第17話 世界の常識
全講義が終わり、シャーロットさんと一緒にアナスタシア家の屋敷に帰ってきた俺は、着替えなどの身支度が終わったらシャーロットさんの部屋に来るよう言われていた。
あのシャーロットさんの雰囲気、まず間違いなく俺にとって嬉しい話でないことだけは間違いなかったため、俺はできるだけ遅く着替えを行なっていたが────
「着替え終わってしまった……」
こうなってしまった以上、俺はシャーロットさんの部屋に出向くしかない。
俺は重たい足を前に進ませてシャーロットさんの部屋の前に来ると、その部屋のドアをノックした。
「シャーロットさん、俺です」
「うん、入っていいよ」
部屋の中に居るシャーロットさんからそんな返事が返ってきたため、俺はシャーロットさんの部屋に入った。
……ここで「やっぱり用事ないから部屋戻っても良いよ」と言ってくれることを少し期待していたが、そんなことは起こらないらしい。
俺が恐る恐るドアを開けてシャーロットさんの部屋に入ると、シャーロットさんは椅子に座ったまま俺に微笑みかけてくれながら俺のことを出迎えた。
「じゃあアル、早速お話ししよっか」
「は、はい」
俺はシャーロットさんの対となる場所にある椅子に座ると、シャーロットさんと顔を向き合わせた。
……シャーロットさんは俺に微笑みかけているのに、相変わらず目だけが笑っていない。
「シャーロットさん、俺って今から説教とかされるんですか?」
怒られるなら怒られるで、ひとまず心構えだけは作っておきたかったためそう聞いてみた。
だが、シャーロットさんは首を傾けて言う。
「説教?ううん、ただちょっと確認したいことがあるだけだよ」
「え?あぁ、そうだったんですね」
確認したいことがあるだけということなら、俺が説教されるという心配はなさそうだ。
俺はひとまず、色々な想像が全て俺の妄想に終わったことに胸を撫で下ろし、一気に緊張が解けた。
「じゃあ、その確認したいことってなんですか?」
「その前に、アルに聞きたいことがあるんだけど、アルは浮気っていう言葉知ってる?」
浮気……そういえば朝にグレンデルさんとそんな話をしてからシャーロットさんの様子が変わったんだったな。
シャーロットさんがその前にと前置きしているように、ここは特に深い部分でもないだろうからそのまま答えよう。
「知ってますよ、知らないわけないじゃないですか」
「うん、私も知ってる……じゃあ、アルは同時に二人以上の異性と付き合うことをどう思う?」
「合意の上でないなら倫理的には良くないと思います」
「私もそう思う……浮気なんて絶対に許したらダメだし、もし自分の恋人がそんなことしたらもう二度とそんな気起こさないように徹底的に私のことを記憶の根底に刻みたいってなるよね」
そこまでは思わないが、実際に恋愛感情を抱いている恋人がそんなことをしていたらそうしたくなる気持ちも納得はできる。
……それよりも気になるのは。
「こんな当たり前のことを聞いて、シャーロットさんはその先に何を聞きた────」
俺が疑問を呈そうとしたところで、シャーロットさんはそれを気にも留めずに続けた。
「グレンデルの話だけを信じるわけにもいかなかったから、私も一応今日一日で学院の生徒と教師複数人に浮気っていう言葉について知ってるか、それと同時に二人以上の異性と付き合うことをどう思うかっていうのを聞いてみたの……そしたらなんて言ったと思う?」
……今は、とりあえずシャーロットさんの話を聞き届けるしかなさそうだ。
「グレンデルさんみたいなちょっと不思議な人じゃないなら、みんな俺と似たような回答をしたんじゃないですか?」
「人それぞれ色々と人との向き合い方とかは違ったけど、みんな共通してたのは────浮気っていう言葉を知らなくて、同時に二人以上の異性と付き合うことも基本的に良しとされてるの」
「え……?」
「当然だよね、だってこの世界の常識的な価値観は、できるだけ多くの人を産んで家の血を絶えさせないことを重視するのが普通なんだから」
さっきまで微笑みながら話していたシャーロットさんは、真面目な表情でそう言った。
みんな浮気っていう言葉を知らなくて、同時に二人以上の異性と付き合うのも良しとされてる……?
家の血を、絶えさせない……
「そろそろ私が何を言いたいかわかってきたかな?要するに、この世界では浮気っていう言葉を使ってる私とアルの方が異常で、同時に二人以上の異性と付き合うのがいけないことって思ってる私とアルの価値観の方が異常だってことなの」
「なるほど……でも、どうして俺とシャーロットさんだけ────」
そこまで言って、俺は思わず口を止めた。
俺とシャーロットさん……だけ?
……俺とシャーロットさんの、共通点は────
「そう、私たちだけ……おかしいと思わない?どうしてこんなにたくさんの人たちが居て私たちだけなんだろうね、まさかアナスタシア家で浮気はダメなんて言われてるわけないのに────どうして私とアルだけが、私の前世の世界の価値観を色濃く持ってるんだろうね」
「っ……!」
俺は、シャーロットさんが何を言おうとしているのかを理解し、思わず身を引いたが、その瞬間にシャーロットさんは俺に顔を近づけて来て言った。
「前は聞きそびれちゃったけど、今回はちゃんと答えてもらうよ……アル、本当は前世の記憶戻ってるよね?」
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