第26話 恋愛的な価値観
しまった……!
ただ単に失敗しただけでなく、俺自身の願望も込めすぎたせいでシャーロットさんに怪しまれてしまっている。
ひとまずここは、前世の俺だということは一切明かさずに、フェアールとしてだけシャーロットさんと接しよう。
「シャーロットさんの好きな人になりきったなんて、そんなつもりはないですよ……ただ、俺もシャーロットさんと同じく前世の記憶が戻ったので、もしその人も前世の記憶が戻ってるんだとしたら、前世の価値観的には部屋に閉じ込められたりするとあまり良い気持ちにはならないんじゃないかと思っただけです」
「……本当にそれだけ?」
「はい」
「……そう」
とりあえず、変に疑惑を持たれてしまっていた流れは回避することができたが、今後も同じことが続けばシャーロットさんはその違和感の正体に気付いてしまうかもしれない……そうなってしまっては、シャーロットさんの恋愛的な価値観を常識的なものにするのはとても難しくなってしまう。
つまり、今後重要になってくるのは、俺がシャーロットさんの恋愛的な価値観を変えるのが先か、シャーロットさんがその違和感の正体に気付くのが先かということだ。
俺が今後のことについて考えていると、シャーロットさんが口を開いて言った。
「でも、アルは一つ勘違いしてるよ」
「……勘違い?」
「うん、確かにただ私の部屋に閉じ込めるだけならあるとくんは嫌がるだろうし、私だってそんなことしたくないって思うよ……でも、ちゃんとご飯も作ってあげるし、夜だって交わってあげるし、睡眠だってちゃんと取れるんだよ?それで、どうしても私があるとくんと一緒に出かけたいところとか、あるとくんが出かけたいって言ってくれた場所があったとしたら、その時は絶対の安全を確保した状態でっていう前提だけどちゃんと連れて行ってあげる……これなら問題ないでしょ?」
確かにそれなら問題ない────と、一瞬でも思ってしまいそうになった自分が居たが、そもそも閉じ込められるのが前提という上での話だ。
閉じ込められるのが前提な時点でそれを好きな人とか好きな人じゃないとか関係なく、そもそも問題しかないため、それ以外がどれだけ良かったとしても、恋愛的な関係として見るのであればそれは余計に容認できるものではない。
やはり、俺が正体を明かすにしても、シャーロットさんの恋愛的な価値観はどうにかして変えてもらわないといけない。
そのために、俺はシャーロットさんの言葉に対して返答する。
「問題しかないですよ、例えばほとんどの時間を一緒に過ごすとかならまだ理解できます、でも閉じ込めるっていうことは、シャーロットさんの好きな人のプライベートな時間は無いってことじゃ無いですか?」
「え?プライベートな時間なんて要るの?」
「要りますよ!」
「どうして?」
……相変わらず肝心なところで常識外な考えを持っているシャーロットさんに対して、俺はわかりやすくプライベートな時間の必要性を伝えることにした。
「例えば、一人で静かに本を読みたい時だってあると思うんです」
「その時は私が静かにしてれば良いんじゃないの?」
「……一人で勉強したい時もあると思います」
「あるとくんは、アルと同じタイプで、魔法学の勉強とか苦手だと思うから、そこを私が教えてあげるし、他の分野でも私は勉強に関してはあるとくんよりもできる自信があるから、私が居てあるとくんの助けになることはあったとしても、邪魔になることはないと思うよ」
……どうやら、どれだけ例を出したとしてもシャーロットさんに伝えることは非常に困難なようなため、俺は別の方向性でシャーロットさんに伝えることにした。
「逆に聞きますけど、シャーロットさんはプライベートな時間がなくても良いんですか?一人になりたい時だってどこかであると思います」
「誰に言ってるの?あるわけないよ」
「そんなことは────」
「あるとくんのことを前世で失った時、私がどれだけあるとくんと一緒に居たいって思ったかわかってるの?ううん、前世だけじゃない、今だって思ってる……二度とあるとくんと会えなくなるぐらいなら、一生あるとくんと一緒に居たい、私はあるとくんが居ないことで生じる苦しさを知ってるから、あるとくんと一緒に居られるっていう選択肢があるのにも関わらず一人になりたいなんて思うことは絶対にないよ……あの時と同じ後悔は、絶対にしない」
そのシャーロットさんの言葉は、前世から続く気持ちの言葉ということもあって、とても重たいものがあり、とてもじゃないが俺はそれに対して何か意見するようなことはできなかった。
シャーロットさんは、一瞬だけ俺のことを鋭い目で見たかと思えば、今度は楽しそうな目で言った。
「あるとくんと早く会って、一緒にお風呂に入ったりもしたいな〜!当然、衣服なんていう邪魔なものは脱ぎ捨ててね」
「お風呂……!?」
普段はあまりそういうことに関心を示さない俺だったが、シャーロットさんが目の前に居る人ということや、夜に交わるという今の俺にとってはあまり現実感のないものでなく、お風呂に入るという少し現実感のあることをシャーロットさんが持ち出したこともあって、俺は思わずその光景を想像し、動揺してしまった。
そして、そのことについてシャーロットさんが言及してきた。
「どうしてアルが動揺するの?」
「……え?」
「私はあるとくんとっていう話をしてるんだよ?それなのに、どうしてアルが動揺するの?」
「え?それは……シャーロットさんが、衣服を脱ぐなんて具体的で、ちょっと刺激の強いことを言ったからです」
「……なら、良いんだけどね」
シャーロットさんがそう言った直後に、講義開始時間となった。
あと少し話していれば、さらにボロが出てしまっていたかもしれないが、今回はギリギリのところで講義が始まってくれたため、致命傷にはならなかったと言ったところだろうか。
できるだけシャーロットさんと目を合わせたくなかった俺は、講義が始まると先生の方にだけ視線を注いでいた。
「……」
────そのため、シャーロットさんが俺に対して疑いの眼差しを向けてきていることに、気付くことができなかった。
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