第6話 前世の面影
「き、記憶……?どうして、そんなこと聞くんですか?」
「いいから……答えて」
俺に前世の記憶が戻ったかどうか……そういえば、俺が倒れたことで俺のことを心配してくれていたシャーロットさんのことを変に混乱させて余計に不安にさせないためにも、記憶が戻ったことはシャーロットさんに伝えていなかったな。
それは、シャーロットさんが前世で好きだった人というので今頭がいっぱいだろうから、わざわざ俺の前世を伝える必要はないと考えてのことだったが……いざこうやって聞かれると、どう答えたものか────そんなことを考えている間に、馬車はアナスタシア家の屋敷に着いたようだった。
「屋敷に到着しましたので、どうぞ下車ください」
御者の方がそう言ったので、俺とシャーロットさんは一緒に馬車から下車した。
そして、その流れで他の使用人の人たちがシャーロットさんのことを出迎えに来たため、さっき馬車でシャーロットさんに聞かれた質問はうやむやになって、俺とシャーロットさんはそれぞれの部屋に帰った。
「前世の記憶を思い出したことを、シャーロットさんに伝えるべきかどうか……」
別に伝えても伝えなくても良いが、問題なのはどうしてシャーロットさんが突然あんなことを聞いてきたのかと言うことだ。
きっとシャーロットさんは俺の発言の何かから、俺が前世の記憶を思い出しているんじゃないかと予測を立てていた……そうじゃないとあんなことを聞いてくるはずがない。
……あの時、もし俺が前世の記憶を思い出していないと答えていたら今まで通りだったと思うが、思い出したと答えていたらどうなっていたんだ?
それによって、俺とシャーロットさんの関係は何か変わってしまうんだろうか……だとすれば。
「今は伝えなくても良いか」
もしどうしても伝えないといけなくなったら伝えることにするとしても、今はシャーロットさんの関係が変わる可能性というリスクを負ってまで前世の記憶を思い出したということをシャーロットさんに伝えないといけない理由はないため、俺は今は伝えないことに決めた。
そして、学院での時間が終わったと言っても、俺の自由時間はもう少し先だ。
俺は荷物を自分の部屋に置くと、シャーロットさんの部屋をノックした。
「シャーロットさん、俺です」
「入っていいよ」
部屋の中からシャーロットさんがそう言ってくれたため、俺はシャーロットさんの部屋の中に入る。
すると、シャーロットさんは少し申し訳なさそうに言った。
「アル、さっきは変なこと聞いちゃったね、気にしなくて良いから」
「わかりました、気にしません……それより、今日もいつも通り何か俺に執事としてして欲しいこととかがあったら言って欲しいんですけど、何かありますか?」
「じゃあ私もいつも通り言うけど、ないよ、私はアルとできるだけ対等な立場で居たいんだから」
対等な立場……気持ち的には俺もそれで構わないが、この貴族制度というものがある以上、公爵貴族であるシャーロットさんとその執事にすぎない俺が対等な立場になると言うのは、かなり難しい話だろう。
「そうだアル、今日の魔法学の講義内容わかった?」
「氷魔法を使われたら瞬時に炎魔法で溶かせば対処できるってところまでは」
「それって先生が三行目ぐらいに言った言葉だよね?」
「魔法学が悪いんですよ、今のみたいにわかりやすく言ってくれたら良いのに、後になると色々と型に嵌めていく感じの講義だったじゃないですか」
「……何かを型に嵌めるの、嫌い?」
「好きじゃないです、魔法学とかだと結局同じことを繰り返すだけ────」
俺がその理由を説明しようとした時、シャーロットさんは俺の口を塞いで声を震わせて言った。
「お願いアル、言わないで……それ以上、彼と同じようなことを……じゃないと私、彼のことを一番好きなはずなのに、彼が居ないからっていう不純な理由で、アルのことを……そんなのは、彼にもアルにも絶対にしたくないことだから……」
「……」
彼と、同じようなこと……やっぱり、その人と俺は少なからず似ているところがあるらしい。
そして、シャーロットさんがその好きな人と言うのに俺のことを重ねているように、俺も────何故か一瞬、シャーロットさんのことが彼女に見えた。
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