第10話 シャーロットさんの気持ち

「アナスタシア様がご登校なされたわ!」

「まぁ、本日もなんとお美しい……」

「見ているだけで儚さを感じてしまいそうですわ……」


 シャーロットさんが学院に登校すると、相変わらず他の生徒たちからそんな声が聞こえてきた。

 ……いつもならそれはシャーロットさんが綺麗な人だからという理由だけで片付けられるが、昨日の貴族と庶民の交流パーティーがあってからというもの、シャーロットさんの様子はどこか暗いため、儚さを感じるというのもあながち間違っていないのかもしれない。

 講義室に入ると、グレンデルさんが俺たちの元まで早歩きで来て言った。


「フェ、フェアール!き、昨日はシャーロット・アナスタシアに命を拾われたな!」

「え……?」

「もしあのまま勝負を続けていれば、きっと貴様はアナスタシア家の執事としてとてつもない失態を犯したという噂が、世間に広まってしまうだろう!」

「は、はぁ……」


 よくわからないが、別にその勝敗にこだわるつもりもないため、俺はグレンデルさんに合わせておくことにした。

 ……すると、グレンデルさんは一度シャーロットさんのことを見てから、俺に耳打ちをして言った。


「ときにフェアール、シャーロット・アナスタシアの様子がおかしいようだが、もしかして貴様が何かをしてしまったのか?」

「そういうわけじゃ……ない、と思うんですけど、様子がおかしいのは確かです」


 俺がそう答えると、グレンデルさんは口角を高くして言った。


「ならば今、シャーロット・アナスタシアは弱っているというわけだ……そして、弱っている時に颯爽と助けに出るこの僕……悪いなフェアール、昨日の勝負は無効だが、昨日の勝負の勝者特権は僕が頂くことになりそうだ」


 そう言うと、グレンデルさんはシャーロットさんと向き合い、少し近づいて言った。


「シャーロット・アナスタシア、何か悩み事か?もし悩みがあるなら、どんな悩みでもこの僕に相談してみるといい、迅速かつ華麗に解決してみせ────」

「近づかないでくれる?」


 そう言われたグレンデルさんは、一瞬引き攣った顔をしたが、すぐに口角を上げて言う。


「どうやら、よほど大きな悩み事があると見える……そして、その悩みを可愛がっている執事のフェアールにも伝えていない、つまり……フェアールには解決できないほどの大事、だが安心してくれ、僕は侯爵家の長男、どんな悩みでも解決────」

「今グレンデルみたいなのの相手する気力ないから、話しかけないでくれる?」

「っ……そ、そうか、ではまた」


 そう言うと、グレンデルさんは無理やり笑顔を作って────俺のことをシャーロットさんの遠くに連れて行くと、顔を引き攣らせて言った。


「紳士的な対応をした僕に対して!あれは失礼じゃないか!?」

「まぁ……はい」

「もしシャーロット・アナスタシアがずっとあの状態では、今後の僕の計画に支障が出る!今回は仕方なく、貴様にシャーロット・アナスタシアに活力を戻らせる役割を任せてやろう!だから早くシャーロット・アナスタシアをいつも通りに戻せ!」


 いつも通りに戻ってもグレンデルさんに対する対応はあまり変わらないと思うが、確かにシャーロットさんがずっとあんなに暗い様子では、俺としてもあまり良い気はしない。


「わかりました、俺にできる範囲でシャーロットさんの手助けをしてみます」

「頼んだぞ!」


 俺はグレンデルさんに見送られながら、シャーロットさんの元に戻った。

 ……だが、シャーロットさんと誰よりも長く過ごしてきたからわかることだが、今はきっと話しかけないほうがいい。

 そのため────俺は今日の講義が全て終わりアナスタシア家の屋敷に入って二人でシャーロットさんの部屋にシャーロットさんに話しかけた。


「シャーロットさん、昨日から様子が変です……何か悩み事があるんですか?」

「……アルは、浮気についてどう思う?」

「浮気……良くないことだと思います」

「じゃあ……同時に二人の人を好きになるのは?」

「浮気が良くないことっていう前提で話すなら、どちらかに絞らないといけなくなると思います」

「そう、だよね……アル、ベッドに座って?」

「え?シャーロットさんのベッドに、ですか?」

「……うん」


 意図がわからなかったが、俺はとりあえず言われた通りにシャーロットさんのベッドに座った。

 そして、シャーロットさんが俺の前に来た────かと思えば、シャーロットさんは俺の肩をトン、と押して、ベッドに倒した。


「シャーロット、さん?」

「私だけじゃ、私の気持ちを確かめられない……だからアル、私のこの気持ちが悪いものなのか、それとも正しいものなのか……アルと一緒に確かめさせて」

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