐く。そして全身に魔力を巡らせる。今自身が感じている痛み全てを魔力に変換する。


シャロンから聞いた事がある。魔法使いの上のステージに渡るにはコツ、というものがあるのだと。


そのコツとは己を利用する事。己全てを利用する事。脳に感じている痛み、瞳が感じている激熱。その自身を阻害する様な感覚に魔力が膨れ上がる気配がした。


今の魔王として、魔法使いとしてのステージから上に上がれる様な感覚がした。


魔ナル者としての格が一つ上がった。


顔に刻まれているタトゥーに魔力が宿る。口を閉じ、眠りについていた獅子が目覚める。獣王として、頂点として咆哮をあげる。


理玖の白銀の髪には黄金のメッシュが宿る。魔力には猛獣の如く、猛々しく、頂点の獣の如く化身を獲物として捉えているかのように圧を掛ける。


理玖の碧眼は化身を視界に入れている。化身はその強烈な圧に恐怖をしたのか、両腕を剣に変化させ、攻撃を振るってくる。しかしその攻撃は当たる事など無かった。


その場から一歩も動いていなくとも、化身の全ての攻撃を弾く。魔力が更に込められて振るわれていくが、その攻撃すらも弾く。


化身はその状況に再び恐怖する。早く仕留めたい、殺したいとでも思っているのだろう。人類の叡智では理解できない程の魔力が込められていた。


化身は剣を振おうとして……できなかった。否、理玖が攻撃をさせなかったのだ。白色に黄金の色が混ざっている魔力が、まるで意志を持っているように動き出し、化身の動きを止めていた。


理玖の剣が化身の横腹に刺さる。剣に纏っている黄金で白の魔力は化身の腹に、体に侵食していく。


侵食していく度に周囲の歯車が壊れるような、ピシピシという音が聞こえた。理玖はその音に気にすること無く、魔法を展開し、発動する。


化身の体にある自身の魔力を収束し、爆発を起こすだけの魔法。超至近距離の膨大なダメージを喰らうのが絶対な攻撃。


意味ナキ古ノ演歌アドバリダドゥン・クラウセルニアス・エルファグネン・デラゴミドガリアス


爆発が起きる。内部だけでは無く、外の象型兵器にも影響を与える莫大な爆発が。








「二人とも、終わったよ」

「えぇ……あれでダメージがなかったんすか。本当にやばいっすね」

「流石マスターです!次元が違います!」


イリアは尊敬の眼差しを向け、宗介は心底引いたような視線を向ける。理玖の二人の眼差しの温度差に苦笑を浮かべる。そして宗介の言葉にも苦笑をする。


宗介が言うようにダメージが無かった訳では無い。ダメージを食らった後に魔力再生をしたのだ。とは言っても、内部ダメージは回復できていないが。魔力回復で回復できるのは外傷だ。魔瞳を使用した事で負傷した脳や、激熱が襲った瞳は完全に治ってるとは言い難い。


戦闘ではアドレナリンがドバドバと出ていて、痛みは戦闘を続行できない程では無かった。しかし戦闘が終わって今。理玖の体には激痛が走ってしょうがない。


今理玖が倒れていない理由など、魔王として、無名無法王冠のボスとしての矜持に他ならない。


これからの事を考えるとため息を吐いてしまう。激痛だけでは無い。象型兵器の核はしっかりと回収したとは言え、殆どが無くなっている。幸いとして、構造は全て頭の中に入っている。


なのでシャロンと話し合い、正式な情報を伝えれば何とかなるかもしれない。


今回も【全窟の機械王】であるヘイランの直属部隊、機電隊を頼る事になりそうだ。変な機能を追加するからあまり頼りたく無いのだけれど、と不満が心に出てしまうが、あの隊に頼るしか兵器の復活は無理そうだ。


「それじゃ、帰るよ」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る