第4話 シャーロットさんの救い

「あぁ、アナスタシア様……今日もなんて美しいんでしょう」

「他の美と呼ばれるものが無くなったとしても、あの方さえ居てくだされば我々は美を感じることができますわ……」


 エンパスト学園。

 それが俺たちの通っている学園の名前で、この学園では学的な教養や基礎的な魔力の扱い方を学習することが目的とされている。

 生徒の割合は貴族の人の割合が七割で、庶民の人の割合が三割ほどだろうか。

 そして、俺たち……正確には、シャーロットさんが学園に来ると、いつもこのようにシャーロットさんに見惚れる人が多発するという現象が起きている。

 そして、歩きながらシャーロットさんは話し始めた。


「もし彼がこの世界に来てるなら、多少何かのせいでズレがあったとしても、彼も私とほとんど変わらない年齢だと思うの」

「どうしてですか?」

「亡くなった時期が同じなら、この世界に生を持った時期も同じっていう簡単な推測」

「シンプルですけど、それはありそうですね」


 つまり、そのシャーロットさんが前世で大好きだった人のことを俺たちと同じ年代だと仮定して、その人のことを探すということか。


「その点、学園なら打ってつけだと思うの、同年代が集まるから」

「そうですね……じゃあ、この学園の中からその人のことを探すんですか?」

「そうなる、けど……ねぇ、アル」

「はい?」


 シャーロットさんは一度俺に気まずそうな目……というより、どちらかと言えば何かを探っている、疑っているという目で見てきた……が、すぐに目線を前に戻して言った。


「ごめんね、なんでもない……うん、この学園の中から探そうと思ってる」

「そうですか……でも、姿形も変わってる人を探すのは結構骨が折れそうですね、何かその人の特徴とか無いんですか?」

「そうね……数学が嫌いとか」


 俺はそのことにとても深く賛同した。

 何故なら、俺もその人と同じく数学が嫌いだから。

 あんな公式に決められた変わらないことをただ何度も繰り返すだけなんて、俺にとっては苦痛でしかない。


「他には────なんて、話してる間に、今日一番最初の講義場所……校内訓練所に着いちゃったね」


 校内訓練所、というのは、その名の通り学校内で剣や魔法などの訓練をすることができる場所のことで、今日は対人戦の講義らしい。

 他のクラスメイトたちも集まって講義の時間になると、早速先生が口を開いて今回の講義の時間の説明を始めた。


「この講義では、他国が侵略してくる際の防衛力を上げるために、対人戦の力を磨いてもらう……あくまでも講義のため、真剣や回復魔法などですぐに処置できないような魔法は禁ずる……ではそれぞれ、対戦したい相手を見つけるように」


 それだけ言うと、先生は俺たちから少し距離を取った。

 そして、シャーロットさんはすぐに俺に話しかけに来てくれた。


「アル、私と────」


 俺とシャーロットさんは、互いの力量をよくわかっているため、対人戦の練習という意味では俺たち二人で練習をするのはとても良い────が、金髪の高そうな服を着た男子生徒が、それを遮るようにシャーロットさんに話しかけた。


「アナスタシア、そんな執事なんかよりも僕と戦おう」


 そのシャーロットさんに話しかけた男子生徒というのは、位にすればシャーロットさんの家の公爵家の次に偉いとされている侯爵家の子息である、グレンデルさんだ。


「……なんか?執事、なんかって言った?」

「ん?あぁ、その執事のことを可愛がっているという話は本当だったのか、召使ならいくらでも居るだろうに、たかが一執事をそこまで重宝するなんて、そんな気概ではアナスタシアが公爵で居られるのも時間の問題────」

「公爵家っていうのに対して誇りは持ってるけど、今の私は前ほどその位に対して何か強い思いを持ったりはしてない……でも、アルのことを馬鹿にすることだけは絶対に許さない」

「じゃあ僕と、その公爵の名を賭けて戦ってもらおうか」

「良いけど……後悔しても知らないから」


 そしてその二人は戦った────結果はシャーロットさんの圧勝だ。

 もはや語ることもない、グレンデルさんが動き出した直後にシャーロットさんがグレンデルさんの両手足の関節部分だけを的確に凍らせただけで終わった。


「ぐっ……アナスタシアと、そこの執事、確か名前はフェアールだったな、覚えたぞ……!」


 そう言ってこの場を去ろうとしたが「……今は講義中だった」と呟いてから、この訓練所の隅に移動して、一応形だけでも講義は受け終えるようだった。

 ……あんな横暴な態度をしているくせに変なところで真面目なようだ。


「シャーロットさ────」


 俺がシャーロットさんの勝利を祝おうとした時、シャーロットさんは俺の頭を撫でながら言った。


「アル、大丈夫、大丈夫だよ……アルのことは絶対、私が守ってあげるから……アルの身には、何も危ないことは起きないから……だから、居なくならないで」

「……はい、俺は居なくなりませんよ」


 きっと前世で大好きだった人というのを俺を重ねているんだろうということはすぐにわかったが、それを俺が受け止めることでシャーロットさんが少しでも救われるならと、俺はそれを受け止めた……でも、本当にいつか本物のその人のことを見つけないと、シャーロットさんは本当の意味で救われることは永遠にない……シャーロットさんが前世で好きだった人のことを見つける、そのことが本当の意味でシャーロットさんの救いになるはずだ。

 シャーロットさんのために、早くその人のことを見つけないといけないな……

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