第29話 シャーロットさんは好き

 アナスタシア家の屋敷に到着すると、俺はシャーロットさんによって、シャーロットさんの部屋へと連れられてくると、椅子に座らされた……両手首は氷魔法で固められたままで。


「……」


 前に講義で習ったように、氷魔法は炎魔法で溶かすことはできるが、屋敷の中でそんなことをしたら椅子や屋敷自体が燃えてしまうかもしれないため、当然そんなことはできるわけもなかった。

 シャーロットさんは、俺の対面に座るとどんな感情をしているのかが見えない話し始めた。


「アル、一応言っておくけど、もし隠し事があるんだったら今の間に言っておいてね?今言わないで後から隠し事が発覚したら、私酷いことするから」


 ……隠し事は存在する、俺が前世であるとだったということだ。

 だが、今シャーロットさんにそのことを伝えたとしても何も状況は変わらないため、何も言わなくて良いだろう。


「はい、隠し事なんてありません」

「……そう、じゃあ早速聞くけど────さっきのはどういうこと?」

「……さっきの?」


 シャーロットさんは、少し険しい表情になって言う。


「さっき、あの子に『今フェアール様ご自身がそういったご状況にあるんですか?』って聞かれた時、アルは『そんな感じ』って答えてたよね?アルはアルトくんじゃないのに、そんな感じってどういうこと?」


 そうか、あの女子生徒との会話は全て聞かれているのか……となるとかなりまずい、が────いくらでも逃れることはできる。


「そんな感じってぼかしてる通り、本当は自分ごとじゃないからです……シャーロットさんの好きな人っていうのは俺とは関係ない人ですから」

「それなら、ぼかしたりしなくても完全に否定できた内容だよね?」

「シャーロットさんの好きな人がどうしても可哀想で……その人が見つかったら俺は一応同じ屋根の下で生活するわけですから、少し同情心が沸いてしまったのかもしれません」

「同情心、ね……でも、ご自身って言われてるんだよ?そう言われて、同情心でもそんな感じなんて言うのかな?」

「俺は、言いました」


 問い詰められている雰囲気と両手首を動けなくされているという状況による緊張感で、俺は少し歯切れが悪くそう返事をしてしまった。

 すると、シャーロットさんがさらに続けた。


「私がここで考えるべきなのは、どうしてアルが本来なら完全に否定するべきところでぼかした言葉を使ったのかってことだよ」

「会話の流れでなんとなく言った言葉────」

「その可能性もあるし、別の可能性もあるってこと……例えば、アルは一応この世界ではアルだから、そういった意味ではあるとくんとは違うから自分自身がそういう状況かって聞かれたらそうじゃない、じゃあどうしてぼかした言葉を使ったのかだけど、それは現段階ではそうじゃないってだけで、いつかはそうなる可能性があるからっていう考えもできるよね」


 人の上に立つ人というのは、やはりこういうことを指すんだろうと思わされるほどに、心を見透かされていることを感じた……だが、ここで忘れてはいけないのは、シャーロットさんが言っているのはあくまでも可能性で、その確証はないということ。

 だからこそ、シャーロットさんはわざわざ俺にそのことを話しているんだ……それなら。


「そういう考えもできるとは思いますけど、そうじゃないです」

「ふ〜ん……じゃあもう一つ、どうして私のことを説得したいのか聞かれて、アルは『その人との将来のため』って答えてたよね、あれは?」

「シャーロットさんの執事として、将来的にシャーロットさんの好きな人とシャーロットさんの関係性は俺にも関わってくるからです」

「間接的に関わってくるってだけで、その人との将来のためって言うかな?」

「俺は……言いました」


 ……俺があるとだという確実な証拠なんて、絶対に出ない。

 そのことはわかっている……が、この追い詰められている感じは、どこか寒気を感じる。

 俺がそう感じていると、シャーロットさんは少し暗い表情で言った。


「私は……どうしても、アルがあるとくんで居て欲しいと思ってる、だから、今こうしてアルの中にあるとくんのことを見出そうとしてるのも、私の思い込みかもしれない……それでも私は、アルがあるとくんで居て欲しい……だって私は、あるとくんのこともアルのことも、好きだから」


 前にシャーロットさんが『きっとアルが彼なんだって思ってる』と言った時、俺はその人は俺じゃないと答えた。

 まさかシャーロットさんが麗城さんで、その好きな人というのが前世の俺、あるとだったとは思いもしなかったからだ。

 だが……今は、俺がそのあるとだということを、俺自身が一番わかっているため、シャーロットさんの言葉がとても悲痛に聞こえてしまう……そして、シャーロットさんはあるとも、フェアールのことも好きだと言ってくれている。


「アル……お願い、聞かせて?アルは本当に、あるとくんじゃないの?」

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