第34話 フェアールとシャーロット

「……ん?」


 目を覚ました俺は、辺りを見回してみると、何故か自分がシャーロットさんの部屋で寝ていることに気がついた。

 そして、布団をめくってみると、俺は知らない間にバスローブを着ていて、隣にはバスローブを着たシャーロットさんが眠っている。


「……どういう、状況だ?」


 カーテンで遮られているものの、外には日光が出ていることから、今が朝だということはわかる。

 昨日は……確かシャーロットさんと一緒にお風呂に入って、のぼせて、シャーロットさんのことを抱きしめて……それから意識がない。

 となると、意識を失った俺のことをシャーロットさんがここまで運んでくれたんだろう。

 あれから意識は無かった────が。


「俺の伝えたいことがシャーロットさんに伝わった、そのことだけは覚えている」


 そう言いながら、俺はシャーロットさんのことを見た。

 ……眠っていても相変わらず綺麗な人────だ?


「……」


 シャーロットさんの胸元がはだけていて、俺は一瞬思考停止した。

 正確には、思考停止ではなく、俺はよくないことが頭を過っていた。


「ちょっと待て……この状況」


 シャーロットさんの部屋のベッドの上で二人、着ている服はバスローブ。

 そして、シャーロットさんはおそらく俺があるとだということを確信していて、はだけた胸元……そして、起きたらシャーロットさんが隣に居る。

 ……まさか────


「アル……?おは────アル!?おはよう!!」


 俺がよくないことを頭に過らせていると、シャーロットさんが起きたかと思えば、大きな声で挨拶してきた。


「おはようございます、朝から元気ですね」

「元気ですね、じゃないよ!私昨日アルが起きるまで眠らないといけないギリギリまで待ってたのに、アルったら全然起きなかったんだから!」

「あぁ……すみません、そのまま眠っちゃったみたいで」

「もう!」


 そう言いながらも、シャーロットさんはどこか嬉しそうな表情だった。

 シャーロットさんとは話したいことや伝えたいことなんかもあるが、その前に今の俺にとってはとても大きく重要な問題があったため、そのことをシャーロットさんに確認することにした。


「シャーロットさん、一つだけ確認しても良いですか?」

「え?待ってよアル、私は早くアルのことをあるとく────」

「シャーロットさんの言いたいことはわかりますけど、どうしても重要なことなんです」

「……うん、わかったよ、何?」


 俺は、さっきから頭に過っているよくない考えをシャーロットさんに伝え、確認を取ることにした。


「俺たちがバスローブ姿で、シャーロットさんの部屋のシャーロットさんのベッドで一緒に寝てるのって……もしかして、俺が知らない間にシャーロットさんが俺とそういうことをしたから、なんですか?」


 俺が恐る恐るそう聞くと、シャーロットさんは小さく笑って言った。


「ふふっ、違うよ、確かに悩んだけど、眠ってる間にそんなことしたら愛を感じ合えないからしなかったよ……それに、意識が無い間はまだアルのことをアルだと思って接しようって決めてたから」

「……それにしては、同じ部屋の同じベッドで寝てたのはどうしてですか?」

「それは、感情が抑えきれなくなっちゃって……ねぇ、もう良いよね?ようやく────」


 シャーロットさんが俺のことを抱きしめようとした時、部屋のドアがノックされ、部屋の前から声が聞こえてきた。


「シャーロット様、そろそろ学院へ向かう馬車が到着しましたので、朝食を取りに来てくださいませ」


 他の使用人の人の声だ……いつもは馬車が到着した時にまだ着替えも終わってないなんていうほどギリギリではないが、俺はのぼせたまま眠り、シャーロットさんはギリギリまで俺が起きるのを待っていたことによりいつもと比べ睡眠に入る時間が遅れたため、こんなにもギリギリになってしまったんだろう。

 その声が聞こえ一度は止まったシャーロットさんだったが、またも俺のことを抱きしめようとしてきた────が、俺はそのシャーロットさんの手を止めた。


「……どうして────」

「俺はまだフェアールです、なので……俺も、シャーロットさんも、この世界での俺たちとしてやることを終えてから、また夜にお話ししましょう」

「……昨日私のこと抱きしめるだけ抱きしめて意識失って、次の朝起きたと思ったらまだ我慢させるなんてね……こんなに私に我慢させて、夜どうなっても知らないからね?」

「お手柔らかにお願いします」


 とは言ったものの、シャーロットさんは全然お手柔らかにしてくれそうな雰囲気を見せてくれなかった。

 その後、俺とシャーロットさんは着替えてから一緒に朝食を食べ、馬車で学院に向かった。

 馬車に学院で向かっている最中、シャーロットさんは俺と腕を組んできた。


「シャーロットさん、俺はまだフェアール────」

「誰も見てないから良いの……アルの言う通り、学院が終わるまでは私はシャーロット、アルはアル……だけど、屋敷に帰ったら────」

「わかってます……その時は、ぶつけたい色々な感情を、全て俺にぶつけてください」

「……うん、それまでは……我慢、するから」

「はい……すみません、俺のわがままに付き合ってもらって、でも……曖昧な形じゃなくて、シャーロットさんとはちゃんと向き合いたいんです」

「……その気持ちぐらい、わかってるよ……だから、我慢してるの」


 そう言いながら、シャーロットさんは俺の腕に込める力をさらに強めた。


「本当、こんなに私に我慢させて……夜、私が何しても文句なんて言わないでね?」

「はい、言いません」


 こんな大きなわがままに付き合ってもらったんだ……今日の夜は、何をされても文句なんて言えるはずもない。

 その後、俺たちを乗せた馬車は、学院に到着した────俺は今日の夜を恐れている感情もありながら、どこか楽しみにしている自分も居た。

 そうか……きっと、俺も早くシャーロットさんに……麗城さんに、俺の気持ちを────

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