第25話 愛
学院に登校して、シャーロットさんと一緒に講義室に向かいながら、俺は考え事をしていた。
考え事というのは、シャーロットさんの恋愛的な価値観をどうすれば変えられるのか、ということだ。
シャーロットさんのためにもできるだけ早く正体を明かしたいところだが、今正体を明かしたらシャーロットさんの部屋に閉じ込められ、ご飯も自分で食べるのではなくシャーロットさんに食べさせられ、夜は毎日シャーロットさんとああいうことをさせられるという。
……そんな生活を送りたくはないため、ひとまず俺の正体を隠しながらシャーロットさんの恋愛的な価値観を変えるというのが今後の方針になりそうだ────それにしても。
「……」
シャーロットさんが麗城さんだったとわかった上でシャーロットさんのことを見ると、確かに表情や仕草から、麗城さんの面影がたくさん見えるな。
そして……その麗城さんが、まさか俺のことを恋愛的な意味で好きだったなんて。
昨日そのことがわかった時は、それ以外のことで深く考え込んでいたからあまり気に留めていなかったが、改めて考えてみると本当に驚くべきことだ。
そんなことを考えながら講義室に入ると、最近は毎日話しかけてきているグレンデルさんが、今日も話しかけてきた。
「フェアールよ!昨日の虚な目が無くなったということは、もういつも通り間抜けなフェアールに戻ったのか?」
「いつも通りにはなりましたけど、間抜けではないです」
「そうかそうか!それは良かった、流石だなシャーロット・アナスタシア!」
「私は何もしてないよ」
「ふふ、謙遜も覚えているか、流石は公爵だ!」
いつものように話しているグレンデルさんのことを見て、俺はふと良いアイデアを思いついた。
その名も、グレンデルさんと恋愛話をして、間接的にシャーロットさんの恋愛的な価値観を常識的なものにしよう、というものだ。
俺が直接的に、閉じ込めたりするのは良くないと言っても聞かないかもしれないが、俺とグレンデルさんが話しているのを間接的に聞いてもらい、これが普通の恋愛だということを知ってもらう……良いアイデアだ。
俺は、早速グレンデルさんに話しかけて言う。
「グレンデルさんは、恋人の人とか居るんですか?」
普段恋愛話をしない俺がグレンデルさんにそんなことを聞いたため、シャーロットさんが困惑した様子で言った。
「アル、そんなこと聞くなんて珍しいね?どうしたの?」
「なんとなくです」
「そう」
シャーロットさんは、俺とグレンデルさんの方を向いて、静かに会話を見守る様子だった。
違和感なくシャーロットさんにも俺とグレンデルさんの恋愛話を聞いてもらう状況を作れたので、俺はグレンデルさんの話に耳を傾ける。
「ふっ、僕が誘えばどんな女性でも僕に見惚れてしまうだろうが、そんな罪深いことをするのは世の女性たちに申し訳ないから今の段階で恋人は作っていない」
「は、はぁ……」
相変わらずの様子に少し出鼻を挫かれてしまったが、俺は続きを話し始めることにした。
「グレンデルさんは、もし恋人ができたらその人とどんな感じで一日を過ごしますか?」
「最高級の景色が見られる場所で最高級の食事をしながら過ごし、家に帰ったら共に読書でもしながらゆっくりと過ごす」
グレンデルさんにしては少し落ち着いている印象だが、きっと女性とはこんな感じに過ごすんだろうなということは、普段の発言の節々から見て感じ取ることができる。
「なるほど、ありがとうございました、もう講義が始まるのでこれで」
「あぁ、またな」
俺とシャーロットさんはグレンデルさんから離れ、それぞれ隣の席に座った。
そして、俺はシャーロットさんにさっきのことで話を振る。
「グレンデルさんの言ってたような、落ち着いた感じで恋人の人と過ごすのも良さそうですよね」
ここでシャーロットさんが「うん、楽しそうだね」と言ってくれれば俺の作戦はかなり成功した────と言えたが、現実はそう甘くはなく。
「そうかな?私は愛が足りないと思ったけど」
シャーロットさんは、間を入れずにそう即答した。
……だが、諦めるにはまだ早いため、俺は続けて言う。
「そうですか?十分だったと思いますよ」
「省いただけかもしれないけど、恋人とどう過ごすかっていう話で恋人以外ともできるようなことしか言わないあたり、グレンデルって意外とそういう面では恥ずかしがり屋なのかもね……私だったら、そういうのを恥ずかしいって思わないけど」
「……でも、もしかしたらシャーロットさんの好きな人も、そんな感じかもしれませんよ?」
「そうだったとしても、二人で毎日体を重ねて愛を感じれば、きっとそれも無くなっていくよ」
「……でも、閉じ込められて愛は感じないと思うので、閉じ込めるのはやめた方がいいんじゃないですか?」
「何言ってるの、あるとくんのためにあるとくんのことを閉じ込めてあげるんだから、それも愛だよ……そう、私はこの世にある全ての形であるとくんのことを愛してあげるの……早くあるとくんに私の全てをあげたいし、あるとくんの全てが欲しいよ……」
シャーロットさんは、頬を赤く染めながら愛情を抑えきれていない声音でそう言った。
「……」
完全な失敗だ。
だが、一度失敗したぐらいで諦めたりしない。
これからシャーロットさんの恋愛的な価値観を少しずつ────と考えていると、シャーロットさんが落ち着いた声音で言う。
「────それで、どうしてアルがあるとくんの立場になりきったようなことを私に聞くの?」
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