第24話 不死鳥運運魔王様
ミロの言葉に理玖は面白いと感じながらも、徒手空拳を繰り広げる。そうして肉体がぶつかる。そうして何度もぶつかっていると気づいたのだ。
(オーラの操作技術が凄まじいね。勿論僕の炎を中和をすることができるその効果もすごいんだけど……それ以上に操作技術が際立っている。魔力変換の時にロスがほとんど存在していない。それどころか最小限以上に魔力ロスを抑えている)
魔力変換を例えるとするならば、エネルギー変換になる。エネルギー変換は必ずと言って良い程にロスが出る。それは魔力変換にも同じことが言える。魔力の達人であるシャロンといえども、魔力変換を行うと20%はロスが出る。
しかしミロはその魔力変換を行う際のロスを、最小限とされてきた10%を大きく下回り、0,1%まで抑えているのだ。如何にこれが凄まじい神業なのか、理解ができるだろう。
もし魔力変換のオーラをぶつけての対決ならば、理玖が負けるのは結果を見ずとも分かる。魔力量としては圧倒的に理玖の方が多いのだが、ロスも比べとなると負けてしまうだろう。
幸い、今理玖が発動している紅蓮の炎は、紅蓮状態に変化したことによる副次効果なので、魔力勝負で負けることはいまのところないのだが。
理玖はミロの技術に感動しながらも、次の攻撃に転じる準備をする。体中に纏っている紅蓮の炎を右の手のひらに集中させる。しかし体中に纏っている炎を途切らせないように身体の奥から炎を引っ張り出す。
熱く燃え盛っている炎を纏っている理玖の手のひらがミロに触れる。とん、という軽い音を出しただけなので、ミロは不思議そうにしながらも、攻撃をしようと腕を振りかざす。否、振りかざそうとした。できなかったのだ、理玖が仕掛けた攻撃のせいで。
理玖はあまり魔力操作術に慣れているわけでは無い。最初から膨大な魔力を持っていたからなのだろう。シャロンのように長い年を生き、それで魔力を研鑽、増幅しているわけでは無い。理玖は魔王の魔力を持って力を得た元人間で現エルフであるから。
それでも、繊細な魔力操作術ができない、とい訳では断じてない。シャロンに『魔王ならば魔法、魔力の不得意はなくした方がいいと思いますよ』と言われたからだ。
理玖が幼い体を使い、ミロの顔を見る。元々凄まじかった熱量が収縮したことで更に熱くなった炎に闇オーラが中和できなかったのだろう。熱が渡ったことでミロは心底苦しそうな顔をしていた。闇のオーラで少しは緩和されているとは言え、内側から熱で蝕まれているいたさは変わらないだろう。
「ヒートアップしてきたそれは収まったかな?」
「ええ、大分収まりました。感謝しますよエンド殿。そしてもう少し付き合ってもらってもよろしいでしょうか」
ミロは闇のオーラを大量に増幅した後、それらを全て体内に取り込む。パチン、という不思議な軽い音が鳴った後にはミロは炎の蝕む攻撃を受けなくなっていた。これは推測でしか無いだが、ミロは自身の闇オーラを取り込んだ後、炎を打ち消したのだ。
どれだけの神業を披露すれば気がすむのだ、と冷や汗を流しながらそんな事を考えてしまった。ミロは自身の闇を収束し、魔法へと変化させていた。理玖はその魔法に応えるかのように、炎を収束して魔法に昇華させる。今の理玖の魔力技術ならば炎を形作ることなど造作もない。
しかし、しかしだ。流石に其処まですると、ミロが死んでしまう危機があった。勿論其れだけでは無く、自分の矜持が崩れ去ってしまう、というのもあったからだ。色々な魔王がいる中で理玖は温厚な部類に入るのだが、矜持はある。魔王としての、強者としての誇り。
理玖自身、この矜持をくだらない、と思っている。其れでもこれを捨てる事などできなかった。
そんな理玖の矜持の結果である魔法が放たれる。同じくして、ミロの全力の魔法が放たれる。紅蓮の炎と暗黒の闇がぶつかり合う。ぶつかった衝撃で周囲を削る。
「唐突な罵倒で申し訳ないけど、君さあ、バカなの?全部の魔力を使うなんて……それを戦場でやってみなよ。目の前の敵を倒したとしても周りの敵が襲いかかってきて殺されるよ」
「うっ……すみません。我は多くの敵を倒さなくちゃいけない蛇竜軍に所属しているのに……確かにダメですよね」
「やっぱり君は勘違いしている。僕は命の全てを使い、最大限の敵を殺せ、って言ってる訳じゃない。そりゃあ戦場に出るんだから覚悟はしてほしいけどさ、命を落として積極的に殺せ、じゃないのよ」
ため息を吐きながら不死鳥状態の理玖はそんな事を背中に乗っているミロに告げる。もしかして、と理玖が薄々感じていた事だった。この思考をなんとかしなければ、と考える。自身への忠誠が高いのは嬉しい限りだが、此処まで高いのは考えものである。
理玖は本拠地に帰ったら聞かなくていけない。君たちはどういう教育をしていたらこうなるんだ、と文句も込めて言わなければならない。
最高幹部たちを信じ、好きにやらせたのが間違いだった。そんな感情を抱えながら飛んでいく。なぜシャロンが止めていなかったのだろう、という疑問を抱えながら。
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