第19話 グレンデルさんの詰問
「アナスタシア様〜!」
「今日も素敵〜!」
翌日、学院に登校すると、生徒たちがシャーロットさんに向けてそんな声を飛ばしてくる……それはいつもと変わらない────が、シャーロットさんの表情だけはいつもと違って、とても暗いものになっていた。
まだ昨日の精神的なショックから一日しか経っていないのだから、すぐに立ち直れという方が無理な話、むしろ学院に登校できているだけでもすごいことだろう。
そのまま俺とシャーロットさんが一緒に講義室に入ると、グレンデルさんが近づいてきて、シャーロットさんの顔を見て笑いながら言った。
「ふはははっ!シャーロット・アナスタシア!その暗い表情は公爵────」
俺はグレンデルさんが余計なことを言う前にグレンデルさんの口を塞ぎ、シャーロットさんの遠くに連れて来た。
「フェアール!なんのつもりだ!」
「シャーロットさんの顔を見たらわかったかもしれないですけど、今シャーロットさんは落ち込んでるのであまり変なことは言わないでください」
「変なことなど言うつもりはない、ただシャーロット・アナスタシアの様子がおかしいことには気づいていたから悩みがあるのならこの僕が華麗に解決してあげようとしただけだ」
それであの言い方は不器用すぎる気がするが、きっとそれがグレンデルさんということなんだろう。
「今回の悩みは、グレンデルさんには解決できないです」
「ん?シャーロット・アナスタシアの悩みの内容を知っているのか、ならば僕に教えてくれなんて無粋なことは言うまい、フェアール!今回も貴様が解決────」
「今回ばかりは、俺にも解決できません」
「なん……だと?」
俺からその言葉を聞いたグレンデルさんは、驚きと動揺を同時に合わせたような声でそう言った。
そして、続けて言う。
「フェアールにも解決できずシャーロット・アナスタシアがずっとあのままであれば、僕の計画に支障が出る」
「そう言われても、この問題は他の誰かじゃなくて、シャーロットさんが自分自身で解決するしかないことなんです……ところで、前も言ってましたけど、グレンデルさんの計画ってなんなんですか?」
「ははっ!この僕が計画を他人に漏らす愚かな人間に見えるか?そんなことするわけがない────と言いたいところだが、貴様も僕の計画によって巻き込まれてしまう人間だからな、特別に僕の計画の一部だけを話してやろう」
グレンデルさんの計画……なんとなく聞いてみたものの、本当に興味があるのかと言われれば悩むところだが、聞くだけ損はないだろうからひとまず耳を傾けてみよう。
「僕の計画とは、シャーロット・アナスタシアを僕に惚れさせることによって僕とシャーロット・アナスタシアが結ばれ、僕の家とアナスタシアを一つの家にすることで結果的に僕の家も公爵家になるというものだ!」
「なるほど……一回聞くだけだとそれが計画の全てだと思えそうですけど、それでもまだ計画の一部なんですか?」
俺がそう聞くと、グレンデルさんは徐々に顔を青ざめて言った。
「あ、あぁ、と、当然だろ?こ、この僕が計画の全てをフェアールに全て話すなんて、間の抜けたことをするはずが……ない」
このグレンデルさんの反応を見てみるに、どうやら計画の全てを話してしまったらしい。
とりあえず、実現することがなさそうな計画だということがわかったから、ひとまずはそれで安心しておこう。
「じゃあ、とりあえず俺はシャーロットさんのところへ────」
「待て、フェアール」
俺がシャーロットさんの戻ろうとした時、グレンデルさんは俺の肩を掴んでそれを引き止めた。
「なんですか……?計画の話なら、もう十分教えてもらったので────」
「そうではない、シャーロット・アナスタシアのことだ……さっきフェアールは、シャーロット・アナスタシアが今抱えている問題は、シャーロット・アナスタシア自身によってしか解決することができないと言っていたな」
「はい、言いました」
「確かにシャーロット・アナスタシア自身で解決しなければならない点もあるだろうが、そこにフェアールができることはないというのは断じて間違いだ……少なくとも、それを探そうともせずに見切りをつけてできることがないと決めつけるのは、アナスタシア家の執事として愚行だと言わざるを得ない」
グレンデルさんにいきなり深いところを突かれて俺は少し驚いた俺だったが、言葉を絞り出してそれに対して返答した。
「……何と言われたとしても、今回の問題は、シャーロットさんが解決するしかないんです」
「では聞くが、そもそもフェアールは、シャーロット・アナスタシアが今悩んでいることを理解しているのか?」
「してますよ!俺はシャーロットさんが悩むことがわかっていても今後のシャーロットさんのことを考えたらって────」
「ではさらに聞くが、フェアールはシャーロット・アナスタシアのことを理解しているのか?」
まさか俺にそんなことを聞いてくるなんてな……シャーロットさんとは本当に小さい時からずっと一緒に居る、少なくともこの世界においては俺が一番シャーロットさんと時間を過ごしているし、この世界で一番シャーロットさんのことを理解しているという自信もある。
そんな当たり前のことを聞かれ、俺は少し感情的になってしまいながら言う。
「理解してるに決まってるじゃないですか!」
「そうか」
グレンデルさんは一度目を閉じてから、真っ直ぐ俺のことを見据えて言った。
「────フェアール、今から僕と戦ってもらう、異論は認めない……今すぐにだ」
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