第18話 シャーロットさんの嘆き
────前世の記憶。
前にシャーロットさんに同じことを聞かれたとき、俺はそれを正直に答えたらシャーロットさんとの関係が変わるのではないかと予測して、そんなリスクを負ってまで俺が前世の記憶を思い出したことをシャーロットさんに伝える必要はないと判断し、結局俺が前世の記憶を思い出したということはシャーロットさんには伝えなかった。
だが、ここに来てシャーロットさんがまた同じことを聞いてきた……しかも今回は前回と違ってしっかりと思い出したのか思い出していないのかを答えないといけない。
そして……どちらかを答える、つまり本当のことを答えるか嘘を答えるかという二択になっているのだとしたら、俺は────シャーロットさんに嘘はつきたくない。
俺は、シャーロットさんの問いに答えるために口を開き、その問いに答えた。
「はい、十六歳の誕生日の日に思い出しました、前世の記憶」
「っ……!やっぱり、そうだったんだね」
そう言うと、シャーロットさんは俺に近づけていた顔を俺から離して続きを話した。
「アルが十六歳になった日から、私の中で彼とアルが重なるようになった……だから、アルも私と同じように十六歳の誕生日の日、私と同じように前世の記憶を思い出したんじゃないかなって思ったの」
「なるほど……でも、俺が前世の記憶を思い出してたとしても思い出してなかったとしても、シャーロットさんにはそこまで影響なかったと思うんですけど、どうしてシャーロットさんはそこまで俺が前世の記憶を思い出しているのかどうかが気になったんですか?」
「それは……アルが彼だったら良いなって思ってたから……ううん、今だって、きっとアルが彼なんだって思ってる」
「彼って……シャーロットさんが前世で好きだった人、ですか?」
「……うん」
そう小さく返事をすると、シャーロットさんは俺の右手に自分の左手を添えた。
そういうことか……今まで、どうしてシャーロットさんにはそこまで関係ないはずの俺の前世についてそこまで気になるのかどうかがわからなかったが、シャーロットさんは────そのシャーロットさんが好きだった人と俺のことを重ねて見ているからこそ、俺の前世がもしかしたらそのシャーロットさんの好きな人なんじゃないかという希望を抱いていたんだ。
……だが────シャーロットさんには悪いが、いち早くシャーロットさんが本当のその人に出会えるためにも、俺はシャーロットさんに酷なことを伝えないといけない。
「シャーロットさん……俺は、その人じゃないです」
「……え?」
「その人と理不尽な形で会えなくなってしまったシャーロットさんが、俺とその人のことを重ねて見て、さらに俺に前世の記憶があるってなったら、俺のことをその人と重ねて見たくなる気持ちもわかります……でも、俺はその人じゃないです」
「どうして……?まだ私が好きな人の名前も言ってないのに、アルにそんなことわかるはずないよ」
「シャーロットさんは、前世でその人が大好きだったんですよね?」
「うん、大好きだったよ……今でも大好き、だからようやく、前世の記憶を思い出したアルを……彼を、今の私の全てを使って、今度こそ私で満たしてあげ────」
「シャーロットさん、その人は……俺じゃないです」
何度もそう告げる俺によって、シャーロットさんの表情が暗く変わっていった。
そして、その表情と同様暗い声で言う。
「どうして……どうして、アルが私の希望を潰すようなことを言うの?それだけが……アルが彼であることだけが、私の唯一の────」
「シャーロットさんが前世で好きだった人のことは、絶対にシャーロットさんと一緒に探し続けます……でも、俺はその人じゃないんです、何故なら────前世の俺には、そこまで俺のことを好きで居てくれてる人、ましてや恋愛感情を向けてきてくれた人なんて一人も居なかったんです」
「……」
何かを言おうと口を開いたシャーロットさんだったが、その口からは何の言葉も出てこない。
そう……俺と楽しく一緒に過ごしてくれる人、高校の時で言えば麗城さんなんかがそうだったが、麗城さんは特に自分から話そうともしない俺と楽しそうに接してくれていた────だが、それは恋愛感情ではなかった……そんな素振りはなかったし、そんなことを伝えられてもいなかった。
そんな状態で恋愛感情だと思うのは、どう考えてもおかしな話だろう……だが。
「さっきも言いましたけど、シャーロットさんが前世で好きだった人のことは、シャーロットさんと一緒にどこまででも探しに行きます……だから、気を落とさないでください」
そう言ってみるも、シャーロットさんは表情を暗くしたまま、声を震わせて言う。
「私は、アルが……アルが、彼でいて欲しかった……」
「……すみません」
そのシャーロットさんの嘆きに対し、俺は謝ることしかできなかったため謝ると、シャーロットさんは首を横に振って言った。
「ううん、違う……アルが謝る理由なんてないよ、だって……まだわからないよ、そう……名前、名前!私が今から彼の名前を言うから、アルの前世の名前がその彼と同じだったら正直に教えて!」
シャーロットさんは、憔悴した様子でそう言った。
「……わかりました」
この質問には正直に答えよう。
シャーロットさんなら、俺が嘘をついているか本当のことを言っているのかぐらい、簡単にわかるだろう……そこで俺が本当のことを言っているとわかってくれた上で、俺がその人じゃないと知ればシャーロットさんも諦めがつくはずだ。
シャーロットさんが、重たい口を開く。
「彼の名前は……彼の、名前は……」
その人の名前を告げようとしたところで、シャーロットさんは顔を俯け、俺の右手を両手で握って言った。
「ダメ、言えない……これでもし本当にアルが彼じゃなかったら、私は……」
名前や通っていた高校などの詳細な情報を照らし合わせれば、確実に俺の正体がそのシャーロットさんが前世で好きだった人なのかどうかがわかる……わかってしまう。
シャーロットさんにとっての一筋の希望。
もしそれによって、本当に俺がそのシャーロットさんの好きな人でなかったら、シャーロットさんはその一筋の希望すら無くしてしまう。
……いつかは向き合わないといけないことだが、今は。
「シャーロットさん、今日はもう休みましょう」
「どうして優しくするの?私はアルのせいで────」
そこまで言いかけたところで、シャーロットさんは一度口を閉じて冷静になった様子で再度口を開いて言った。
「ごめんね、アルは何も悪くないのに……アルの言う通り、今日は休むよ……疲れてるみたい」
「……はい」
シャーロットさんがベッドに向かったのを見届けた俺は、シャーロットさんの部屋から出た。
今のシャーロットさんの気持ちを考えたら本当に胸が痛いが……それでも、今後のことを考えたら、早い段階で現実と向き合った方が良いはずだ。
俺も今日は少し疲れたため、自分の部屋に戻っていつもより少し早いが眠りにつくことにした。
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