第33話 シャーロットさんの命
「アルがあるとくんだとしたら、私の体に触れるってだけであんなに恥ずかしがっちゃうんだったら、夜の仕込みが大変だね……逆に手慣れてたりしたらどこでその経験を積んできたのかをどんな方法を使ってでも吐いてもらって、どんな手を使ってでもその記憶を消してもらわないといけなかったからそれはそれで良かったんだけど……まぁ、私と愛を育んでいく間にそういうのは恥ずかしさから愛に変わっていくよね」
────真面目な話をすると思っていた俺は一瞬気が抜けそうになったが、シャーロットさんがあるとの話を俺にしているという時点で、シャーロットさんがふざけているわけじゃないことはわかる。
きっと、シャーロットさんは待ってるんだ……俺の方から前世について話し始めるのを。
さっきまではシャーロットさんの体が俺の視界に入らないようにして常に頭を使っていたが、今はお風呂に浸かっているためシャーロットさんの体は全く見えないため、今からは完全に話だけに集中することがでっきる。
……俺は、少し重たい口を開いて大事な話を始めることにした。
「シャーロットさん……もし、俺がそのシャーロットさんが前世で好きだった人だったとしたら、その時はどう思いますか?」
「嬉しい、かな……ううん、幸せって感じると思うよ」
「……それは、前世でシャーロットさんが命を絶って良かったと思う、ってことですか?」
俺は、心の底から俺の中で一番引っかかっていることを聞いた。
シャーロットさんが俺とこの世界で出会えて幸せと感じるのであれば、それはシャーロットさんが前世で麗城さんとしての命を絶って良かったと思うということだ……前世とはいえ、自分の死を肯定してしまう、俺が正体を明かしたらシャーロットさんにそんなことをさせてしまう、それが俺の中で一番引っかかっていること。
「命を絶って良かった、とは思わないよ……でも、あるとくんに会えたなら、そのことは嬉しいって思うかな」
「それは、前世で命を絶ったからこそですよね?じゃあ、前世で命を絶ったことを────」
「私は、自分が命を絶ったなんて思ってないよ……現に私は、今こうして私として存在してる、前世も今世も関係なく、今私は生きてるんだよ……それを命が絶たれるって言うのかな?ううん、私はそうは思わない…私の愛は、ずっと生き続けてるから」
「愛が……生きてる?」
「うん、もしこの気持ちまで失ってたら、私は命を絶ってたって言えるかもしれない……でも、この愛がある限り、私は生き続けてるよ……この愛だけが、私の全てだから」
シャーロットさんは、強い決意が宿った瞳で揺るがない表情、声音でそう伝えてきた。
愛がある限り、生き続けている……そうか。
俺は生命的な命ばかり気にしていたが、シャーロットさんはきっともっと別のものを大事にしていたんだ。
なら、俺も────シャーロットさんが大事にしているものを、大事にしていきたい。
今この瞬間から、正体を隠す理由がなくなった俺は、今からシャーロットさんに正体を明かすことにした。
「シャーロットさん……俺の────」
俺がシャーロットさんに正体を明かそうとした時、シャーロットさんは俺のことを真正面から抱きしめてきた。
……真正面から抱きしめられるというのは、言葉にするよりも後ろから抱きしめられること以上に心身が乱されてしまうもので、一瞬何を言おうとしていたのかが頭から吹き飛んだ。
そして、シャーロットさんは俺のことを抱きしめながら言う。
「アル……私のあるとくんに対する愛は、抱きしめるだけじゃ伝わらないほどに大きいんだよ?前世から続いてるんだから、他のどんな愛にだって負けるとは思ってないよ……私の愛は、命そのものだから」
シャーロットさんに何も着ていない状態で真正面から抱きしめられたことによって、シャーロットさんの魅力的な異性としての部分が俺の体に密着し、今までの俺がシャーロットさんや麗城さんに感じていなかった、もしくは感じていたとしても自覚てきていなかったもの……恋愛感情というものが強く作用してなのか、何を言おうとしていたのかと同時に、理性まで吹き飛んでしまった。
「だからね、もしアルがあるとくんなら、私の愛を────え……?」
シャーロットさんが話していることが耳に入らず、俺は思いのままにシャーロットさんのことを抱きしめていた。
だが、そこに恥ずかしいといったような感情はなく、ただそうしたいからしたというだけの行動だった。
「……アル?アルが私のことこんなに力強く抱きしめるなんて初めて────アル?」
「……」
シャーロットさんがお風呂に入って来るのを待つ時間、シャーロットさんに後ろから抱きしめられて体を密着させられたことによる急激な体温上昇、十分間の言い合いに、シャーロットさんのことを避けながら体を洗い、シャーロットさんの背中を洗ってからお風呂に浸かり、シャーロットさんに真正面から抱きしめられたことによってまたも体温が上昇して理性を飛ばしてしまうほどになった俺は────完全にのぼせてしまっていた。
「わ、私のこと抱きしめたまま意識失いかけてるの!?ほ、本当ならお風呂から出してあげないといけないけど……ア、アルから抱きしめられる貴重な機会を逃すのは……!」
朦朧とする意識の中でシャーロットさんのそんな声が聞こえた俺は、シャーロットさんに伝える。
「貴重、じゃない……」
「え?」
「もう……それが、普通、に……」
シャーロットさんに伝えたいことを完全に伝えきる前に、俺は肉体的疲労と精神的疲労の二つによって気を失ったが、最後に見えたシャーロットさんの表情が、俺に優しく微笑みかけるような表情だったことから、俺の伝えたいことが伝わったという確信があったため、俺は安心して意識を失った。
「……じゃあ、早く休ませてあげないとだよね……やっと気持ちが通じ合えたのに、アルが────あるとくんが起きるまで待たないといけないなんて、歯痒いね……でも、待つよ……あるとくんと会えるんだったら、私はいくらでも待つから……あるとくん、大好きだよ」
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