第28話 シャーロットさんの仕込み

 聞き込み調査の結果のまとめとしては、閉じ込めることに対してあまり良くないというイメージを持つ人はいたものの、完全に否定をするという人はないなかった。

 その理由は、この世界には一応貴族制度というものがあるが、やはり前世よりも犯罪を犯す人の率が高いため、愛する人を危険にしないために閉じ込めてしまいたくなるという気持ちはわかる、という人が多かった。


「俺だってそれだけ聞けば気持ちはわかるが、実際にされるとなるとまた話は別だ」


 とはいえ、これ以上聞き込み調査を続けても、少なくともこの学院内ではこれ以上成果を得ることはできないだろう。

 一応、あと一人ぐらいに聞き込みをしたらアナスタシア家の屋敷に帰ろう。

 そう決めた俺は、一番近くに居た女子生徒に話しかける。


「すみません、少し時間をいただいても良いですか?」

「まぁ、フェアール様、どうかなされたんですか?」


 俺に敬語や様付けをする必要はないと何人かの人に言ったが、それは全てことごとく却下されてしまったため、これに関しては特に触れないことにした。

 そして、俺は早速本題に入る。


「恋人との過ごし方についてなんですけど、いくら恋人の人が大事だからって、その人のことを閉じ込めたりするのはやり過ぎだと思いますか?」


 俺は、今回も俺にとってはあまり嬉しい意見は得られないだろう、そう思っていた────が。


「思います!いくら大事だからと言っても、閉じ込めるというのはやり過ぎです!」

「っ……!?」


 この世界にも俺と同じ恋愛観を持っている人が居るということに、俺は衝撃を受けた。

 やっとだ、やっと見つけた……!この人から意見を聞き出せば、何かその中でシャーロットさんの恋愛観を変えるほどの意見が見つかるかもしれない。

 俺は、思うような成果が得られなかったことで少し落ち込んでいた気分を一気に上げて、聞き込みに本腰を入れることにした。


「俺もそう思います、でもそう思ってる人が居た場合、どうやってその人のことを説得したら良いと思いますか?」

「説得、ですか……不躾かもしれませんが、今フェアール様ご自身がそういったご状況にあるんですか?」


 俺自身……まだシャーロットさんに正体を明かしていないから、この世界での今の段階では俺自身ではないが、将来的には俺自身のものになる問題だ。


「……そんな感じです」

「なるほど……説得してどうなされたいんですか?」

「どう……それは、その変な考えをやめてもら────」


 俺は、咄嗟に後ろの方から冷気を感じたため振り返った……が、そこには誰も居ない。


「フェアール様……?」


 俺の後ろが視界に入っているはずのこの女子生徒が特に何も見えていないということは、俺の気のせいということか。


「なんでもないです……とにかく、どうすれば説得できるかが知りたいんです」

「どうして説得したいんですか?」

「その人との将来のためにです」

「……」


 俺がそう伝えると、その女子生徒は沈黙して、身動きを取らなくなった。


「あの……?大丈夫ですか?」

「……」


 それからしばらくすると、女子生徒は一度俺の後ろに視線を移してから、俺に視線を戻してようやく口を開いて言った。


「その、フェアール様……ごめんなさい!これも、アナスタシア様とフェアール様のためだって聞いたので!」

「はい?」


 そう言うと、女子生徒はどこかへと走り出してしまった。


「……意味がわからないな、どういう意味だ?」

「────それは私のセリフだよ、アルには色々と聞きたいことができたね」

「っ……!?シャーロットさ────」


 俺の後ろから、アナスタシア家の屋敷に帰ったはずのシャーロットさんの声が聞こえ、シャーロットさんの方に振り返ろうとした時、シャーロットさんは俺の両腕を俺の背中に回すと、シャーロットさんは左手で俺の両手首を掴んで俺の両手首を氷魔法で固めた。


「ど、どうして学院内に?」

「今日は全体的にアルの様子がおかしかったからね……さっきの女子生徒は、アルの考えに同調することと、アルの目的を聞き出すことの協力のために、私が仕込んだの」


 なるほど……じゃあ、さっきあの女子生徒が俺に謝っていたのは、シャーロットさんに言われたからとはいえ、俺のことを騙すことになったからということか……次は質問を変えよう。


「じゃあ、どうして俺の両手首を氷で固めてるんですか?」

「念の為だよ、アルが逃げ出さないためにね」

「俺は逃げたりなんて────」

「万が一にも逃げられたりしたら困るの、今は……たくさん、アルに聞きたいことがあるからね」


 シャーロットさんの冷たい声音や雰囲気から、俺の背中に寒気が走った。

 それが氷魔法から出ている冷気なのか、それともそれ以外の何かなのか。

 今の俺には、そのどちらとも判別することはできず、俺はそのままシャーロットさんに馬車へ乗せられた。


「今日の夜は……長くなりそうだね、アル」

「……」


 今回は、完全にシャーロットさんにしてやられたな……

 俺とシャーロットさんを乗せた馬車は、俺にとっては無慈悲にもアナスタシア家の屋敷へと向かう。

 その道中、俺は心の中でこの馬車がアナスタシア家の屋敷に到着しないことをずっと願っていたが────時間というものもまた無慈悲。

 俺とシャーロットさんを乗せた馬車は、アナスタシア家の屋敷へと到着してしまった。

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