第4話 25刻の女王VS魔王
何故このような事態になっているのか、それは無名無法王冠のボスであり、魔王でもある理玖と、その右腕にして刻王衆の頂点でもあるシャロンとの戦いを見る事ができるからだ。頂点と組織内で最も頂点に近い者の戦闘を見る事ができるからだ。
もちろん何も考えなしで戦うわけでは無い。これは己の研鑽を極み続ける為にあるのだ。己の高みを更に高くする為にあるのだ。そしてその戦闘映像を見せる事で頂点とはこうなのだと示す。お前達が従っている頂点はこう強いのだと示す。その意図としては戦争中で反乱など起こってしまったらたまったものでは無いので、それを潰していこうという事だ。
「さあ!これより模擬戦が始まります。そのカードの一つは我等が
模擬戦場の頭上でそう解説しているのはカミア。救護協定団の情報探知把握隊と能魔具物研究隊の隊長をしている。隊長をしているので身体能力は一般の戦闘員よりもあり、動体視力はどの隊長よりも高い。なのでカミアが解説要員として選ばれたのである。
「スタート!」
カミアがマイクを用いて声が響き渡る。理玖とシャロンは腰にある剣を鞘から抜き、両者の剣がぶつかり合う。互いに込める魔力はまだまだ序の口。しかしそれでも威力は凄まじく、少しぶつかるだけで魔力が広がる。一般戦闘員がこの場にいるだけで死んでしまう程の魔力だ。魔力に慣れ、優れている一般戦闘員が、だ。
シャロンは攻める。理玖に攻撃するを与える為に。長年の経験、長くの鍛錬を積んできたであろうシャロンの剣技は素晴らしく、圧倒的な才能を、魔王と同じ潜在能力を持ち合わせている理玖と同等に並んでいるのだ。シャロンが到達している高みが理解できる、というものだろう。
互いの剣がぶつかり合う度に魔力の質が、量が格段に上昇していく。限界限界をその度に乗り越えているようだ。
『
シャロンは魔法を発動させ、自身の剣に付与させる。通常の炎ならば考えられない程に赤を宿しており、あり得ない熱量を持っている。
理玖はそれに対して魔力を3割開放し、剣にその膨大な魔力を纏わせる。両者の剣がぶつかり合う。
瞬間、暴風、熱風が周囲に襲いかかる。この場に居るのが強者で良かった、と言えるだろう。
理玖は自身の剣をシャロンの首へ向かわせる。しかしその剣はシャロンに当たることなど無かった。シャロンは理玖の剣を自身の剣で防ぐ。
シャロンは理玖の剣を弾く。そして自身の剣を理玖の腹に向けて突き刺す。しかしそれも当たらない。理玖は剣の腹で防ぐ。
しかしシャロンの攻撃はそれで終わりじゃ無い。理玖が防いだシャロンの剣は纏っている炎が更に熱くなる。轟轟と燃え続ける。そしてシャロンの炎は剣で防いでいる理玖を飲み込んでいく。
理玖はその膨大な熱量による痛みを感じながらも、剣を振り、炎を消し去る。
「すっげえ熱かったぜ。シャロン」
「それを突破されてる人に言われてもあまり信じれないんですよ!」
理玖は袈裟斬りをしてくるシャロンの斬撃攻撃を避け、脚撃で横腹にダメージを与える。シャロンはその蹴りを喰らった事で少しバックするが、すぐさま飛び出して刺突を喰らわせようとする。
理玖はその刺突攻撃を受け流す。先刻のどの攻撃よりも強くしたのだろう。理玖の手に来た重さが段違いであった。
この攻撃も防がれた、その事実に顔を歪ませるが、一瞬で安心の表情に変化をさせる。
何故その表情になったのか、その感情は理玖では計り知れない。ならば今理玖にできる事、それはシャロンとの勝負に真剣で臨むこと。
これまで戦ってきたような者達では遊びで十分だった。しかしシャロンは、そのような遊びで戦うには危険過ぎる。例えそれが今みたいな模擬戦だったとしても。
