第8話 貴族と庶民の交流パーティー
貴族と庶民の交流場という名目でのパーティー当日、俺とシャーロットさんは馬車に乗ってそのパーティーが行われるとい大きな建物に到着して、早速その建物の中の長い廊下を歩きながら、そのパーティー本会場に足を進めていた。
「思ったよりも広いところなんですね」
「えぇ、一応侯爵家の貴族が主催しているみたいだから、このぐらいの広さはないと面目も無いのかな」
本会場に向かっている最中、俺は少し気になることがあったため、それを口にしてみた。
「それにしても、この建物、部屋がいっぱいあるんですね、この廊下歩いてるだけでも五歩の間隔ごとに一つの部屋がある気がします」
「あぁ、それは────」
シャーロットさんがその説明をしてくれようとした時、本会場へ向けて曲がり角を曲がろうとした俺たちだったが、その曲がり角とは反対の方向にある曲がり角の方から、男性の声と女性の会話する声が聞こえてきた。
「伯爵様、今夜、私のお相手をしていただけませんか?」
「ん?君は確か……あぁ、子爵の令嬢だったか、相手というのはパーティーのダンスかい?」
「いえ……夜のお相手を」
「ふむ……今回のパーティーは、あのアナスタシア家の中でも歴代最高峰の才覚を持つと言われているシャーロット・アナスタシア様に軽く挨拶をするのが目的だが、君の家が生業としていることにも興味がある……その辺りの話も含めて、お相手しよう」
「まぁ、ありがとうございますわ」
そんな会話と共に、ドアが閉まる音が聞こえてきた。
「シャーロットさん、あれって……」
「まぁ貴族の世界じゃ日常茶飯事だけど、特にこういうパーティーとかだと普段関われない人とも関われるから、一番手っ取り早く関係を持てる手段を取ろうとする人が特に多いの、もし部屋が防音じゃなかったら、この建物の部屋だけでもずっと喘ぎ声とか聞こえてくるんじゃない?」
フェアールとしての記憶しかない時は、特にそういったことに何か疑問を抱いたりすることはなく、そういうのが大人としての当たり前のコミュニケーションだと思っていたが、前世の記憶が戻った俺からしたら、かなり異常な事態だ。
だが、この世界に来てもう十六年も過ごしているため、今更それに対して何か不快感を抱いたりすることはない。
そんな少し大人な世界に触れてみたところで、俺とシャーロットさんは一緒にパーティー本会場に足を踏み入れた。
「まぁ、見て!アナスタシア様よ!」
「本当に参加なされるなんて……!」
シャーロットさんがパーティー会場に足を踏み入れるだけで貴族の人がこういう反応をするのはわかっていた────が。
「お、おい見ろ!俺たち庶民じゃ一生に一度拝めるかわからないアナスタシア家の人だってよ!」
「な、なんて綺麗な人なんだ……」
どうやら、アナスタシア家というのは、庶民の人にも何か悪評があったりはしないようだ。
「庶民の人も居るなら、執事連れてると余計な妬みとかを与えちゃうかもしれないから、アルは私から離れて適当にパーティー楽しんでて」
「わかりました」
俺はシャーロットさんから距離を取ると、改めてパーティー会場を見渡した。
その会場にはたくさんの食べ物が置いてあって、貴族の人と庶民の人が文字通り交流している。
聞こえてくる会話内容は、貴族の人の商業の流通話や、庶民の人の自営業、好きな異性の話や貴族の人の噂話など、その会話内容は多岐に渡っていた。
俺がそんな会話に耳を傾けながら適当に歩いていると、隣から突然大きな声で話しかけられた。
「探したぞフェアール!」
「あぁ、グレンデルさん」
学校の時とはまた違う白と金色のものでできた高そうな服を着たグレンデルさんが話しかけてきた。
「まずは僕との勝負から逃げなかったことに敬意を払おう……だが!そのせいで、貴様は辱めを受けることになる!」
「はぁ……確か、勝負するんでしたっけ?」
「そうだ、勝負内容はどちらがより多くの女性を射止めることができるか、だ!」
「それで、負けた方がシャーロットさんのことを諦める、でしたっけ?その意味がわからな────」
「問答無用!まずは早速、あそこに居る女性に話しかけるとしようか」
「え?もうですか?」
「当然だ!」
俺は無理やり腕を引っ張られると、グレンデルさんと一緒におそらく貴族だと思われる女性二人の元へ向かわされた。
そして、グレンデルさんが大きな声で言う。
「やぁ、麗しきレディ」
「え……!?」
「あ……!」
二人の女性は、グレンデルさんに話しかけられただけで、とても驚き、好奇の視線を向けていた。
……性格に色々と癖があるが、確かに顔は整っている方かもしれないからそうなるのも無理はない。
「今宵は僕と────」
「見て、アル様よ!」
「こんなに近くで見られるなんて……!」
「な……?」
二人の女性は、何故か俺に近づいてくると、とても目を輝かせていた。
グレンデルさんはとても困惑している様子だったが、それ以上に俺の方が困惑している。
「あの、すみません……人違いじゃないですか?俺は様をつけられるような身分じゃありません」
「何を仰っているのですか!あのアナスタシア家唯一の男性執事で、その力は広く知られていますよ!」
「謙遜ができる殿方は魅力的ですわ〜」
その後、俺は少しの間その二人の女性と会話をすると、軽く会釈してグレンデルさんと一緒にその場を後にした。
すると、グレンデルさんはすごい剣幕で言った。
「こ、今回は、僕から声をかけたからだ、今度はフェアール、貴様から女性に声をかけろ……そうすればきっと、今度も声をかけていない僕の方に女性は興味を持つはずだ」
という、謎の理論を突き立てられた。
……正直俺はそこまでこの勝負に対してあまり前向きではなかったが、一応アナスタシア家の執事として、その名を汚さないためにも一度引き受けた勝負から逃げるわけにはいかないため、俺はグレンデルさんに言われた通りに、女性に話しかけた。
「やぁうるわしきれでぃ」
勝負をするからには公平にしないといけないと思い、グレンデルさんと同じセリフを言った俺だったが、普段使わない言葉だったので少しイントネーションがおかしくなってしまった。
「まぁ、フェアール様────」
そして、その女性が俺の名前を呼んで話し始めようとした時、俺は横から殺気としか表現できない感覚を味わったため思わずその方向を振り向くと────
「アル、適当にパーティー楽しんでてとは言ったけど……そういう楽しみ方をしてなんて言った覚えはないよ?」
殺気が抑えきれずに、無意識的に冷気を放っているといった様子のシャーロットさんが居た。
あぁ……俺はこの世界でも、十六歳で亡くなってしまうのか。
だが、そう決まってしまったのなら仕方ないため、俺は死を受け入れた。
◇
この作品の連載が始まってから一週間が経過しました!
ありがたいことに、この作品は今【ラブコメ日間ランキング 16位】【ラブコメ週間ランキング 17位】となっていて、本当にたくさんの方から応援していただけていることを強く感じています!
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作者は物語をとても楽しく描かせていただいているので、あなたも引き続きこの作品を楽しんで読んでくださることを願っています。
今後もよろしくお願いします!
◇
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