第31話 氷結凍結魔王様

李克の上空に漂っている冷気の地点と、理玖という存在の居場所を入れ替える。理玖の炎から出現した冷気だから成せる芸当である。とは言っても、魔王としての技量があるから出来る、というのがあるのだが。


凍てつく炎を纏っている脚が李克に当たる。腕をクロスにして防御体勢を取っていたのだが、魔力という威力を増大させる外付けを装着し、強引に押し切る。


凍えに怯える炎使いは地に堕ちる。凍えという絶望を支配する不死鳥は天へ舞う。







冷え切った地面に李克は触れる。冷気と自身の居場所を変化させる時に、密かに使用していた魔法がある。名前は即興だったのでまだ付けていないのだが、効果としては地に触れた者を氷付けにする魔法だ。李克を限定とし、理玖が受けないようにしなかったのは時間と効果の問題である。


時間の問題は即興で作ったから。効果の問題は李克を限定として場合にすぐ破られる可能性が生じているから。李克は魔力を使用しなければ白炎を発動できない。しかし李克の白炎は、不死鳥である紅蓮状態の理玖ですら脅威と認識する程。次の一手を用意する為に時間が欲しかった。


十二狂典との決戦の日は近い。だから影も、李克も動き出したのだ。


理玖が魔力、炎を自身の体内に収束し始める。しかし、その行動は中断する事になってしまった。山のような大きさの李克を閉じ込めている凍てつく牢獄に白いヒビが入る。あれだけの大きさ、どんなに灼熱の炎でも溶かすには最低でも何十分は掛かると見積もっていた。


李克の炎の火力を、出力を見誤っていた。山のように大きい氷が溶け出していく。氷越しで、熱を感じない筈である。氷の壁は分厚い。例え地獄の炎でも熱を通さないと自負していた。理玖は分かっていた、分かっていたと思っていた。炎の扱いは相手の方が上だと思っていたのに、心の奥では甘く見ていたのかもしれない。


氷が完全に砕け散る。天空に白炎が立ち昇る。


「マジかよ」

「予想外だろ?儂も予想外だ。儂は炎を扱うのは頂点だと思っていた。しかし、しかしだぞ?蓋を開けてみれば、貴様という上がいるでは無いか。扱い、という点から見れば儂が上だ。けれどな、性質変化、という点で見れば世界は違ってくる」


性質変化というのは、長く生きた者程できなくなっていく。長年自身が使っている性質に慣れてしまっているから、性質を変化する、という考えが段々と生まれなくなってくるのだ。もし、生まれたとしても可能か、不可能か、で言えば不可能な方が近い。変化しようとしても、思考を拒否をする。


その点、若い理玖はそれに縛られない。だから性質変化においては上と言われたのだろう。理玖の元々が性質変化が得意、というのもあるかもしれないが。


理玖は地に触れた者に強制で氷結化の魔法を解き、地面に降り立つ。灼熱の白炎で大分溶かされている雪や氷を再び世界に出現しようとするのだが、している途中で顔が歪む。結界で覆った範囲、フィールド内で半分しか出来なかったからだ。


どれだけ頑張っても、フィールド内に半分しか出現させる事ができない。一番あり得る可能性としては、白炎がフィールドを侵食してきている、という事だ。灼熱の炎、熱気が展開されているのは地点には、微弱だが李克の魔力が魔瞳に映し出されている。


(なるほど、先程の僕の冷気入れ替えから学んだ結果がこれ、か。多分だが、元々侵食させるという知識はあったみたいだ。でなければコレに辿り着かない。李克は天才型、感覚型、というタイプでは無いっぽいしね。でも、この微弱な魔力で入れ替えができるのか?)


理玖の脳裏にそんか疑問が浮かんだ。そしてもしや、という答えが見つかり、コンマ何秒後に『箱』から愛剣を取り出して振り返る。


攻撃的な意図は無い。今回は相手の攻撃を防ぐ為であるから。理玖の答えが正解では無かったら痛い目を見ていたのだが、正解だったみたいだ。ガチガチガチ、とぶつかり合っている金属音が耳に鳴り響く。先程は炎や魔法などで戦っていたのだが、武器も可能なのか、と関心の想いを抱きながら口を開いた。


「僕の推測が正しくて良かったよ。おかげでキツいのを貰わなくて済んだんだからね。魔法なのか、技術なのか知らないけどさ、李克のそれ、相当なジャンケン運ゲーだね。それを使われちゃうと、辛過ぎて泣いてしまうかもしれない」

「敵に使うんだから、其方の方が良いと思うけどなあ。敵の嫌な所をバカ程突くのが勝負ってもんだと儂は思うぜ?若人の魔王様や」


李克の振るわれた剣に対して、理玖は同じくして剣で弾く。その隙に、と言わんばかりに李克は己の白炎を放射する。それに対抗し、ノーモーションで凍てつく炎を放射する。


身全てを凍てつくす冷気、身全てを灼熱で呑み込み塵も残さず完全消去の熱風を辺りに拡散しながら衝突し合う。そしてその外側から剣を振るう二人が居た。片方は凍てつく冷気を纏い、片方は灼熱の熱風を纏う。


凍てつく冷気、灼熱の熱風、それ等の意思を継ぐかのように、理玖と李克の剣は衝突する。灼熱の熱と凍てつく冷気が均衡していたのは一瞬。勝者はどちらでも無かった。互いに冷気と熱風を消し去った。奇跡的に同じタイミングで冷気と熱風は消えた。数値てしては刹那を大幅に超え、虚空並みである。


冷気と熱風が消え去り、塵として形を残す。紅の花弁、白の花弁、その二つが空を舞う。衝突し合う両者の大空で舞い続ける。


「「さあ、と一緒に踊ろうか!」」

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