第13話 強烈な違和感

◇シャーロットside◇

 ────数分前。

 シャーロット・アナスタシアは、フェアールを探すために、まずアナスタシア家の屋敷近くにある危険なところから探そうと、近くにある山にフェアールのことを探しに来ていた。

 もしここに居ないなら居ないで、最悪の場合フェアールは危険な場所には居ないということになるため、とりあえず生命の心配はしなくても良くなると考えたからだ……だが。


「おいおい、アナスタシア家の嬢ちゃんがこんな夜遅くに一人でこの山に来るなんてな、温室育ちだと色々と鈍っちまうのか?」

「へへっ、だがあのアナスタシア家の人間なら、良い商売になりそうだ……高値で売っても良いし、人質にしてアナスタシア家から金を取ってもいい、それにこの見た目と体だ、ちょっとぐらい俺らで遊んだって良いかもしれねえ」

「あんまり乱暴なことはしねえ方がいい、売り手が減っちまうだろうが」

「へいへい、わあってますよ」


 危険な場所を探すということは、それだけ危険な目に遭いやすくなるということ。

 山でフェアールの名を叫びながら走っていたシャーロットは、フェアールではなく山賊の男たちと出会してしまい、今は囲まれてしまっている。

 山賊の数は二十人ほどだ。


「……ねぇ、一応聞きたいんだけど、黒髪で襟付きのシャツを着た男の子見た?」

「あぁ?誰だそいつ、それよりも状況がわかってねえみたいだな」


 山賊の一人がそう言うと、山賊たちは一斉に獲物を取り出した。


「嬢ちゃんの選択肢は、抵抗して痛い目を見て俺たちに捕まるか、無抵抗で俺たちに捕まるかの二択なんだぜ」

「じゃあ、黒髪の男の子は見てないの?」

「見てねえよ、それよりも今から────」

「あっそ、じゃあ消えて」


 山賊が何かを言いかけた時、シャーロットはそれを遮るように前方に居た山賊数人を氷魔法で固めた。


「て、てめえ!」


 激昂した山賊たちが獲物を手に襲いかかってくるが、シャーロットはそれらを全て躱して全員を氷で固めた。


「アル……どこに居るの?この山には居ないの?会いたいよ、アル……」


 ────シャーロットがそう呟いた瞬間、横から自分の方に走ってくる足音が聞こえてきたのでそっちの方を振り返ると、そこにはフェアールが居た。


「アル……?アル!?」


 フェアールのことが視界に入ったシャーロットは、目を輝かせながらフェアールのことを呼んだ。


「シャーロットさ────」


 フェアールもシャーロットの名前を呼ぼうとしたが、その瞬間にフェアールの後ろにある木から、山賊の男たちと同じ身なりをした男が、フェアールに襲い掛かろうとしていた。


「っ!アル!後ろ!!」


 ────シャーロットは自分を責めた。

 あんな木の後ろに隠れてる山賊ぐらい、普段の自分なら絶対に気配を感じ取ることができた。

 だが、フェアールのことで頭がいっぱいで、その肝心のフェアールの危機を未然に防げなかった。

 シャーロットは、前世で亡くなってしまった彼のことを思い出して、呼吸が乱れていた。

 前世で彼が亡くなったと知った時と同じ、呼吸のリズム、乱れ。

 また失ってしまう、大切な人を、好きな人を────そう思い精神的に追い詰められていたシャーロットだったが、フェアールは「はい、知ってます」と冷静に答えて、その山賊の後ろに跳躍すると、首元に雷魔法を当てて気絶させた。


「どういう状況かわからなかったのでこっちから攻撃はしなかったですけど、相手から攻撃してくれたならやりやすかったです」

「アル……アル!!」


 シャーロットはフェアールに近づくと、フェアールに抱きついて言った。


「私、アルに謝りたかったの……酷いことしてごめんね!」

「いえ……頭を冷やして、いつものシャーロットさんになってくれたなら良かったです」


 そう言って優しく微笑むフェアールの顔を見て、シャーロットはまたも前世の彼のことを思い出した。

 だが、今は……


「私、彼とか、浮気とか、そういうの関係なく、アルのことが大切なんだって気付けたよ……アル、本当にごめんね」

「そんなに謝らないでください……俺にとっても、シャーロットさんはとても大切な人です」

「アル……」


 その後、しばらくの間シャーロットさんは涙を流しながらフェアールに抱きついていたが、やがてシャーロットが落ち着いてくると、フェアールが呟いた。


「……あれ、そういえばグレンデルさんはどこに?」

「グレンデル?来てたの?」

「そのはず、なんですけど────」

「僕は良い男だからな、泣いている女性を観察する趣味はないんだ、だからシャーロット・アナスタシアが落ち着くまでの間少し距離を取っていた」


 そう言ってシャーロットとフェアールの方に歩いてきたグレンデルの顔には、やはり侯爵としてのプライドが感じられた。


「そうですか……ありがとうございます」

「貴様のためにしたことじゃない」

「……せっかくアルとの二人だけの時間だったのに」

「僕を迷惑者みたいに言うな!」


 その後、三人が山から出るために山道を歩いていると、シャーロットがグレンデルに質問をした。


「ねぇ、グレンデルに聞きたいんだけど、同時に二人の人を好きになることはよくないことだと思う?」

「ん?思うはずがないだろう、人を好きになることの何がよくないんだ?」

「でも……それって、浮気に近いものがあるって思わない?」


 そう聞かれたグレンデルは、困惑した様子で言った。


「ウワキ、とはなんだ?そういう生物が居るのか?」


 そのグレンデルの反応は、まるで自分の辞書にそんな言葉がないとでも言いたげな表情だった。

 フェアールは、それに関連してグレンデルに話しかける。


「グレンデルさん、浮気知らないんですか?」

「な、何……フェ、フェアールがわかっていて、僕が知らない事なんてあるわけがないだろう!そ、そういえば、ウ、ウワキという動物が居たような気がするな」

「動物じゃないです」

「花だったか?」

「花でもないです」

「ならば────」

「……」


 何気なくそう会話しているフェアールとグレンデルのことを見て、シャーロットは強烈な違和感を感じていたが、今はとりあえずフェアールと無事に一緒に居られるということの嬉しさが大きく、その違和感の正体を考えることを一度放棄して二人と一緒に山から出た。

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