シャロンは刺突の攻撃から次の攻撃に移る為に理玖の剣から自身の剣を離す。その一瞬の隙を理玖が見逃す筈など無く、シャロンに胴切りをする。
残った音は切られた生々しい音では無く、金属音だった。シャロンは剣を弾き、縦に一閃しようとするが、これも防がれる。
しかしシャロンの攻撃はこれで終わりでは無かった。シャロンは剣を上空ヘと投げ飛ばす。理玖はその行動に驚きの感情を隠さずに顔に出し、その剣を見つめる。
命取り、これに気がついたのは攻撃を喰らう一歩手前の状態だった。
シャロンが放った拳による打撃攻撃は、魔王と呼ばれている男の圧倒的な防御を突破した。
シャロンの攻撃はまだまだ続く。投げ飛ばした自身の剣を拾い、空中から斬撃を飛ばす。首を狙った斬撃を防ぐ為に理玖は左腕を差し出す。避ける事は不可と判断したからだ。
理玖の左腕には斬撃が刻まれる。理玖はシャロンの方向に動き出す。未だ空中に飛んでいるシャロンに向かって跳ぶ。シャロンは真っ向斬りで攻撃をする。シャロンは金属音が鳴ると思っていた。しかしそのシャロンの予想通りにはならなかった。そんな判断を、すると思わなかったのだ。
理玖がシャロンの剣に合わせてきたのは剣では無かった。剣は右手で握っており、下に向けている。ならばそれは何なのか。先刻怪我をした左腕だ。
シャロンの顔には驚愕、動揺が浮かぶ。
「本当にイカれていますね……!まさか態と自身の防御を弱めて斬らせるとは」
「じゃなきゃ魔王は務まんねえんだよ」
理玖は左腕を斬り飛ばし、大いに隙を晒しているシャロンの肩を切る。そしてそれだけでは無く、理玖は腹に蹴りを喰らわせる。
空中で碌な防御態勢も取れず、魔力を練るにしても遅過ぎる。今から練ったとしても間に合わない。
その攻撃に対して何も対策を取る事はできず、シャロンは吹き飛んだ。
理玖はシャロンが吹き飛んでいる間に、自身の斬り飛ばされた左腕を再生する。
理玖は片手剣を前に構える。魔力を魔力転換式に通して魔法へと変化させる。先刻シャロンが発動させた様な明るい魔法では無い。轟轟と燃え、全てを照らす炎では無い。
シャロンが発動させた魔法が普段の太陽ならば、理玖の魔法は何なのであろうか。炎と言うには熱すぎる。しかし太陽と言うには、闇が深過ぎるのだ。まるでその炎の中には深淵が宿っているような闇深さだ。その闇の炎を例えるならば……。
『
理玖の剣に黒い炎が現れ、纏う。先刻の『炎堕』よりも更に膨大な熱量を持った炎が。その黒い炎は剣だけに留まることを知らない。理玖の体にも纏われる。オーラの様に大きく舞っているが、それにしては周囲に被害を与え過ぎている。
理玖はその炎を操作し、形作る。鋭利のように鋭く変化させ、向かわせる。シャロンはその炎を何でも無いかのように切り伏せる。
理玖は次なる炎を向かわせる。先刻のような形を鋭利にした物では無い。ただ純粋な質量、半径5mの球体だ。しかし理玖から言わせればその球体こそが真に厄介だと言えるだろう。
シャロンはその球体に一閃をする。しかし崩れない。その球体はシャロンの強烈な斬撃を喰らっても崩れる事を知らない。シャロンもこうなる事が分かっていたのか、その球体に斬撃を浴びせ続ける。真っ向斬り、袈裟斬り、一文字斬り。そんな様々な技を浴びす。
そしてこれで最後にするつもりなのだろう、自身の剣に特段の魔力を込める。そして一突き。黒色の球体は崩壊した。
そして同時に強烈な爆発も。その爆発は観客席に届く程では無かったが、フィールドに大穴を開けていた。
カミアの中止した方が良いか、そんな疑問がカミア全体を巡る。
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