第45話 重なる二人

 山賊が、このアナスタシア家の屋敷に……!?

 この世界に来てからもう十六年経っているが、そんなことは今まで一度も無かった……その理由は純粋に、この国でも一、二を争うほど偉い貴族でありながら、戦闘面……特に今は、魔力でも知識でも歴代最高峰の才覚を持つと言われているこの世界での麗城さん、シャーロットさんが居るからだ。

 使用人の人からそれを聞いた麗城さんは、俺のことを抱きしめながら言った。


「……山賊が侵入してきたってなったら、アナスタシア家の令嬢として、いくら何でもそれを無視することはできないね」

「そうだな、俺たち二人のことはまた後で話し合おう」


 俺と麗城さんは、それぞれ服を整えると、早速その山賊が侵入してきているという正門の真反対の場所に向かった。

 正門の真反対は一番護衛の人の人数が少ないところで、アナスタシア家に雇われている護衛ということだけあって確かな実力はあるものの、遠目に見る限り山賊の数と道具を使った戦い方に少し苦戦しているようだ。


「麗城さん!」

「わかってるよ、全員氷漬けにする」

「あぁ、行こう」


 俺と麗城さんは、その山賊と護衛の人が戦闘をしている場所へと走り出す。

 そして、その場に到着すると、俺は護衛の人たちのことを助けるようにして戦う。


「フェアール様……!と、シャーロット様!?」

「な、何故シャーロット様が自ら!?」

「私とあるとくんが抱きしめ合ってたのに、それを邪魔したんだから……どうなっても文句は言えないよね」


 そう言うと、麗城さんは山賊のことを片っ端から氷漬けにして行った。

 俺と麗城さんが来た後は、護衛の人たちも特に苦戦するようなことはなく、俺たちはほとんど一方的に山賊たちを倒すことに成功した。

 何故山賊がこのアナスタシア家に来たのかと聞けば、純粋に数で攻めて一つでも財産を奪うことが目的だったらしい。

 とりあえずこの問題が解決すると、護衛の人たちが全員俺たちにお礼を言って元居た場所に戻って行った中、その中の一人が改めて俺たちにお礼を言いに来た。


「シャーロット様にフェアール様、先ほどは本当にありがとうございました」

「気にしないで」

「いえ……少し照れ臭いのですが、明日は恋人の誕生日で、高値のプレゼントなんかも用意していたので、ここで死んでしまったら絶対に悔いが残るだろうなと考えていたので、本当に感謝してもしきれません」

「恋人にプレゼントですか……どんなプレゼントなんですか?」

「綺麗なものが好きな彼女なので、宝石をプレゼントしようかと」

「なるほど……恋人さん、喜んでくれると良いですね!」

「はい!今から楽しみです」


 そんな会話の後、その人は俺たちに一礼すると、その人も他の護衛の人たちと同様に、元居た場所へと戻って行った。


「俺たちは、一つの幸せを守れたってことだよな」

「そうだね……もしあの人がここで山賊にやられちゃってたら、その恋人の女の人は、きっと前世の私と同じように苦しんだのかな」

「あまり考えたくないが、そうだと思う……でも、だからこそ、今回はその幸せ一つ守れて良かったな」

「うん……あんな苦しい気持ちは、誰にもして欲しくないからね」


 さっきまで色々と意見が違っていた俺と麗城さんだったが、その点に関してだけは一致した────そうだ。

 俺と麗城さんは今日、一つの幸せを守ることができた……俺たちは、互いを愛するだけじゃなくて、他の人の幸せを守ることもできる、それだけの力もある。

 グレンデルさんの言葉「力を持っているにも関わらずそれほどまでに視野狭窄に陥る……そんなものは、愚かとしか言えないな」という言葉……あの言葉の意味が、今ハッキリとわかった……俺は今考え至ったことを麗城さんに伝えるために、麗城さんに話しかける。


「麗城さん、俺今思ったことがあるんだ」


 俺がそう話しかけると、麗城さんは俺に優しく微笑みかけるようにして言った。


「あるとくんの考えてること、あるとくんの顔見ただけでわかるよ……きっと私も同じこと考えてる……あるとくんの言った通り、自分たちだけ愛し合うってだけじゃダメみたいだね……きっと私は、私たちは────」

「「他の人たちの幸せも守りたい」」


 その言葉が重なった時、俺と麗城さんは互いのことを抱きしめ合った……今、俺と麗城さんは、身も心も重なっている。

 そうだ……俺は、俺の愛する麗城さんとの幸せも守っていきたい。

 お互いに口に出したわけじゃないが、麗城さんも俺と同じことを思ってくれているということを、抱きしめ合うことで生まれるこの温もりから、確信することができた。

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