第16話 浮気
昨日シャーロットさんと教会に行ってからというもの、シャーロットさんはずっと考え事をしているようだった。
考え事の内容は当然、あの占星術師のお姉さんの言っていた、シャーロットさんの前世で好きだった人というのがシャーロットさんの近くに居るということだ。
そのことについて、学院登校時間の今の今まで考えていたようだった────が、答えは出ずにそのままシャーロットさんと一緒に学院に登校した。
「まぁ、アナスタシア様よ!」
「麗しい……」
相変わらずシャーロットさんが学院に登校すると、周りの人たちはそんな声を上げていた。
「いつも思ってますけど、シャーロットさんの人気はすごいですね」
「別に、彼以外に何言われたって私は嬉しくないよ」
「そうですか……」
嬉しくない、か……でも、そういうことならこれを機に普段はあまり伝える機会の無いことを伝えてみよう。
「ずっと一緒に居るので言う機会は無いんですけど、俺もシャーロットさんのこと美人だと思ってますよ」
「えっ……!?」
俺がそう伝えると、シャーロットさんは足を止めて、俺の方に振り返るととても驚いた様子だった。
「シャーロットさん……?」
「が、学院の中でそんなこと言わないでよ!一応公爵家のアナスタシア家の令嬢として節度ある態度で振る舞わないといけないのに……!」
「そんなこと……?俺別に悪口なんて言ってな────」
「嬉しくなって表情緩めるの我慢するのが大変だって言ってるの!」
え……?
「あの、さっき彼以外に何言われたって嬉しくないって言ってませんでしたか?」
俺がそう聞くと、シャーロットさんは頬を少しだけ赤く染めて言った。
「か、彼とアル以外、その二人以外になら何言われたって別に嬉しくな────」
「シャーロット・アナスタシアとフェアール!ようやく来たか!待ち侘びたぞこの時を!!」
「グ、グレンデルさん?」
俺とシャーロットさんが廊下で立ち話をしているところに、グレンデルさんが走り込んでやってきた。
グレンデルさんのテンションが高いことはいつものことだが、今日はいつもよりもテンションが高いし、何故かもうすでに勝ち誇ったような顔をしている。
「この間はよくも僕に期待させるだけ期待させてくれたな!その仕返しの第一歩として、まず今日は僕の名誉を挽回させてもらおう!」
「名誉を……挽回?」
一体何の話だろう。
「忘れたとは言わせない、この間はウワキという単語を僕が知らないということで僕のことを笑い物にしただろう」
「別に笑い物にはしてな────」
「う、浮気……!?ね、ねぇアル、もしかしてさっき私が彼とアル以外になら何言われたって別に嬉しくないって言ったのって浮気────」
「だ、大丈夫ですから!その問題はこの間解決し────」
「はっはっは!そんな小芝居で僕のことを騙せると思うな!」
「……小芝居?」
俺がシャーロットさんのことを落ち着けようとしていた時、グレンデルさんがそう言った。
そして上機嫌に続ける。
「父上や身の回りの人にも確認を取った結果────この世界に、ウワキなんていう言葉は存在しない!つまりその言葉は、シャーロット・アナスタシアとフェアール!貴様たちが僕のことを笑い物にするために作った言葉だろう!」
「グレンデルさんは相変わらずですね、俺とシャーロットさんがグレンデルさんのことを笑い物にするためにそんなことするわけないじゃないですか、そうですよね?シャーロットさん」
「……」
「シャーロット、さん?」
間の悪いタイミングで浮気という単語を聞いてさっきまで慌てていた様子のシャーロットさんだったが、今度はいきなり落ち着いた様子になっていた。
そして、口を開く。
「……グレンデル、例えば一人の男性が二人以上の女性と交際関係になることって、なんて言うの?」
「ん?なんて、と言われてもな……家の繁栄のためか、もしくは領地拡大のためのコミュニケーション、か?」
「そっか────気づいたよ、あの時の違和感」
シャーロットさんは何かが腑に落ちた様子でそう言うと、俺に微笑みかけながら言った。
「アル?帰ったら聞きたいことあるから、私の部屋に来てね」
「え?はい、わかりました……」
俺は突然のことで何が何だかわからなかったが、俺に微笑みかけているはずのシャーロットさんの目は笑っていなかったことから、まず間違いなく俺にとってよくないことが起きる。
だが、シャーロットさんに呼び出されてしまった以上俺にはどうすることもできないため、俺はただただ全講義が終わるのをできるだけ遅くなるようにと祈ることしかできなかった。
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