第37話 あるとくんと麗城さん

 シャーロットさんの今の言葉とこの俺のことを抱きしめている行為には、今のこの瞬間だけでなく、前世と今世の全てが重なっているようにとても大きなものを感じる。

 俺がそれを感じ取っていると、シャーロットさんは続けた。


「私が、アルのことを彼だと思ってるってことをアルに一番最初伝えた時、アルが言ったこと覚えてる?」

「……その人は俺じゃないって言いました」

「うん、それで、その理由が『前世の俺には、そこまで俺のことを好きで居てくれる人、ましてや恋愛感情を向けて来てくれた人なんて一人も居なかった』だよ?あれを聞いた時、私は本当に世界が崩れたみたいだったよ……だって、私はあんなに前世からあるとくんのことが好きだったのに、アルは自分のことを好きで居てくれる人も恋愛感情を向けて来た人も居ないなんて言ったんだから……あの時、もしかしたら本当にアルはあるとくんじゃないのかもしれないって考えが過っちゃった……でも、アルがそう言ったのも当然だったんだよ、だって私の気持ちをあるとくんに伝える前に、あるとくんは……居なくなっちゃったんだから」


 そう言うと、シャーロットさんは俺のことを抱きしめる力を強め、声を震わせながら言った。


「ねぇ……ちゃんと、アルの口から聞かせてくれない?アルが、あるとくんだってこと」

「……はい」


 俺は、シャーロットさんに求められた通り、もう何も隠す必要はないため、素直に全てを伝えた。


「俺はシャーロットさんの……麗城さんの知ってるあるとです、ずっと隠しててすみませんでした」

「やっぱり、そうだったんだね……あるとくん……」


 麗城さんは涙を流しながら、俺の名前を呟いた。

 俺は、そんな麗城さんのことを抱きしめる。

 ……俺は今から、あるととして麗城さんと接することにした。


「本当に悪かった、もう俺は、絶対に、麗城さんの元を離れない」

「……うん、私も離さないよ……愛してるからね、あるとくん……」


 それからしばらく、麗城さんが落ち着くまでの間互いに抱きしめ合っていると、互いに一度抱きしめ合うのをやめ、涙が落ち着いてきた麗城さんが俺に顔を近づけてきて言った。


「あるとくん……前世からずっと変わらず、ううん、前世で思ってた以上に、あるとくんを失った経験を持った私は今、あるとくんのことがもっと大好きだよ」

「……俺もだ」


 麗城さんは、前世でずっと俺と一緒に過ごしてくれて、前世での肉体的な命を絶ってまで、愛という名の命を繋いでこの世界まで来てくれた……そして、優しかったり、俺のために涙を流してくれる。

 俺は、そんな麗城さんのこともシャーロットさんのことも、本当に好きだ。

 俺たちは互いに気持ちを確かめ合うと、唇を重ねた。

 そして、麗城さんがまたも涙を流しながら言う。


「ずっと……本当にずっと、こうしたかったの……前世でも、ずっとあるとくんにこの気持ちを伝えたいってことだけを考えてた……今、ようやくそれを伝えることができたんだね」

「あぁ……伝わってる」

「────でも、これだけじゃまだまだ足りないよ、前世と今世でのこの気持ち……何日、何年あったって、この気持ちはきっと伝わりきらない……この愛は、ずっと絶たれない」


 麗城さんは、もう一度俺と唇を重ねた。

 もう一度、もう一度……それを何度か繰り返し、次は唇を長い間重ねた。

 そして、やがて唇を離すと、麗城さんがとても嬉しそうな笑顔で、頬を赤く染めながら言った。


「嬉しい……あるとくんと、こんなに愛し合うことができるなんて……」


 そう言いながら、麗城さんは俺の執事服に手をかけると、そのボタンを外し始めた。

 ……前、シャーロットさんに同じことをされた俺は、それに口で抵抗して、行動でも抵抗して、実際に家出したりもしたが────今のシャーロットさん……麗城さんに対してそんなことをする理由は全くないし、むしろ早く俺のこの愛も麗城さんに伝えたいということで頭がいっぱいだった。

 やがて、麗城さんが俺の執事服のズボン以外を脱がせると、今度は麗城が自分の着ているバスローブの上半身の部分をはだけさせ、その美しい上半身を俺に露わにしながら言った。


「あるとくん、触ってくれる?もっとあるとくんの愛を感じて……もっと、私の愛も伝えてあげたいから」

「わかった」


 その後、俺たちは互いの体を愛でるようにベッドの上で愛し合い────この空間が、完全に愛という名の空気で充満されると、麗城さんは俺のズボンを脱がせ、麗城さん自身もバスローブを完全に脱いだ。

 そして、俺に身を寄せながら言う。


「あるとくん……いいよね?」

「……あぁ」


 その後、俺と麗城さんは、長い間ベッドで交わった。

 この交わりは、肉体的なものだけではない……精神的なものも一つになっているということは言うまでもなく、さらに前世と今世も交わっている。

 それら全てが今の俺には愛おしく、目の前に居る麗城さんとのこの幸せな時間を、俺はいつまでも過ごしたいと思った。

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