第27話 聞き込み調査

 今日の全講義が終わり、シャーロットさんと一緒にアナスタシア家の迎えの馬車前まで来ると、俺はシャーロットさんに伝える。


「シャーロットさん、今日は先に帰っててください」

「先に……?どうして?」


 今までほとんどそんなことは無かったため困惑しているシャーロットさんだったが、俺はそのシャーロットさんにその理由を伝えた。


「講義のことでわからないところがあったので、それを先生に聞きに行こうと思って」


 当然嘘だ。

 講義でわからないところがあったとしても、自由時間を割いてまでそのことを聞きに行くほど俺は勉強熱心じゃない。

 シャーロットさんは、その俺の発言に対して違和感を持ったのか、もしくは純粋に思ったことを口にした。


「講義でわからないところがあったなら、私が教えてあげるよ?」

「いえ、講義の部分だけじゃなくて、そこの応用部分も気になってるので、先生じゃないと難しいと思います」


 ここまで言えばシャーロットさんも引かざるを得ないだろう。


「……」


 少し考えた様子のシャーロットさんだが、次に頷いて言った。


「わかったよ、じゃあ今日は先に帰ってるね」

「はい、俺も先生に聞き終わったらすぐに帰ります」


 俺はシャーロットさんが馬車に乗って、その馬車が進み始めたのを見届けてから、学院の建物内へと入った。

 どうして俺が、シャーロットさんに嘘をついてまで学院の中に残ったのか……それは────聞き込み調査だ。

 今日で、シャーロットさん自身の恋愛的な価値観、恋愛観をどの方向から切り崩そうとしてもかなり難しいということが判明した。

 だからこそ、シャーロットさんではなく、シャーロットさん以外の人から恋愛観を聞き出し、それを元にどうにかシャーロットさんの恋愛観を変えようというのが目的だ。

 学院には、講義が終わっても講義室で勉強している生徒や、廊下で談笑している生徒、訓練所で魔法の訓練をしている生徒がたくさん居るため、その人たちに恋愛観の聞き込みをしてみよう。


「────がとても綺麗だったんですの」

「まぁ、それはとても良いですわね」

「えぇ、湖を見に行くことはあるんですの?」

「あまり……どちらかと言えば、木の生えた神秘的な場所を見に行くことが多いですわ」


 廊下を歩いていると、早速言葉遣いや身なりから貴族だと思われる女子生徒二人を見つけたので、話しかけることにした。


「すみません、少しお話良いですか?」

「あら?フェアール様!もちろんですわ!」

「ど、どうかなされたんですの?」


 俺が話しかけると、二人は羨望の眼差しを俺に向け、緊張感を漂わせた。


「俺は貴族でもなんでもないので、そんなに気を張らないでください」

「貴族でない身でありながら、アナスタシア家の執事を務めているフェアール様のことは、誰もが尊敬していますわ」

「そうですわ!」


 これ以上気を張らないように言っても逆効果だと感じた俺は、早速本題に入ることにした。


「それで、二人に聞きたいことなんですけど、二人は恋人の方とどう過ごしたいとかって考えたりするんですか?」

「まぁ、意外な切り口ですわね」

「私は当然ありますわ、添い遂げる殿方ができたら、その方と色々なところへ行きたいですわ」

「私も、それこそ先ほど話していた湖などに一緒に行きたいですわ」

「そうですよね……恋人のことを閉じ込める、とかはどう思いますか?」


 これに対して否定的な意見が出れば、俺はその中からシャーロットさんにも届きそうな言葉を伝えようと考えていた────が。


「私たちとは違いますが、それも一つの形だと思いますわ」

「……え?」

「えぇ、愛の形は自由ですし、自分だけのものにしたいと思う気持ちは理解できますもの」

「そ……そうですか、すみません、ありがとうございました」

「いえ、こちらこそですわ」

「またお話ししましょう、フェアール様」

「は、はい」


 シャーロットさんの恋愛観を変えられるような恋愛観を聞き出したいという今回の目的から考えると、最初から少し幸先が悪いことに不安感を抱いたが、俺はその後もシャーロットさんと同じ性別である女子生徒たちを主として恋愛観を聞いて行くことにした。

 その道中、時々視線を感じたが、その視線の方を見ても誰も居なかったため、それはきっと気のせいだと思うことにした。


「アル、何してるんだろ……女にばっか話しかけて……もしかして、私に隠れて女遊び?……それとも────」

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