第30話 恋愛感情

 今ここで、俺がシャーロットさんの問いに正直に答えたら、シャーロットさんはどうなるんだろうか。

 きっと、この世界に来て良かったと喜ぶはずだ……そして、愛という形で、俺のことを閉じ込め、様々な方法で俺に愛を伝えたいという。

 ……だが、本当にそれで良いんだろうか?

 どこか引っかかる……俺自身が閉じ込められたくないからとか、自由が欲しいからとか、そんな単純な話じゃない。

 ────そうか。

 俺が正体をシャーロットさんに明かしたら、麗城さんの死を肯定してしまうことになる。

 俺はきっと、そのことが嫌なんだ……そして、どうしてそれが嫌なのか……今まで抱いたこともなかったし、考えたこともなかった感情だが、それはきっと俺が麗城さんのことを────


「は、は……?な、何考えてるんだ俺は……俺は今まで人にそんな感情を抱いたことはないはず────」

「アル……?」


 俺のことを心配した様子のシャーロットさんは、俺の両手首を固めていた氷魔法を解除すると、俺の手に自分の手を重ねて言った。


「っ……!」


 その時、俺は咄嗟にシャーロットさんと麗城さんの顔が重なって見えた。

 ……本当に、同一人物なんだよな。

 時々シャーロットさんに麗城さんのことを重ねて見たり、麗城さんとの前世での夢を見たりしていて、あれは単に俺が前世でよく話していた人だからだと思っていた……だが、この感情は────


「アル?様子が変だよ?……前も前世の話をした時に様子がおかしくなってたよね?」

「これは、あの時とは違うっていうか……あの、すみません、感情の整理がしたいので、少し一人にしてもらえませんか?」

「ダメ!前にも言ったけど、私はアルが何に思い詰めてたとしても、それを私に言いたくないんだったら聞かない……でも、アルの傍には居たいの」


 そう言うと、シャーロットさんは俺の後ろに歩いてきて、俺のことを後ろから抱きしめた。

 その次の瞬間に、俺の心拍値は一気に上昇した。


「ま、待ってくださいシャーロットさん、今は傍に居られたら余計にというか……」


 前世でも今世でも、麗城さんとシャーロットさん、つまりは今俺の目の前に居る人以外にここまで優しくされたことはなかった。

 そして、ここまで俺に全てを見せようとしてくれて、愛そうとしてくれる人も居なかった。

 ……まずいな、これじゃまるで本当に恋愛感情みたいだ。


「アルがあるとくんなのかどうか、その答えはまた今度聞かせてね……今はお休みが必要みたいだから、アルのことは私がたっぷり休ませてあげる」

「……良いんですか?俺のことを抱きしめたりして……前は浮気がどうとかって気にしてたのに」

「恋心の面で、私はどうしてもあるとくんとアルのことを重ねて見ちゃう……でも、その前にアルが大切なんだってことを気づかせてもらえたから、その大切なアルのことを抱きしめてるのに、それを浮気だって言って嫌悪するのは間違ってると思うよ……それに、どうしてかな……今はなんだか、アルと気持ちが一つに近づいたような気がする」

「……俺と?」

「うん……さっきまでそんな感じしなかったのに、どうしてだろうね」


 ……気持ち、か。

 それはきっと────俺が麗城さん、そしてシャーロットさんに対する感情……恋愛感情を自覚したからだろう。

 とは言っても、そのことを口には一切出していないのにそれを感じ取れるシャーロットさんは、やっぱりすごいな……だが。


「……とりあえず離れてもらえませんか?」

「うん」


 意外にもシャーロットさんはすぐに俺から離れると、今度は俺のことを立ち上がらせて言った。


「そういえば、前世の記憶を思い出してから……ううん、もっと言えば、アルと一緒にお風呂に入ったことなかったよね」

「……え?」

「前世には裸の付き合いって言葉もあったし……お風呂でなら積もった話もできると思うの」

「……もしかして────」

「今から一緒にお風呂行くよ……これはアルのことをあるとくんと重ねてるとかじゃなくて、アル自身のことを大切だと思ってるからだからね」

「待ってください、大切だと思ってることと俺と一緒にお風呂に入ることに何の関係が────」

「気にしないの!それに、よく考えたら私の執事のアルが今まで私と一緒にお風呂に入ってなかったことの方がおかしいんだから!」


 そう言うと、シャーロットさんは俺の手を取って、俺のことをお風呂場へと歩き出した。

 ……今シャーロットさんと一緒にお風呂に入ったりしたら果たして俺の心理状態はどうなってしまうのかと思ったが、心の整理がつかず特に抵抗しようという意欲も湧かなかったため、俺はそのままシャーロットさんによってお風呂場へと連れて行かれた。

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