第35話 友人

 学院に登校した俺とシャーロットさんは、一緒に学院の講義室に入ると、グレンデルさんがいつも通りとてもハイテンションで話しかけてきた。


「フェアールよ!よくぞ来たな!!」


 ……訂正だ、何故かいつもよりもテンションが高い。

 だが、俺はあくまでもいつも通り冷静に返した。


「はい、来ました……それで、今日は何かあったんですか?」

「ふふ、何かあったと言うほどでもないが……それよりも、件のこと忘れていないだろうな?」

「件のこと……?」


 ……何かはわからないが覚えていなかったためそう聞き返すと、グレンデルさんが大声でその答えを口にした。


「泊まりだ!まだ貴様は、僕の家に泊まるという約束を果たしていない!」

「あぁ……」


 そういえば、一時的にアナスタシア家の屋敷から家出した時にそんななことも話した気がする。


「そして、今日は新鮮な食材が手に入ったから、泊まりを行うにはこれ以上ないほどに良い日なのだ、言うなれば泊まり日和とでも名付け────」

「……今日?」


 そのグレンデルさんの言葉に口を挟んだのは、泊まりに誘われた俺ではなく、シャーロットさんだった。

 シャーロットさんがグレンデルさんの言葉に反応を示したことで、グレンデルさんはさらに上機嫌になって言う。


「今日だ!どうした?シャーロット・アナスタシア、もしかして貴様も僕の家に泊まりたいのか?困ったな、当初フェアールだけだと思っていたからシャーロット・アナスタシアの分の食材は無かった────そう、無かったが、僕はもしかしたらシャーロット・アナスタシアが本心を剥き出しにし、僕と一つ屋根の下で過ごしたいと思うことまで予測して、しっかりとシャーロット・アナスタシアの分の新鮮な食材を調達していた!惚れ直したか?そうかそうか、それは結構だ……であれば今日の夜────」

「さっきから何言ってるのかわからないけど、今日の夜は絶対にアルのことはあげないよ?」


 グレンデルさんがとても上機嫌に語っているところに、シャーロットさんはただただ一言冷酷にそう告げた。

 グレンデルさんは一度驚いた様子だったが、そのまま続けて言う。


「そうか……どうやら、本気のようだな」


 ……何も俺とシャーロットさんの事情を知らないグレンデルさんだが、何かを理解したようにそう言った。

 グレンデルさんはこう見えて、時々鋭い時があるからもしかしたら今回もシャーロットさんの本気度合いを────


「つまり、シャーロット・アナスタシアよ……貴様は、一人で僕の家に泊まりに来る、ということだな」


 前言撤回だ、やっぱりグレンデルさんはグレンデルさんだった。

 シャーロットさんは呆れたようにため息をつくと、グレンデルさんに返答する。


「違うから、どうして私がグレンデルの家に泊まりになんて行かないといけないの……とにかく、アルのことは諦めて」

「……ならば仕方ない、今日の夜は諦めよう────だが!」


 グレンデルさんは、俺の肩を揺さぶって言った。


「フェアールよ!夜になるまでの数時間、泊まりで無くとも良いから僕の家に来ないか!?」

「え……?と、泊まりじゃ無くても良い……?」

「あぁ!夕飯とお風呂を共に過ごそうではないか!」

「ま、待ってください、確かにシャーロットさんは今日の夜はって言ってましたけど、別にそれは何時間とかっていう区切りって意味で言ってるんじゃなくて、学院の講義が終わったらっていう意味だと────」

「僕はこんな性格をしているから、友人を家に招いたことがない……だから友人のフェアールを家に招こうとしているだけだ!なのにどうしてそんなに拒む!そんなに僕のことが嫌いなのか!?」


 もはやなりふり構っていられないといった様子でそう言った……まさか、あのグレンデルさんが俺のことを友人と呼ぶ日が来るとはな。

 それでも、本来ならシャーロットさんとのことを優先すべき時……だが。


「フェアール!僕の家に来てくれ!頼む!!」


 ……そんな子犬のような丸い目で見られると、少し同情心が湧いてきてしまう。

 俺は、少しシャーロットさんの方に視線を逸らしてシャーロットさんに聞く。


「その……シャーロットさん、夜って呼ばれる時間帯になるまで────」

「……はぁ、わかったよ、じゃあせっかくだから私もアルについて行ってご飯だけ食べに行く」

「……良いんですか?」


 シャーロットさんは、てっきり断ると思っていたため俺は少し驚いたが、シャーロットさんはどこか懐かしむような表情で言った。


「変わり者とも関わってくれる……そんなアル……あるとくんに、私は救われたから……今回だけは特別」

「……ありがとうございます」


 俺とシャーロットさんは小声でそんなやり取りをしてから、再度グレンデルさんに返事をする。


「わかりました、ご飯とお風呂だけということなら、学院終わりに行かせてもらいます」

「ほ、本当か!?僕の誘いを受けてくれたからには、後悔はさせない!!必ずや最高の時間を過ごさせてやろう!!」


 グレンデルさんは、今までにないほど嬉しそうにしながら飛び跳ねていた。

 そして、学院の講義が全て終わると、時刻は夕方と呼ばれる時間となり、俺とシャーロットさんは、グレンデルさんと一緒に馬車でグレンデルさんの家へと向かった。

 前世と今世両方を合わせて、今までで一番濃厚な夜が────あと数時間でやって来る。

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