第47話 幸せな明日

「おはよう、あるとくん」


 翌日、目を覚ますと、俺よりも先に目を覚ましていた麗城さんが、俺の頭を撫でながらそう挨拶してきた。


「おはよう、麗城さん」


 昨日は朝と呼べる時間帯に麗城さんと愛し合う行為を行ったが、夜は次の日からまた学院が控えているということで、朝と夜の両方にその行為を行うともしかしたらその明日に支障が出るかもしれないからと、俺たちは一緒に寝るだけに留めた……麗城さんはしたがっていたが、どうにか説得することができたということだ。


「今日からまたやることがいっぱいだね、昨日話してたことを実現するための組織編成の準備とか、学院での生活とか、アナスタシア家の人間としての役目とか、あるとくんと愛し合ったりとか……最後のは、私にとっては嬉しいものでしかないけどね」

「最後はともかくとして、本当にやることがいっぱいだ……でも、俺たちは前世だけに囚われることなく、今世のこの世界とも向き合っていく……だろ?麗城さん」

「うん、あるとくんと一緒に、ね」


 その後、俺たちはそれぞれ学院に行く時用の服に着替え終えた。

 そして、俺は麗城さんに伝えたいことがあったので、そのことを伝える。


「麗城さん、二人の時はともかく、学院の中では呼び方を────」

「わかってるよ、この世界の名前で呼ぶ、だよね?」

「そうだ」


 わざわざ確認する必要も無かったか……と安堵していると、麗城さんが身を乗り出して言った。


「ねぇあるとくん!昨日の夜提案した通り、私とあるとくんが恋人になったことを公表────」

「昨日の夜も言ったがそれはダメだ、公爵家の麗城とその執事が恋人になるなんて前代未聞だし、そもそもそのことを公表した後で事態を収束できるような準備も整ってない」

「え〜!じゃあ、あるとくんはやっぱりシャーロットとしての私には敬語で話してくるの?」

「それもこの世界と向き合うってことだ」


 まだ何も実績のない、ただのアナスタシア家の執事としての俺じゃ、アナスタシア家の麗城であるシャーロットさんと恋人であることを公表したとしても、受け入れてはもらえないだろう。


「でも────いつかはシャーロットさんと恋人だって公表しても良いような人間に成長してみせる……だから麗城さん、ずっと俺の隣に居て欲しい……もう俺は麗城さんから離れないし、麗城さんのことを離さないから」

「あると……くんっ!」


 麗城さんは、俺の名前を呼ぶと俺のことを強く抱きしめてきて言った。


「うん……!うん!私もあるとくんから離れたりしないし、あるとくんのことを離さないよ!あるとくん……大好き」

「俺もだ、麗城さん」


 麗城さんのことを抱きしめ返してそう言った後、俺と麗城さんは一度唇を重ねると、体を離して俺は言う。


「麗城さん、そろそろ朝食にしよう」

「うん、そうしよっか……ここ最近は、私がご飯作ってあげてたから、ちょっと久しぶりの食堂での私以外の料理だね……料理だけじゃなくて、昨日の山賊を倒しに行くために外に出たことを除けば、今日は久しぶりの外になるね」

「あぁ」


 これも昨日の夜話したことだが、麗城さんはもう俺のことを閉じ込めたりしないと言っていた。

 学院、組織編成など、様々な理由があるが、根本的な理由はもう俺のことを閉じ込めたりはしたくないということだった……もし俺の身に何かがあったらとはどうしても考えてしまいそうになるらしいが、そこは互いに支え合うこと、そして────俺が麗城さんのことを悲しませないためにも、絶対に自分の身の安全を守るため、もう麗城さんのことを悲しませない、ということを伝えると、そのことを信じてくれるということで話が落ち着いた。


「そうだ、私の料理ではないけど、ご飯を私が食べさせてあげるっていうのは私やめるつもりないからね?」

「え……!?」


 その後、有言実行で俺は朝食を麗城さんに食べさせられる形で取り、その後一緒に学院に向かった。


「見て、シャーロット様よ!」

「え!?シャーロット様!?」

「二日ぶりのシャーロット様は、いつも以上に綺麗に見えますわ……」


 俺たちが二日ぶりに学院に登校すると、周りの生徒たちはそんな反応を示していた。

 そして、そのまま講義室の中に入ると、グレンデルさんがいつものように話しかけてきた。


「フェアールよ、来たか」


 ……この感じも、二日ぶりなのにかなり懐かしく感じられる。


「はい、来ました」


 そして、俺の目を見たグレンデルさんが少し口角を上げて言った。


「もう、心配は要らないようだな」

「……おかげさまで」


 俺がそう答えると、グレンデルさんは上機嫌に言った。


「であれば!フェアールよ、約束通り僕と剣を使った勝負を────」

「アルは私のアルなんだから、グレンデルとの勝負なんかに時間使わせないでよ」

「なんか、だと!?シャーロット・アナスタシア!それはどういうことだ!」

「言葉通りだけど?」

「この……!」


 俺は、シャーロットさんとグレンデルさんの間に割って入って言う。


「二人とも、落ち着いてください!」


 相変わらずな日常だが、この日常こそがこの世界での日常で……俺たちが守るべき、幸せな日常だ。

 愛している人が居てくれるだけで、こんなにも幸せになれる。

 愛してくれている人が居てくれるだけで、こんなにも幸せになれる。

 だから俺は────麗城さんとの幸せと、この世界の幸せを守りたい。

 前世から続く俺たちの愛情は、どこまでも大きくなり続け、今世でこれ以上ないほどに愛し合っている。

 俺たちは、前世では生きられなかった幸せな明日を生きている……そして、この幸せな日常はまだまだ続いていく────



 この作品の本編は、この話を持って最終話となります!

 ですが、3月6日の18時15分に後日談としてフェアールとシャーロットのお出かけを描いたエピソードを投稿させていただくので、ここまでお読みいただいたあなたは、明日のエピソードもお読みいただくことを強くお勧めします!

 作者のこの作品に対する気持ちを語らせていただくあとがきなどは、明日後日談を投稿した後で投稿させていただくので、そちらの方は気になる方だけご覧いただければと思います。

 あなたがこの作品の本編最終話までをお読みくださって、今抱いている感想を言葉として教えていただけるととても嬉しいです!

 後日談の方も、是非お楽しみください!

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