魔聖剣皇玉編

第47話 主人公みたいな奴

「シャロン、リファ。これ見てくれ」


理玖は料理を作ってくれ、一緒に食べている二人に映像を映し出す。黒髪短髪であり、強大な魔力を放っているのを映像からでも確認できた。しかし、この強大な魔力は、大きい魔力という意味である。長くを生き、魔力の鍛錬に費やしてきたリファ、シャロン。魔王である理玖には及ばない。


それでも、一般エルフくらいにはあるのだが。シャロンは目を瞑り、考えを巡らせた後、言葉を口にする。


「理玖が気になったのは魔力だけなの?確かに人間と言う種族から見れば凄いけど」


今は無名無法王冠のボス、最高幹部という立ち位置は関係無く、フラットに話し掛ける。リファも同じくして賛成をする。蒼月の決戦から三万年が経ち、私生活でも一緒に居る機会が増えたからであろうか。二人は理玖の性格の事をよく掴んでいる。


気になっている理由は何個かある。一つは異常までの成長速度。理玖も成長速度は異常だ。それは理玖自身も自覚している。それでも、あの男……ファンス・クエッツェルの成長速度は異常なのである。その理由としては、成長速度の異常さに何の説明も無いからだ。


理玖の場合は、魔王という事で納得はできる。しかし、ファンスの場合は如何なのか、と聞かれると分からないと答えるしか無いのだ。生まれながらの成長速度だ、と言われても疑問符を浮かべてしまう。これが一つ目。


二つ目の理由。それは所持しているスキルになる。名前は『希望ノ勇者』となっているが、このスキルからは禍々しいものを感じる。それ以外にも理由はある。けれども、気になっている大部分は此処なので問題は無い。


「……という事」

「希望……彼奴みたいなスキル名だけど、全然違うんだよね。禍々しいのを感じる、と言っていたし」

「なるほど。……理玖が気になっている理由は分かったよ。あれ、全てじゃ無いでしょ?他の理由も含めて五割、と言った所だと思う。残り五割は……多分だけど性格だね。私は見ては無いけど、主人公っぽい性格なんでしょ」


シャロンの言葉にリファは「あー」と口にした。思い出しているのは先日に理玖が「僕さ、魔王じゃんか。魔王は勇者と戦うって相場は決まってるんだよ。なのに、なのにどうして……勇者が居ないんだー!」と叫んでいる事を思い出したのだろう。叫んだ後に二人から呆れた目で見られたのは記憶に新しい。


準備は整えており、残りは二人の許可を取るだけである。理玖が期待に溢れた瞳で見つめると、二人はため息を吐いた後、許可を出した。


余談だが、嬉しさのあまりに飛び跳ね、二人から注意を受けたのだとか。








ファンスが存在する世界に降り立った理玖は、普段と違う格好をしている。和装で身を包み、懐には日本刀、この世界では極東の剣と呼ばれている太刀を所持している。顔は知られないように般若のお面を被っていた。


咄嗟に作ったとは言え、中々良い代物である。魔王である理玖が作ったのだから、当たり前と言えば当たり前なのかもしれないが。あの暫定主人公のファンスを見つける為に歩き始める。どれだけ掛かろうとも、見つけられると信じている為、静かに、のんびりと歩き始める。


歩き始めてから三年後。


「この惑星意外と広いね。中々出会えないや」


歩き始めてから五年後。


「少しも手掛かりを見つけられないな。最悪、死者蘇生でもするかあ。あれ面倒だし、寿命だと魔力結構喰うしで嫌なんだけどな」


歩き始めてから百五十年後。


「うん、見つからない。座標は此処の惑星で合ってるよね?やだよ、座標間違えてました、とか……いや、合ってる」


歩き始めてから五千年後。


「もしかして、もしかしてなんだけどさ。……やっぱり、やっぱりだよ!場所の座標は合ってたけど時間の場所間違えた。ファンス君が生まれる一万年前に飛んじゃった!そりゃあ居た形跡がカケラも無い筈だよ。だって生まれて無いんだもん!」


そう、理玖は場所の座標は合っていたのだが、時間の座標を間違えた。場所の座標に集中し過ぎてしまい、時間の座標を疎かにしてしまうという何とも馬鹿な答えである。自身の馬鹿さに頭を抱えながらも、思考を巡らせる。五千年、何もせずに待つのは苦痛だ。


無名無法王冠に戻ったとして、やる事が鍛錬とゲームくらいしか無い。蒼月の決戦前に忙しくしていたのは、各地の支部組織から情報を集めていたからである。他の仕事、企画書もあったのだが、今、その企画書の仕事はシャロン、リファが担当している。


魔王としての知識、頭脳をフル活用して考える。少し魔王の無駄遣いなのでは、と思ってしまったが、暇は死活問題なので仕方ないだろう。


「よし、傭兵やるか!」


他の仕事をするという手段もあるにはあるのだが、長きの年、戦闘に身を置いてきた理玖からしてみれば、長続きする気がしない。それと比べて傭兵であれば、戦うのが仕事なので飽きる心配も無い。資金も合法的に貰えるので万事解決である。


理玖は知らなかった。傭兵に就いた事が原因で未来にて異名で呼ばれる事を。『最狂の闘争王』と呼ばれて恐れられる事を。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る