第40話 麗城さんは失いたくない

「俺のことをもう外には出させないって、どういう意味だ?」


 固まりかけた思考の中で、どうにかそう聞いてみると、麗城さんがそれに答えた。


「どういう意味って、あるとくんの方こそ今さら何言ってるの?もし私が彼、あるとくんのことを見つけたら、その時はこの部屋から出させてあげないっていう話は前からしてたよね?」


 確かにそういった話はしていて、それが麗城さんに正体を明かせなかった理由でもあった……が。

 あの話をしてから色々とあって、フェアールとしての俺とシャーロットさんとしての麗城さんは、今では言葉では言い表せないほどの深い仲になった。

 だからこそ、俺の頭の中でその話はもう無かったことになっていて、すっかり頭から抜けてしまっていたということだ。


「……麗城さんは、今でも俺のことをこの部屋に閉じ込めたいって思ってるってことか?」

「当たり前だよ、むしろアルがあるとくんだってわかったなら、尚更そうしないと……あ、でも安心して?もし外の空気が吸いたくなったら、ちゃんと私が同伴でっていう条件で外には出してあげるし、毎日お風呂に入る時も私が一緒に入ってあげるから」

「麗城さん、俺は閉じ込められたくなんてない」

「あるとくんならそう思うってことはわかってるし、私だって本当はそんなことしたくない……でも、よく考えてみて?前も言ったけど、ちゃんと美味しいご飯を作ってあげるし、ちゃんと毎日あるとくんと交わってあげて、睡眠だってこのベッドで私と一緒にちゃんとできるんだよ?」


 ……確か、前にフェアールとして麗城さんと似たような話をした時、俺はこの麗城さんの言葉に対してプライベートな時間が無いと反論したが、最終的には逆の立場になったとしても、麗城さんは問題ないどころか、俺と一緒に居られる選択肢があるにも関わらず一人を選ぶなんていうことは無いという、前世から続く重みある言葉で終わったんだったな。


「一応もう一度聞いておくが、麗城さんが俺を閉じ込めたいのはどうしてだ?」

「あるとくんの安全のためだよ……前世みたいに、もし私の手の届かないところであるとくんがこの世界でも亡くなったりしちゃったら、私はもう本当に立ち直れない……今のこのあるとくんとの幸せが無くなる、そう考えただけで本当に怖いよ」

「この世界では事故を起こしたとしても馬車との衝突ぐらいで、馬車と衝突ぐらいなら俺の回復魔法ですぐに治せる」

「この世界だと事故だけじゃないよ、アナスタシア家の地位とか財産を狙うやつがあるとくんのことを人質にしたりして、あるとくんに何か酷いことをするかもしれない」

「俺はそんなやつに負けるほど弱くないつもりだ」

「わかってるよ……でも、やっぱり怖いの」


 そう言いながら、麗城さんはベッドから降りようとしていた俺のことを後ろから抱きしめてきて言った。


「あるとくんのことを失いたくない……あるとくんとずっと愛し合っていたい、私は本当にそれだけで良いの」


 それだけで良い、か……

 理論的な部分で麗城さんの理解を得ることはできたが、やはり最終的には感情的な部分をどうにかしなければダメだ……麗城さんの前世から続くこの感情を、受け止められるのは俺しかいない。

 でも、今の俺には俺と麗城さんの理想とする形を完全に再現するような案は思い浮かばなかったため、今は俺のことを後ろから抱きしめてきていた麗城さんのことを抱きしめ、互いに愛を感じ合った。

 ……麗城さんの温もりと愛情を感じる。

 きっと、麗城さんも今同じことを感じているだろう。

 ────これで良いんじゃないか?

 麗城さんは俺と愛し会えればそれで良いと言うし、俺だって麗城さんと愛し合うことができるのであればそれで良い。

 ……違う。

 それじゃダメだと俺の何かが否定してくるが、それを上手く言葉にすることができない。


「あるとくん……私、もっとあるとくんの愛を感じたい」


 今まで散々苦しんできた麗城さんに対して、さらにもっと悩ませ、苦しませるようなことを言うのは、酷なこと。

 俺はそんなことをしたくて、麗城さんに正体を明かしたんじゃない。

 ……それでも、ここで何も言わずに麗城さんの愛に応え、麗城さんと体を重ねたら、俺はもう戻れなくなるような気がしたので少しだけ抵抗を示した。


「……そういうことをするのは夜にしよう、先に朝食を食べたい」

「もう、焦らすんだから……でも、あるとくんがそうしたいって言うなら、私はそれで良いよ……じゃあ待っててね、私が朝食作ってきてあげるから」

「……あぁ、ありがとう」


 その後、麗城さんは服を着ると、朝食を作りに部屋の外へ出て行った。

 俺は一人残されたこの部屋の中で、俺は今後どうしていくべきなのか、今後麗城さんとどうなっていきたいのかを考えることにして、しばらくすると朝食を持った麗城さんがこの部屋に戻ってきた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る