第21話 シャーロットさんの前世話

 ようやく今日の全講義が終わり、俺とシャーロットさんは馬車で一緒にアナスタシア家の屋敷に向かった。

 その最中、シャーロットさんは何かを話そうと口を開いては口を閉じ、開いては閉じを繰り返していたが、俺に何かを伝える前に、馬車はアナスタシア家の屋敷に到着した。

 そして、いつも通りシャーロットさんは屋敷の中に入ると、シャーロットさんの部屋に入ろうとした────が。


「シャーロットさん、今から時間いただいても良いですか?」

「……」


 昨日から今に至るまで、シャーロットさんに話しかけなかった俺が、まさか話しかけてくるとは思っていなかったのか、シャーロットさんは目を見開いて驚いた様子だった。

 そして、続けて少し暗い様子で言う。


「こんなこと言うのも情けないんだけど、私……彼とアルが別人だってことをまだ受け入れられてないの」

「情けなくなんて無いです……ただ、俺はシャーロットさんのことを理解したつもりになって、シャーロットさんの助けになれる可能性を放棄してたのかもしれないと気付かされたので、今度こそシャーロットさんのことをちゃんと理解したいんです」


 真っ直ぐシャーロットさんのことを見てそう伝えた俺のことを見て、シャーロットさんは暗い表情ながらも少し笑って言った。


「アルはすごいね、昨日からまだ一日しか経ってないのに、大きく変化してるみたい……それに比べて、私は結局前世から一歩も前進してない、肉体はこの世界に居ても、それ以外は全部まだ前世の世界のまま……どうして、私はこんなに弱いんだろうね」

「それがシャーロットさんの前世での愛情なら、それは弱いんじゃなくて愛情が強いだけだと思います……なので、何も卑下するようなことはないです」


 俺がそう言うと、シャーロットさんは暗い表情をなくし、少し明るい表情になって言った。


「ありがとう、アル……ちょっと元気出たよ……時間、だよね……とりあえず、私の部屋に入って話す?」

「お願いします」


 シャーロットさんの部屋前廊下でずっと長話しているわけにもいかないため、ひとまず俺とシャーロットさんはシャーロットさんの部屋に入り、対面になるように椅子に座って話すことにした。

 そして、時間をもらうよう誘った俺の方からシャーロットさんに話しかける。


「俺はこの世界でのシャーロットさんのことはある程度理解できてると思います……でも、よく考えたら今のシャーロットさんの思考を形作っている前世のシャーロットさんのことは身の上ぐらいしか知らないので、そのシャーロットさんの前世のことをもっと理解したいと思ったんです……それによって、直接的にシャーロットさんの好きな人を見つけることができなかったとしても、何かシャーロットさんの助けになれるヒントが隠されてるかもしれません」

「アルが彼じゃないことを受け入れられない私だったらアルがそう言ってくれたとしても受け入れられなかったと思うけど、アルのこと見てたら、私もいつまでも立ち止まってるわけにはいかないって思えてくるよ……だから、どうして私が彼のことを好きになったのかとか、アルが聞いても意味ないことかもしれないけど、一応私の前世での名前とか、高校の名前とか、私の前世のことをアルに話すね」

「ありがとうございます、もしかしたらその情報のどこかに俺が知ってるものがあったら、助けになれるかもしれません」

「うん……アル、私もアルが前世でどんな感じだったのか聞いてみてもいい?」

「俺の前世、ですか?聞いても面白くないと思いますよ」

「ううん、聞きたいの……私もアルのことをもっと理解したい、それに────アルが前に私に言ったことで、ちょっとだけ引っかかってることがアルの」

「引っかかってる……?」

「私の感情的に、ってだけなんだけど……とりあえず、私が前世の話をした後で、アルの前世の話も聞かせてね」

「……わかりました」


 感情的に引っかかっている……その言葉は少し気になったが、今はとりあえずシャーロットさんのためにもシャーロットさんの前世の話を聞いて、シャーロットさんの前世で好きだった人、もしくはシャーロットさんの心の負担を軽くする……どんな方法でも、シャーロットさんの助けになることだけに意識を注ごう。

 俺がそう決めて、改めてシャーロットさんと向き合うと、シャーロットさんは前世のことを話し始めた。


「彼を好きになってからの彼に抱いた気持ちは話しだすとキリがないから、彼のことを好きになった経緯を話すね……アルには前も少し話したけど、私は前世で生きること自体が苦痛だった」


 その苦痛の理由は勉強も運動も容姿も整っていて、さらにお金持ちだったから、何も達成感がなく、関わってくる人は容姿やお金に釣られて関わってくる人ばかりだと。シャーロットさんが前に話してくれたな。


「それで、高校二年生になって初めて私に無関心な人……彼が現れた、普通の人なら私が話しかけただけで喜んでたのに────彼は、私の名前をなんとなくしか覚えてなくて、挨拶をしてきただけだった」

「『確か、何々さんって言うんでしたっけ、こんにちは』って言われたんですよね?」

「うん……アルが彼と同じことを言ったから、私はあの時からアルのことを本格的に彼と重なるようになった……なんて、そんなこと今はどうでも良くて、ここまでは前にも話したから、本題はここからだね────少し昔話……前世話になるけど、付き合ってくれる?」

「はい、いくらでも付き合います」


 俺は、ここからさらに深く意識を集中させて、シャーロットさんの話に耳を傾けることにした。

 ────だが、この時の俺は、シャーロットさんの助けになることしか考えていなかった……だからこそ、俺自身は全く心構えができていなかったんだ。

 シャーロットさんの正体、そして……シャーロットさんの好きな人の正体、それを聞くという心構えが……できていなかったんだ。

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