美人公爵令嬢が前世で病むほど大好きだった相手が、実は前世の俺ということを絶対に隠し通さないといけない件について

神月

第1話 前世で大好きだった彼

「……ねぇアル、前世って信じる?」

「……前世?」


 俺が執事として仕えている、この国で一、二を争うほど偉いとされている歴代アナスタシア家の類を見せないほどの才覚を持っていると言われているシャーロットさんが、ベッドに座りながら突拍子もないことを言い出した。

 前世って聞き慣れない言葉だけど、今の自分じゃなくて前の自分ってことだよな……


「すぐに答えを出すのは難しそうなんですけど、どうしていきなりそんなことを?」

「アルは私にとってこの世界で一番近い存在で、一番大切だと思ってるから、隠し事とかはしたくないから、アルにだけは、伝えたいと思ったの……それに、アルは明日で誕生日だから、たまにはこういう話をするのも悪くないでしょ?」

「俺は、シャーロットさんがするならどんな話だって悪いとは思いません」

「ふふ、ありがとう」


 そう言って、シャーロットさんは優しく微笑んだ。

 ……シャーロットさんはその綺麗な白髪と透き通るような白い肌で、顔立ちは美人としか言わざるを得ないほど整っていて、公爵という位もあって学院ではあまり笑顔を見せてくれないが、俺と家に居る時だけはその優しい笑顔を見せてくれる。

 そのことが、俺はなんだか嬉しかった。

 そんなことを考えていると、シャーロットさんは少し表情を固くして、真面目な声音で衝撃的なことを言った。


「私ね……この間の十六歳の誕生日の日、前世の記憶を思い出したの」

「……え?」


 記憶を……思い出した!?


「前世、日本っていう場所で高校生として学校生活を送っていた記憶……それだけじゃなくて、前世で過ごしたこと全部、思い出したの」

「ニホンっていう場所で、コウコウセイ?コウコウセイっていうのは、貴族制度みたいなものですか?」

「ううん、前世では貴族制度は無かったよ」

「え!?き、貴族制度が無いってことは、む、無法地帯だったってことですか?」

「そういうわけでもないんだけど……やっぱりいきなり前世とかって言っても難しいよね、ごめんね混乱させちゃって」


 そう言って申し訳なさそうにするシャーロットさんに、俺は首を傾げて言う。


「シャーロットさんが謝ることなんて何も無いと思います、むしろシャーロットさんのことをもっと知れるなら聞きたいです!」

「そう……本当、私いつもアルに助けられてる、ありがとね」


 そう言って、ベッドに座っているシャーロットさんは、立っている俺の頭を軽く撫でた。

 そして、俺の頭から手を離すと続きを話し始めた。


「その前世でね、私……大好きだった人が居るの」

「シャーロットさんが、大好きだった人……?」

「うん……男性としてね」

「え!?」


 今までシャーロットさんは、様々な形で貴族の人から庶民の人まで恋愛的なアプローチを受けてきていたが、それらを全て興味なさそうに断っていて、俺にとってはシャーロットさんが誰かのことを好きになるというのはとても予想外なことだったため、俺は思わず驚いてしまった。


「彼のためだったら、身も心も全て差し出したいって思ってた」

「そこまで……それで、その人とはどうなったんですか?」

「────彼、事故に遭ったの」

「……事故?」

「大きな車……今でいう馬車に轢かれちゃってね」

「馬車……でも、それなら回復魔法を使えば回復できたんじゃ無いですか?」

「そう思うと、本当に便利に見えて不便な世界なんだ、あの世界って……私の前世の世界はね、魔法が無いの」

「ま、魔法が無い……!?」

「その代わり、魔法に似た技術は進歩してたんだけど……彼は、助からなかった」


 シャーロットさんは顔を暗くして言った……こんなにもシャーロットさんが暗い顔をしているのは初めて見る、きっとよほどその人のことが大事だったんだろう。


「彼と恋人になって、色々なところで楽しく遊んで、体も交わって……色々なことを想像してたのに、それがその事故一つのせいで無くなった……だから私はもう、生きる気力を無くして彼の後を────」

「もう良いですよ、シャーロットさん」


 さっきシャーロットさんにされたように、今度は俺がベッドに座っているシャーロットさんの頭を撫でながら言った。


「シャーロットさんがその人のことを大事だと思ってることは十分にわかりました、だからもう……苦しいことをわざわざ口にしなくても良いんです」

「アル……!」


 俺がそう言うと、シャーロットさんは俺のことを抱きしめて俺の体に顔を埋めて言った。


「会いたい、会いたいの……今でも一番大好きな彼に会いたい……でも、彼はもう……こんな記憶、思い出さなかったら良かったのに……」

「……きっと会えますよ」

「会えない……だって、彼はもう────」

「もしかしたら、その人だってこの世界に来てるかもしれません」

「っ……!彼が、この世界に……」

「はい、だから……探せば良いんです」

「でも……見つからなかったら?」

「その時はその時です」


 俺がそう返事をすると、シャーロットさんは俺から体を離して笑顔で言った。


「どうしてだろうね……本当にアルと一緒に居ると、心が温まるの」

「それなら良かったです」

「……明日の誕生日、盛大に祝うからね」

「ありがとうございます!」


 その後、俺はシャーロットさんの部屋を後にして、自分の寝室に向かった……そして、せっかくなので俺は、十六歳になる瞬間を味わうために0時まで起きることにして────いよいよあと数秒で0時になる時間となった。

 あと五、四、三、二、一────


「……え?」


 その次の瞬間、俺は強烈な目眩を感じて、その場に倒れ込んでしまった。

 この、景色……この、記憶は────



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