第14話 約束

◇フェアールside◇

「さて……色々とあったが、ようやく僕の家をお披露目できるというわけだな!」


 山から出た後、グレンデルさんはとても上機嫌にそう言った。

 そういえば、ここに来る前、俺はグレンデルさんの家に泊まらせてもらうことになっていたんだったな……だが、それはシャーロットさんに頭を冷やして欲しくて俺が家出して泊まる宿がなかったからだ。

 シャーロットさんと仲直りした今、グレンデルさんに迷惑をかけてまでグレンデルさんの家に泊まらせてもらう理由はない。

 俺は、そのことをグレンデルさんに伝える。


「俺が家出する必要はもうなくなったので、今日はもうグレンデルさんの家にお世話にならなくても良さそうです……そうですよね、シャーロットさん」

「うん……もう大丈夫」

「な……!?」


 そう聞いたグレンデルさんは、そのことに怪訝な表情を見せた。

 そして身振り手振りしながら言う。


「ま、待ってくれ、じゃあ泊まりは?」

「無しです」

「一緒に風呂に入り男同士語らうのは……?」

「無しです」

「ね、眠る前の枕投げは……!?」

「無しです」


 そんなことを考えていたのか、と思いながらも俺が全てに否を突きつけた結果、グレンデルさんは「フェ、フェアール!よくも僕に期待させるだけしてその期待を奪ったな!この恨みは必ず晴らしてやる!!」とだけ言うと、俺とシャーロットさんの元から走り去ってしまった。

 ……少し申し訳ないことをしてしまったかもしれない。

 だが、シャーロットさんと二人になったことで、その場は静かな、それでいて温かい雰囲気が場を包んだ。

 そして、シャーロットさんは優しく言った。


「アル、帰ろっか」

「はい」


 その帰り道、俺と二人になったことで、シャーロットさんは呟くように話し始めた。


「私、彼のことを意識しすぎて、アルのことを彼に重ねて、彼に伝えられなかった分のこの気持ちをアルに伝えたいと思ってた……でも私は、その気持ちに目を眩まされて、アルのことを大切に思ってるこの気持ちを蔑ろにしちゃってたんだね」

「シャーロットさん……」

「もう、私はアルのことを蔑ろにしたりしない……私にとってアルが大切な存在、そのことに本当の意味で気付けたから……アルが私にきっかけをくれたおかげだね、ありがとう」

「俺は何も……シャーロットさんが自分で気付いたんです」

「ううん、アルのおかげ────だけど、だけどね」


 シャーロットさんが足を止めたので、俺も足を止めると、シャーロットさんは俺に距離を近づけてきてさっきまでの静かな雰囲気を一蹴するように言った。


「もう今後はあんな夜に出かけるとかやめてね!?本当に心配だったんだから!!アルが、アルまでが彼みたいになったらって────」


 俺は不安そうにそう言うシャーロットさんの手を取って言った。


「俺はシャーロットさんの元から居なくなったりしませんよ、ずっと一緒に居ます」

「……約束だからね」


 シャーロットさんは、俺がシャーロットさんの手を取った方の手を握ってそう言った。


「はい、約束します」


 その後、俺とシャーロットさんは一緒にアナスタシア家の屋敷に帰った。

 そして、それぞれの部屋に入る前に、シャーロットさんが静かな声で言った。


「正直……まだ、やっぱり答えは出てないの、彼とアルを重ねてるとか、そんなことは関係なく私はアルのことを大切に思ってるってことにはちゃんと気付けた……でも、この彼に対する気持ちと、アルに対する気持ちは、同時に私の心にあっても良いのかが、私にはわからない」

「シャーロットさんは浮気っていう言葉を使ってましたけど、シャーロットさんの俺に対する感情は、きっとそういうのじゃないと思います……ただその人と俺のことを重ねてるからそう錯覚してるだけで、本当はただただ俺のことを身近な存在として大切に思ってくれている、それだけだと思うので、シャーロットさんのその気持ちは両立してても良いものですよ」

「そう、なのかな……」

「はい、だから早くその人のことを見つけましょう……なんとなくですけど、シャーロットさんはその人に会える気がするんです」

「私のこと慰めてくれてるの?」

「違います、どうしてかは上手く言えないんですけど……とにかく、会えるような気がするんです」

「ありがとう、アル……アルのおかげで、私は道を迷わないで済んだよ……私は彼を見つける!彼を見つけて、一緒に美味しいもの食べて、一緒に本読んだりもして、夜になったらいっぱい交わる!うん!おやすみアル!明日から本腰入れて彼のこと探すからね!」

「は……はい、おやすみなさい」


 その会話を最後に、シャーロットさんは楽しそうに自分の部屋の中に入って行った。

 ……シャーロットさんの目標が改めて定まったのは良かったが、その人のことを考えると少し気の毒になってきたな。

 シャーロットさんの愛情は、前世から続くほどに大きいもの……そんなにも大きいものを、その人は受け止め切れるんだろうか、主に夜。


「……可哀想だけど、俺にはどうすることもできない」


 俺はその人に同情しながら、自分の部屋に入って眠りへと落ちた。

 ……最近、眠るとよく前世での麗城さんとの夢を見る。

 自分では気付いていなかったが────俺の中で麗城さんは、もしかしたら思っていたよりも大きな存在だったのかもしれないな。


「アルは、私にとってただ大切な存在ってだけ、で……良い、のかな……良い、んだよね?」

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