第23話 シャーロットさんの正体

 ────俺は、前世のことで夢に見る麗城さんは、今でも前世であの美貌と頭脳によって、多くの人を惹きつけているんだろうと思っていた。

 だからこそ、シャーロットさんが前世での好きな人を探していても、俺は前世で仲の良かった麗城さんを探すことはしなかった。

 何故なら、この世界で会うということは、その人は前世で……だが。

 今、シャーロットさんの口から、シャーロットさんの前世で好きだった人の名前があるとという名前であったことと、シャーロットさん自身の前世での苗字が麗城だったということがわかった。

 つまり……シャーロットさんの正体はあの麗城さんで、その麗城さんが前世で好きだった人というのが、前世の俺だったということだ。


「どう、して……」


 麗城さんが俺のことを好きだった、ということは驚くべき事実だが、それよりも────麗城さんがこの世界に居る、そして後を追ったという発言。

 それらのことから考えると……麗城さんはもう、前世には居ない。

 美貌と頭脳、それだけじゃない、お金持ちという環境だって麗城さんに味方していた……もし麗城さんが生きていたら、どんなことができただろう。

 会社経営をしてお金を稼いでそのお金で誰かのことを助けたり、他人のためでなくとも、麗城さんは幸せな人生を生きていくことができたはずだ。

 ────その可能性を奪った……直接的に俺のせいじゃないとしても、俺と関わらなかったら麗城さんがこんな世界に来るようなことはなかった。


「……アル?どうしたの?さっきから様子が変だよ?」

「っ……!」


 そう言って俺のことを心配するシャーロットさんの顔が、俺は今一瞬麗城さんに見えた……前にもこんなことがあったが、まさか本当にシャーロットさんが麗城さんだったなんて。


「はぁ、はぁ……うっ、はぁ」


 どうして麗城さんは、俺の後なんて追ってこんなところに来てしまったんだ?

 もし俺と関わることがなかったら、麗城さんは今頃前世の世界で楽しく過ごしていたのか?

 だとしたら……俺と関わったから、麗城さんは────


「アル!呼吸浅いよ?ちゃんと呼吸して!」

「……呼吸」


 ……そういえばさっきから少し呼吸が苦しいような気がする。

 でも……呼吸を整えるような気分でもない。


「大丈夫です」

「大丈夫じゃないよ!深く呼吸して!!」

「……そんな気分じゃ────」

「ふざけたこと言わないでよ!アルがもし大変なことになっちゃったら、私これからどうすればいいの!?」

「……どうすればって、俺が居なくなってもシャーロットさんの好きな人っていうのを探せば────」


 そう言いながら、俺は気がついた。

 もし俺が居なくなったら、シャーロットさんは前世で好きだった人を探すという目的を一生果たせなくなってしまい、そもそもシャーロットさんがシャーロットさんの前世で好きだった人……俺のことを追ってまでこの世界に来た意味が無くなってしまう。

 刹那の間にそんなことを考えていると、シャーロットさんは俺のことを抱きしめて言った。


「ふざけないで!彼のことを見つけたとしても、アルも近くに居ないと意味ないよ……お願いだから、アルは居なくならないで……お願い、だから」

「……」


 俺は、シャーロットさんに言われた通りに深く呼吸を行い、呼吸を整えた。


「アル……!本当、突然怖いこと言わないでよ……本当に、怖かったんだから」


 シャーロットさんは、俺のことを抱きしめる力を強めて、弱々しい声でそう言った。

 ……シャーロットさんのことを苦しませたくないから、俺は自分の命を粗末にするようなことはできない。

 だが、シャーロットさんの……麗城さんの輝かしい未来を奪ってしまった俺が、シャーロットさんに正体を明かして、幸せに暮らしていくなんてことも当然できるわけがない。

 俺は、俺のことを抱きしめるシャーロットさんのことを俺から離して言った。


「少し……一人にしてください、考えたいことがあるんです、また明日には今まで通り────」

「ダメ」


 シャーロットさんの前から離れようとした俺の腕を掴んで、シャーロットさんがそう言って続ける。


「今アルのことを一人にしたら、アルはもう帰ってこない……物理的にそうじゃなかったとしても、アルの大事な何かが、もう二度と帰ってこないような気がする……だから、ダメ……どうしても行くっていうなら、縛ってでも行かせない」

「シャーロットさん……」

「アルが今何か思い詰めてて、それを私に言いたくないんだったら、私は聞かないよ……でも、アルの傍には居させて……もう、あの時と同じような後悔はしたくないの」


 シャーロットさんの優しい言葉の一つ一つが痛い……だが、同時に嬉しいと思ってしまう自分もいて、そんな矛盾を抱えている自分に対し、俺は自己嫌悪を感じた。

 ……だが、シャーロットさんの優しさを、無碍にはしたくない。


「わかりました……じゃあ、傍に居てください」


 俺がそう伝えると、シャーロットさんは優しく微笑んで、俺のことを抱きしめて言った。


「うん……私はずっと、アルの傍に居るよ」


 その後、俺とシャーロットさんは互いに一言も発さずに時間を共に過ごした。

 シャーロットさんに優しくされて嬉しく感じている自分と、その嬉しいと感じている自分に対して嫌悪感を抱いている自分……その矛盾を抱えたままシャーロットさんと過ごすのは少し苦しかったが────断言できるのは、もしシャーロットさんが傍に居てくれなかったら、俺はシャーロットさんの言っていた通り、俺の大事な何かは失われていたんだろうということはわかった……でも。


「……」


 シャーロットさん……麗城さん……俺はこれから、どうすれば────

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