第12話 シャーロットの後悔
とりあえずアナスタシア家の屋敷から離れて街に来た俺は、今からどうするかを考えていた。
とりあえず宿に泊まろうと思ってこの街に来た俺だったが、何を隠そう、あの時はいきなりだったから、俺は今お金というものを持っていない。
つまり一文なしだ。
「野宿するしかない、か……」
だが、仮にもアナスタシア家の執事の俺が野宿なんてしていたら、誰かに狙われて、それこそシャーロットさんに心配をかけてしまうかもしれない。
俺は別にシャーロットさんに心配をかけたくてこんなことをしているわけではないため、そう考えると野宿案は却下だ。
俺が街を歩きながら色々と考えていると、正面から声をかけられた。
「最近は貴様とよく会うな、フェアールよ」
その人は、確かに最近よく会うグレンデルさんだった。
「そうですね、こんばんは」
挨拶をした俺のことを見て、グレンデルさんは違和感を抱いたらしく、その違和感を口にした。
「……ん?今は上着とベストを着ていないのか?」
あぁ、そういえばシャーロットさんに脱がされたまま、あの状況だと着る余裕もなかったから今はいつもの黒のズボンだけだったな。
「実は今家出してて」
「家出か、それなら仕方な────家出!?」
グレンデルさんはその重大なワードを聞き流しそうになったが、その異常性あるワードに違和感を抱いて、そのワードを復唱した。
「ど、どういうことだ?」
「グレンデルさんも気づいてたと思いますけど、簡単に言うとシャーロットさんの様子がおかしかったので家出しました」
「シャーロット・アナスタシアの様子がおかしいのは気づいていたが、それと貴様が家出したことにどう関係が……いやいい、長年シャーロット・アナスタシアと行動を共にしている貴様がそう判断したのであれば何も言うまい、となると……貴様は今宿が無いのではないか?」
意外にも状況理解と察しの良いグレンデルさんに少し驚いた俺だったが、俺はその質問に対して返答する。
「そうです」
「であれば仕方ない、貴様が地面に頭をつけてどうしてもと言うのであれば僕の家に泊まらせてやろう」
「地面に頭はつけたくないので結構────」
「待て待てわかった妥協しよう!僕の家に泊まりたいと一言言えばそれで泊まらせてあげよう、それなら良いだろう?」
「そういうことなら、泊まらせてもらえるならグレンデルさんの家に泊まりたいです」
「よかろう!そこまで言われたら侯爵の名を背負っている以上引き受けないわけにはいかないな!泊まっていくがいい!」
なんというか……本当に色々とバランスが取れているのか取れていないのかわからない人だなと思いつつも、俺はグレンデルさんと一緒にグレンデルさんの家に向かった。
◇シャーロットside◇
「あるとくん、って……私、どれだけ彼とアルのことを……アル……」
シャーロットは、一人取り残された自分の部屋で、ただただ今は自分の行いに後悔していた。
フェアールに突然肉体関係を迫り、フェアールがそれに口を挟めば家の名前を使ってまでその行為を押し通そうとした。
「私、最低……どうしてあんなことしちゃったのかな、私の気持ちが正しいものなのかを確かめるためっていうのもあるけど……やっぱり、どうしてもアルに愛を伝えたかったからなのかな……彼に似てる、アルに」
前世で大好きだった彼に、理不尽な理由でその気持ちを伝えることもできず、会うことすらできなくなってしまった。
だからこそ、その彼とどこか似ているフェアールに、彼に伝えられなかった分の愛を伝えたいという気持ちが先行し過ぎてしまった結果が、今回の事態を引き起こした。
「私は今、アルのことと、彼のことを同時に好きになってる……私は彼のことだけを好き、な、はずなのに……彼が居なくなったら、今度は代わりみたいに彼に似てるアルのことを好きになるなんて、私の愛はそんなに軽かったの?彼が亡くなって、彼の後を追った私の気持ちは、彼に似てる人が出てきただけで変わるぐらい軽かったの?」
理性でそう自分に問いただすが、シャーロットはどうしてもフェアールのことを好きになっている。
論理的ではないが、それでも────フェアールのことを彼と重ねてしまう、フェアールが彼と重なってしまう。
だが、それよりも今のシャーロットの心を支配していたのは、ある一つの気持ち。
「アルに、謝りたい……酷いことしてごめんねって、アルに────っ!」
シャーロットは、不意に前世でもう会えなくなってしまった彼のことを思い出し、その彼とアルのことを重ねてしまった。
「……こんなところで考え事してる場合じゃない、アルのこと探さないと……もしかしたら、アルも彼みたいに────」
シャーロットは、フェアールがも前世の彼と同じように自分の居ないところで何か良くないことに巻き込まれて居なくなってしまうかもしれないと考え、急いで屋敷から飛び出してフェアールのことを探しに出た。
「彼とアルを重ねてるとか、今はどうでもいい……とにかく私は、私にとって大切なアルを────絶対に失いたくない!」
それだけを一心に、シャーロットは屋敷の外に出て、フェアールのことを探し始めた。
◇フェアールside◇
「そろそろ僕の家の屋敷に着くが、貴様は僕の家の屋敷を見たらとても驚くことだろう」
「そうなんですね」
「そうだとも!次の曲がり角を曲がれば僕の家の屋敷だ、さぁ存分に驚くが────」
グレンデルさんが大声を出しかけた時、街近くの山から強力な魔力を感じ取った。
「む……?今の魔力は……」
グレンデルさんもその魔力に気づいたらしく立ち止まったが、誰の魔力かは気づいていないらしい。
だが、俺はもうこの世界で十六年もその人の魔力に触れてきているから、この魔力が誰の魔力かなんて一瞬で分かった。
「……俺、ちょっと行ってきます」
「行く……?ちょっと待て、僕の家の屋敷を見て行かないのか?というか泊まりは!?」
「あの魔力はシャーロットさんのものです、つまりシャーロットさんは今、魔力を使わないといけない危機的状況にある可能性が高いってことです」
「シャーロット・アナスタシアの……?ならば仕方ない、僕が付いていってやろう!」
「え?別に付いてきてもらわなくても────」
「まだ僕の家の屋敷も見せてない上に泊まりもしてないのに貴様から離れるわけがないだろう!それに、あのシャーロット・アナスタシアの危機だ、僕が華麗に助け出せば僕に惚れ直すかもしれない」
そう語るグレンデルさんの顔には自信が満ちているようだった。
……そもそも元々惚れていないから惚れ直すことはないと思うが、どっちにしても万が一に備えて戦力が多い方が良いことは確かだろう。
「わかりました、じゃあ行きましょう」
「あぁ!さぁ始めようか、僕の華麗なシャーロット・アナスタシア救出ショーを!」
俺は走りながらずっと自分に酔いしれて何かをぶつぶつと呟いているグレンデルさんと一緒に、シャーロットさんの魔力を感じた山に向かった。
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