第32話 シャーロットさんは洗いたい
十分間の言い合いの後、どうにかシャーロットさんに俺のことを抱きしめるのをやえてもらうことに成功した俺は、次に俺の体を洗いたいと言い出すシャーロットさんのことを全力で避けて自分で体を洗った……シャーロットさんの体をできるだけ視界に入れないようにしたりもしていて、とにかく頭を使っていたから、今のところ本来ならリラックスできる場所なはずのこのお風呂場で、まったくリラックスできていない。
「どうして体洗わせてくれないの!?」
「自分で洗えるからシャーロットさんに洗ってもらう理由が無いです」
「でもアルは私の執事だから私がアルの体洗っても良いはずだよね!?」
シャーロットさんからその言葉を聞いた俺は、その言葉を利用して俺の意見を通す言葉を思いついたため、それを口にする。
「それを言うなら、執事だからこそ、形式的には主人に当たるシャーロットさんに俺の体を洗わせるなんてことはできないんです」
これなら、いくらあのシャーロットさんと言えども、シャーロットさん自身の言葉を借りているため反論の余地はないだろう。
予想通り、シャーロットさんが少し沈黙したところで、俺は続けて言う。
「そういうことなので、俺は少し離れてますから早く自分で体を────」
「確かに、一応形式的には執事になってるアルの体を私が洗うっていうのはおかしい話だよね」
「はい、そうです、だから────」
「でも、それならアルが私の体を洗うのは何もおかしくないよね?」
「……え?」
「だって、アルは形式的に自分が執事だから私がアルの体を洗うことを拒否したんだよね?じゃあ、執事のアルが形式的には主人に当たる私の体を洗うのは自然じゃない?」
────俺が言ったことを逆に利用された!?
まずい……これこそまさに、俺がさっき言った言葉を使われているため、俺に反論の余地がない……それなら、さっきの俺の意見を曲げることにはなってしまうが、目の前に迫っている危機を回避するためには仕方がない。
「俺はやっぱり心を改めました、俺たちはずっと一緒に過ごしてきたので、形式的なものよりも優先すべきものがあると思います……だから、主人とか執事とか、そういうものは関係ないと思います」
「そう、でも……関係ないなら、私はアルの体を洗っても良いってことになるよね?だって、私はアルの主人じゃなくなるんだから」
「っ……そう、かもしれないですけど、俺はもう体を洗い終わったので────」
「じゃあ私、明日の朝お風呂に入るから、その時はアルも私と一緒にお風呂に入って?その時には私が体を洗っても良いんだよね?」
……ダメだ、いつの間にかシャーロットさんに俺の体を洗ってもらうのか、それとも俺がシャーロットさんの体を洗うのかをしっかりと決めないといけない状況に追い込まれている。
どちらもかなり精神的な負担は大きいが、この二つならまだ俺の方でコントロール可能な────
「……形式的には主人であるシャーロットさんに俺の体を洗わせたなんてことになったら、他の貴族の人たちに顔向けできないので、俺がシャーロットさんの体を洗います」
「うん、お願いね」
もはや最初から、最後にはこうなることがわかっていたとでもいうように、シャーロットさんは特に感情を揺れ動かした様子もなくそう言った。
そして、シャーロットさんが俺の前に座ると、俺はシャーロットさんの後ろに座る……相変わらずシャーロットさんは、綺麗で透明感のある白色の肌をしていた。
「じゃあ、洗いますね」
そう言うと、俺はシャーロットさんの背中を洗い始めた。
それと同時に、シャーロットさんが話し始める。
「アル、私はタオルとか巻かずに来て、アルと何も隠さずに向き合いたいと思ってるのに、アルは腰にタオルを巻いてるのはどうして?」
「それとこれとは話が別です、シャーロットさんも他の人と入るときにこんなことしないでくださいよ?シャーロットさんがどうだったとしても、アナスタシア家の方に迷惑がいくかもしれないですから」
「異性でも同姓でも関係なくアル以外にこんな姿見せないし、異性に見られたとしても氷漬けにするから大丈夫……訂正、あるとくんとアル以外に、かな」
シャーロットさんは、どこか優しく微笑んでそう言った。
割とすぐに背中を洗い終えた俺は、シャーロットさんの背中をお湯で流して言った。
「洗い終わりました、浸かりに行きますか?」
「え?何言ってるの?まだ前も脚も洗えてないよ」
「……脚?じゃなくて、それよりも……前?」
「うん、首から胸とお腹に、脚まで全部だよ」
「首から胸、お腹────胸!?」
ありきたりなリアクションをしてしまった俺だったが、そんなことを現実に言われたら俺だってこうなってしまう。
「うん」
だが、シャーロットさんはあくまでも落ち着いた様子でそう返事をした────が、俺がもはや落ち着いていることなどできるはずもなく、立ち上がるとシャーロットさんに言った。
「すみません、俺……先に浸かってるので、体洗い終わったら来てください!」
それだけ言い残すと、俺はすぐにシャーロットさんの元から去ってお風呂に浸かりに行った。
「アル、私はアルがあるとくんだって確信してるよ……でも、わからない……どうして私にその正体を明かしてくれないの?こんなにも愛してるのに……アルが正体を明かさない間は、アルのことをアルだと思って接する、今はそれで我慢できてる……だから、私が我慢できてる間に────早く、正体を明かして……」
それからしばらくした後、シャーロットさんがお湯に浸かっている俺の元へやって来ると、シャーロットさんも俺の隣でお湯に浸かり始めた……シャーロットさんは、さっきとは打って変わってとても大事な話をするといった雰囲気になっていて……かくいう俺も、今から大事な話を始めようとしていた。
◇
今日で連載を始めてから一か月が経過しました!
この一か月の間でこの第32話までお読みいただいているあなたはきっとこの物語を楽しんでくださっていると思うので、その気持ちをいいねや☆、コメントなどで教えていただけると本当にうれしいです!
作者は今後もこの物語を楽しく描かせていただこうと思いますので、この物語を読んでくださっているあなたも最後までこの物語をお楽しみいただけると幸いです!
今後もよろしくお願いします!
◇
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