1 初めての戦争(7)
「うっ…」
硬いベッドで身じろいでいたマグディスは、そのうち目を開け体を起こした。
「気づいたか?」
そう声をかけるのは隊長だ。
「お前のお陰で、今日はもう敵は撤退した。撤退させるまでに敵を削るのが目標だが、そういう意味ではちょっと早すぎたな。まあでも敵の魔法武器をもう一本使用不能にしたのは価値があるし、ほとんど被害なく撃退できたのだから文句を言う奴はいないだろう。」
マグディスにとってはいっぺんに情報が入り過ぎて、よく分からない。そもそも寝起きというか激闘の直後なのだ。
「ええと、あの後敵は撤退したのですか?ちょっと何が起きたのか分からなかったんですが。」
「ああ。お前の剣から出た炎で、奴のハルバードの斧部分を溶かし切ったようだったな。一体どれほどの温度だったのやら。」
「でもまだアイツは生きてるんですか?」
「俺も良くわかっとらんのだが、周囲の奴が見えた分には、矢が飛んで来てお前の剣とぶち当たり、矢は折れたらしい。その矢が折れたまま再度お前に向かっていって、お前はそれを食らって吹っ飛んだんだとよ。剣は矢とぶつかった時にお前が取り落としたのを回収させてある。」
「例の、魔力遮断結界内で誘導するという、敵の魔法武器ですか」
「そういうことになるんだろうな。その矢が奴の命を救い、武器を失った敵は再度撤退した。…あそこで殺しておければ良かったが、高望みかもしれん。」
そう言って。一呼吸置く隊長。
何か思うところがあるのだろう。
マグディスがそう察するのは容易かった。
「お前を守ることもできなかった上に、お前がくれたチャンスをものに出来なかった。すまない。」
そう言って頭を下げる隊長。
「仕方がないんじゃないですか?アイツは昨日は本気じゃなかったみたいですし、今日は俺の剣も予想外の効果を見せたんですし。」
実際、マグディスが言う通り、全てが予想外だった。
クルドをマグディスに素通ししてしまったことはもちろん、特にマグディスが持っていた剣はそのクルドを退けるほどの魔法武器だったことだ。
マグディスとクルドの一連の攻防の後、隊長や副隊長が対応を考える一瞬の隙にクルドは撤退指示を出し、驚くほどの速度で撤退した。
結局、隊長と副隊長は、軍団魔術師であるマグディスが気絶してしまったが為に、追撃することも出来ずに帰還することになった。
なお、魔国軍側は、クルドが引くと他の魔国軍も合わせて引いていった。つまりは、魔国軍の本日の当初の目的は『マグディスの撃破』だったのだろうと思われた。援軍であるワルド騎兵隊の撃破も目的だったであろうが、アルディス軍の方でも軍団魔術師の数を減らすことを主眼に置いていることと併せて考えれば、答えは明白だった。
なので、隊長にとっては『マグディスを守れる明確な策を打てなかったこと』及び『マグディスに脅威となる戦力の排除』のどちらも出来なかったことは、謝るべきことだった。
「それに、その話は、俺だけにする話じゃないのでは?」
また、マグディスを守れないことは、結局のところ魔力遮断結界の消失を意味する。すなわち、間違いなく全滅するということだった。
よって、隊長が混乱の中、クルドの撤退を追わなかったことは正しい。気絶したマグディスを守って帰還し、その結果部隊全体を守ることに繋がった。
「隊長が出発前に言っていたことですが…まずは生き残ることを考えましょう。功績も、賞罰も、生き残ってこそと言っていた通りというのを今実感していますよ。」
「まあ、そういう意味では第一隊に比べればかなり状況は良いと言えそうだな。分かった。この話は帰還後にする。今はこれからのことを話すか。」
「俺は明日、出られるかどうか分かりませんね。どこも折れてはいないと思いますが、矢が当たったところがひどく痛いんですよ。」
「まあ、もうすぐウチの歩兵隊が到着するし、アルディス軍の方も追加での徴兵が集まってきたところだ。それでこちらの数は一気に増える。騎兵隊が出られずとも、大きな差は生まれないだろうよ。それを見て、向こうさんが引き上げてくれるんじゃねえかと思っている。」
「そうだと良いですね…。」
結局、この日にワルド軍歩兵隊が到着したが、翌日には魔国軍が拠点から兵を引き、防衛線は終結した。
マグディスの初めての戦争は、クルドと2回剣を交えて痛み分けで終わった。
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背景紹介7「コール・ランディス」
ワルド軍騎兵団第二隊隊長。ワルド共和国自体は3人の大公爵によって運営されているが、同盟は国として結んでいる。よって複数の大公の軍が集まっている。今回は、マグディスの養父であるヘムト侯爵家の騎士長で、騎士爵でもあるコールが隊長として抜擢された。非常に力強く、少々愚直だが頭も悪くはない。魔力は大多数のドワーフ族と同じくほとんどない。
なお、騎兵団第一隊の隊長と軍団魔術師はまた別の大公の旗下にあった。
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